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 ――そしてやってきた、絢乃さんの十八歳のお誕生日当日。
 学校はまだ春休み中だったため、彼女は朝からスーツ姿で出社されていた。元は僕の願望でありワガママだったのだが、それを叶えて下さった絢乃さんは本当に僕のことを愛して下さっているのだと思うと嬉しかった。

 新年度を迎えて三日目。絢乃さんは入社の挨拶に訪れる新入社員の応対をしたり、新入社員たちのリストに目を通したり、社内の改革を進めるための根回しをしたりしながら通常業務をこなされ、なかなかにハードな一日を過ごされていた。
 そして、お疲れの中迎えた夕方六時。

「――桐島さん、今日は夕飯どうしようか?」

 彼女がOAチェアーの背もたれに身を預けて伸びをしながら飛んできた問いかけに、僕は「待ってました」と小さく拳を握った。

「それでしたら、僕の方で決めて、すでに予約してある店があるのでそこでディナーにしませんか? 僕からのお祝いということで」

 実は前日のうちに、ネットで見つけたおしゃれだがリーズナブルな洋食屋さん(注:兄の店ではない)を予約してあったのだ。いつも絢乃さんにごちそうになりっぱなしだったので、たまには僕が美味しいものをごちそうしようと思っていて、彼女のお誕生日はそのいい口実だったのだ。「用意周到だ」と笑いたければ笑ってくれ。

 絢乃さんは僕が支払いを持って大丈夫なのかと心配されていたが、「たまにはいいでしょう? 僕に花を持たせると思って」と言ったら、そこは素直に折れて下さった。彼女は僕のプライドをへし折らないよう、そこは僕を立てようとして下さったらしい。
 プレゼントもちゃんと用意してあるというと、彼女は無邪気に「やったぁ♪」と喜んで下さって、この人は本当に可愛いなぁと僕はこっそり鼻の下を伸ばしていた。

 何だかんだ言ったとて、僕は健全な大人の男なのだ。彼女との関係はまだキス止まりだったが、十八歳ということは法律上成人となった彼女と、そろそろ次のステップに進みたいなと思い始めていたのはこの頃からだ。体の関係も、二人の関係でも――ただの恋人同士ではなく、結婚に向けてということだ。

 
 食事の最中、彼女にプレゼントのネックレスを渡すと、「一生の宝物にする」とものすごく喜んで下さった。
 シンプルだが可愛いデザインのネックレスは華奢(きゃしゃ)な彼女の首元にピッタリ収まり、やっぱりこれに決めて正解だと思った。
 ネックレスを着けて差し上げる時、彼女の白いうなじにドキッとなったのは僕だけの秘密にしておこう。