「すみません、突然押しかけてしまって。もう事務所を閉められる頃だったんじゃないですか?」

「いや、別に構わねえよ。個人でやってる事務所だから時間の融通(ゆうづう)はきくし」

 内田さんはそう答えて下さった。一般企業ではないから、特に閉所時間なんていうのは決めていないのかもしれない。

「――誹謗中傷の投稿をしたのは、俳優の()(さか)リョウジさんだったそうですね。動機は僕への逆恨みだったとか」

「ええ。あの男、調べた限りじゃ所属事務所もクビになってて相当焦ってるみたいですよ。絢乃さんには会長就任の記者会見を見てからずっと目をつけてたみたいですね。彼女に取り入れば大きな仕事が転がり込んでくるって」

 答えて下さったのは真弥さんの方だった。「ふてぇ野郎だよな」と内田さんも同調して、彼女と視線を交わしていた。どうでもいいが、来客の目の前で恋人同士の空気を出すのはやめてほしい。

「……あの、今日、こちらへ訪ねてきたのはですね。調査が終わった後なのに、絢乃さ……会長が僕に内緒であなたと頻繁に連絡を取り合っているようなので、ちょっと気になって」

「……………………」

 本題を切り出すと、内田さんは何か後ろめたいことがあるように僕から目を逸らした。

「もしかしてあなた、彼女と浮気してるんじゃないですか?」

「「…………~~~~っ、アハハハっ!」」

 僕が指摘すると、彼も真弥さんもなぜか大爆笑した。どうして僕はこの二人からこんなに笑われているんだろうか。

「あー、ごめんごめん! なんかあんたに誤解させちまったみたいで申し訳ない! でも、それは絶対にねえから。依頼人には手を出さない、これ探偵の鉄則な。――絢乃会長と連絡を取り合ってるのは、三人でちょっとした作戦を立ててるからで……、あんたには内緒にしてほしいって言われてんだけどな」

「作戦?」

「ああ。あんたに話したら絶対に反対されるから、って。そんだけヤベえ作戦ってことなんだけどな、それでも彼女はやりたい、だからオレたちにも協力してほしいって」

 つまり、それだけ危険を伴う作戦ということだろうか。ケガをさせられる、もしくは彼女の貞操にも影響が……? だから彼氏の僕にも言えなかったのか?

「そんなに危険な作戦なら、あなた方も止めて下さいよ。分かっていて協力するなんて、そんな……恋人である僕を差し置いて」

「おっ、それがあんたの本心だな。でも、彼女の気持ちも考えてあげてほしい。彼女は心からあんたのことを守りたいって言ってた。『彼はわたしの大事な人だから』って。危険なことも承知でさ。ここまで言ってくれる女の子はなかなかいねえと思う」