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――それから一ヶ月後の、五月の大型連休が終わりに近づいたある日。絢乃さんが、少し早めに僕のアパートで誕生日を祝って下さることになった。
午後から豊洲のショッピングモールでビーフカレーの材料とケーキを買い込み、プレゼントとして僕がリクエストしたスポーツウォッチも買って下さるという。そして、僕の部屋で一緒に料理をしてささやかなパーティーをしよう、ということだった。
絢乃さんは十八歳になって間もなくご自身名義のクレジットカードを作られ、その日の買い物の代金も遅めのランチ代もすべてカード決済して下さった。彼女の気前のよさが、いつか災いするのではないかと僕はヒヤヒヤしているのだが……。
その日、僕は絢乃さんから新学年になってできたというお友達を紹介された。短めのポニーテールと赤いフレームの伊達メガネがキュートな彼女・阿佐間唯さんは、篠沢グループの顧問弁護士である阿佐間先生のお嬢さんだという。
唯さんからの情報ではその日、あの小坂リョウジさんが映画の舞台挨拶を行っていたらしい。でも、絢乃さんが僕以外の男は眼中にないと言って下さったので、僕は安心した。だから、あの人が原因で後にあんな事態に陥ることになるなんて思ってもみなかった。
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――僕もお手伝いして完成した美味しいビーフカレーとチョコレートケーキで、二人だけのパーティーをして、ちょっとした新婚気分を味わった。……そういえば、二人でサイダーを飲んでいたが、絢乃さんは「炭酸が苦手だ」とおっしゃっていたような。
それはともかく、僕はそれが次のステップへ進むチャンス到来のように思ってしまい、いや待て待てと自分を諫めていた。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、絢乃さんが「結婚についてどう思う?」と逆プロポーズのような質問を投げかけてきた。
僕は彼女がまだ高校生だったことや、実家の家柄が篠沢家ほど裕福ではないことなどを言い訳にしてはぐらかそうとしたが、次の瞬間絢乃さんが本気を見せてきた。
「わたし、本気だよ」
彼女は真剣な目で僕を見つめた後、初めて彼女から僕にキスをした。その時の彼女は少し大人びて見えて、僕の鼓動が早くなった。
それでも、僕はまだ結婚に対して前向きになれなかった。彼女を愛していないからではなく、愛しているからこそ。過去のトラウマを引きずったままでは前に進めなかったのだ。それでは、彼女の本気に応えることができないと思ったから――。