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 ――新幹線で品川駅に着いたのは夕方五時ごろで、僕と絢乃さんは駅前で解散となった。

「絢乃さん、どうやって帰られるんですか?」

 僕が訊ねると、寺田さんにお迎えを頼んだとの答え。そういえば、新幹線の車内で誰かにメッセージを送っていたような気がするが、あれはお母さまにだったのだろう。それとも寺田さんに直接送信していたか。

「僕も、実家には連絡しておいたので。誰か迎えに来ると思います。もしくはタクシーでも拾うか」

 平日だったので、父はムリだろう。母も一応運転免許は持っているし、兄はこの日休みだと言っていたので、どちらかが迎えに来てくれるだろうと僕は思っていた。

「――じゃあ、出張お疲れさま。今日はゆっくり休んでね。また明日」

「はい、お疲れさまでした。また明日」

 寺田さんが黒塗りのセダンで迎えに来られ、絢乃さんと別れて数分後。僕の目の前に見慣れない白の軽自動車が停まり、クラクションを鳴らされた。そして、運転席の窓から顔を出したのは……。

「出張お疲れさん、貢! 迎えに来てやったぜ」

「兄貴! どうしたんだよ、このクルマ」

「バカやろう。オレにだって中古車買うくらいの貯金はあるっつうの。店の開店資金とは別にな。――いいから乗れよ。あ、スーツケースは後ろの席に乗せときな」

「うん……、サンキュ」

 僕は荷物を後部座席に放り込み、助手席に乗り込んだ。

「――どうだった、絢乃ちゃんとの婚前旅行は?」

「な……んっ!? さっきは出張って言ってたじゃんか!」

「まあまあ、言い方なんかどうでもいいだろ。……んで、どうだったんだよ? 昨夜、絢乃ちゃんとやったのか?」

 兄のド直球すぎる質問に、兄の性格を知り尽くしていた僕もさすがにたじろいだ。

「……………………やってねぇよ。俺の部屋で、一緒にアイス食べて話しただけ」

「かぁーーっ! お前、そこは強引に押すところだろ! とんだチキン野郎だなお前は」

「やかましいわ!」

 さんざん好き勝手言ってくれた兄に僕は吠えた。

「でも、絢乃さんも俺とそうなりたい気持ちはあるって。ただ、もう少しだけ待ってほしいって言われた」

「へぇ……。絢乃ちゃん、意外と考えてることオトナだな。まぁ、お前ら二人が今はそれでいいってんなら焦る必要もねえよな。でも、案外近いうちにそうなるんじゃねえの?」

「うん……、そうだといいけど。俺にもガマンの限度ってものがあるし」

 この一泊二日で、僕は彼女の色香に完全にやられてしまったのだ。あとどれくらい自分の理性が働いてくれるのか、ちょっと心配だった。