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 ――水族館を思う存分堪能し、一階のフードコートで夕食も済ませた僕たちは夜の七時半ごろホテルに戻った。
 各々部屋に入り、僕はシャワーを浴びて持参していた部屋着に着替え――多分、絢乃さんもそうだっただろう――、テーブルの上にノートPCを広げて視察の報告書をまとめていた。

 とりあえず一段落したので休憩していると、ドアチャイムが鳴った。
 ……おかしいな、ルームサービスなんか頼んだ憶えないけど。そう思いながら「はい?」とドアを開けると、そこに立っていたのは真っ白なTシャツにショートパンツと黒のレギンス、その上からパーカーを羽織った絢乃さんだった。足元は素足に室内履きと思しきミュールで、何やら小さなビニール袋を手にしていた。
 鼻をかすめるのは、僕と同じボディソープとシャンプーのいい香り。ボディソープはホテルの備え付けだが、シャンプーはおそらく自前のものだろう。

「……絢乃さん! どうしたんですか?」

「湯上りのカップアイス、一階の売店で買ってきたから一緒に食べたいなぁと思って。入っていい?」

 ちょっとばかり色っぽいシチュエーションを期待したが、すごく無邪気な訪問理由に僕は拍子抜けしてしまった。

「アイス……ですか。頂きます。……どうぞ」

「おジャマしま~す♪」と言って入室してきた彼女は、ベッドの縁に腰掛けると僕にアイスを選ばせて下さった。僕はバニラ、彼女はストロベリーを選んだ。

「……貢、仕事してたの?」

「ええ。報告書を」

「ありがと。ホントはわたしがやらなきゃいけないのにね、いつもゴメンね」

「……いえ、別に。これくらいお安い御用です」

 二人きりの部屋で、甘いアイスを食べながらなのに会話はまったく甘い内容ではなく、僕は「色気ないよなぁ」とこっそりため息をついた。

「――貢が今何考えてるか、わたし分かるよ。この状況、『色気ないなぁ』って思ってるでしょ?」

「……………………はい」

 自分の浅ましさに自覚のあった僕は、神妙に頷いた。穴があったら入りたいとは、まさにこのことだ。

「貴方も大人の男の人だもんね。その気持ちは分からなくもないよ。……ゴメンね。わたしがまだ子供だから、貴方にガマンさせちゃって」

「そんなことは……。僕もそこらへんはキチンと理性で抑えてるつもりだったんですけど」

「わたしもね、ホントは貴方と早く次に進みたい。貴方と同じ気持ちなんだよ。だけど……もう少しだけ待ってね」

 知らなかった。彼女にも、僕とそうなりたいという願望があったなんて……。絢乃さんは僕が思っていた以上にオトナだった。

「分かりました。大丈夫ですよ、体の関係の方は焦らなくても。僕たち気持ちはちゃんと繋がってますから」

 彼女は「うん」としっかり頷き、部屋を出る時、僕といつもより深く長い口づけを交わしたのだった。