――翌日も、僕は絢乃さんと会うことになっていた。会社はまだ休暇中だったが、デートのついでに出張の報告書を彼女に渡すつもりでいたのだ。

「――おはようございます、絢乃さん。さっそくですがこれ、神戸出張の報告書です」

 彼女が僕のクルマに乗り込まれると、僕はダッシュボードに置いていた大判のクリアファイルを彼女に手渡した。

「ありがと。でも、報告書くらいメールで送ってくれたらよかったのに。わざわざ持ってこなくても」

「いいんです。僕が絢乃さんに会いたかったんで。報告書はあくまでもついでです」

 僕がそう言って笑うと、絢乃さんも照れくさそうに「……そう」と言ってはにかまれた。……ああ、やっぱり可愛い。
 でも、この日の彼女は可愛いだけでなく、何とも言えない色香をまとっているように感じた。朝シャワーを浴びられたのか、柑橘系のコロンの香りに交じってシャンプーやボディソープの香りもしていた。
 ……やっぱり、僕も前日想像したとおり、彼女もひとりで自慰(じい)行為を……? この清純系の絢乃さんが?

「――あの、絢乃さん。ええと……、その、……絢乃さんにもやっぱり男性に対してムラムラしたりする気持ちってあるんですか?」

 勇気を振り絞って訊ねてみると、絢乃さんは「えっ!?」と声を上げた後かすかに顔をしかめられた。そして本当にかすかにだが、下半身をモゾモゾと動かしていた。
 僕にも女性経験はあるので分かったのだが、これは女性の性的な反応なのだ。美咲も僕との行為の前に、同じように下半身をモゾモゾ動かしていた。ということは……。

「そ、そりゃあ……わたしもオンナだからね。それなりには」

 絢乃さんはモゾモゾをごまかすようにそう答えた。そのため、僕の「もしかして」は確信に変わった。

「そうですよね……。じゃあ、そうなった時はどうされてるんですか? たとえば昨日とか一昨日の夜、やっぱりご自分で……その……」

 さすがに自慰行為をしているのかとはっきり訊ねる勇気はなかったので、オブラートに包んだような訊ね方になってしまった。が、その時僕は見た。彼女のモゾモゾした動きが、より激しくなっていたのを。ということは、彼女の性的反応が強くなったということだろう。
 動揺を隠せなかったらしい彼女に、僕はもう一度「絢乃さん?」と呼び掛けてみると、少し長い()が空いたあと「それはノーコメントで」とだけ答えが返ってきた。

 神戸では「もう少し待って」とおっしゃっていたが、本当は彼女だってすぐにでも僕と交わりたがっていたのだろう。でも言いだした手前引っ込みがつかなくなり、僕に対してムラムラした気持ちを人知れず自慰行為で晴らしていたのだ。