「こうなったら、何が何でもウチのグループを世界規模の大企業にしてやるんだから!」

 声高らかに宣言された彼女は、いつもプライドを持ってお仕事をされているからカッコいいんだと思う。
 その後、お返しを渡すためにしばらく会長室を抜け出して戻ってきた僕は、そんな彼女にスーツのポケットに忍ばせていた贈り物を差し出した。

「――絢乃さん、バレンタインチョコありがとうございました。これは僕からのお返しです」

 お返しを「要らない」とおっしゃっていた絢乃さんも、小川先輩が言っていたとおりでやっぱり嬉しかったようだ。ものすごく喜んで受け取って下さった。


 ちょうどその日、総務課のパワハラ問題にも進展があった。会長から依頼されていた調査を終えられた山崎専務が、会長室へ調査結果を報告しに来られたのだ。
 この問題を公表するつもりでいらっしゃった絢乃会長は、翌日からハラスメント被害に遭って退職した人たちや休職中の人たちのお宅を訪問し、実際の被害状況について話を聞き、「問題が解決したら会社に戻って来てほしい」と頭を下げて回られた。
 僕も運転手としてお供したが、みなさんは元同僚の僕がいた方が話しやすそうだった。そして、ほとんどの人が会社へ戻ってくることに前向きな答えを下さった。

 そして年度末である三月末、絢乃会長はマスコミ向けに記者会見を開き、ハラスメント問題を世間に公表した。
 会見の時、彼女は学校の制服ではなく大人っぽいスーツをお召しになっていた。彼女のスーツ姿が見たいと思っていた僕には願ったり叶ったりだったがそれはともかく。
 ハラスメントを働いていた島谷会長への処分が解雇ではなく依願退職扱いだったことには厳しい指摘を受けておられた会長も、そこは「罪を憎んで人を憎まず」の信念を貫いておられたことに僕は感服した。

 彼氏である僕のため、そしてこの会社で働くすべての社員たちのために世間の矢面に立って下さった若き会長に、僕は心からの感謝の気持ちを述べ、頭をポンポンして彼女を労った。

「よく頑張りましたね、会長」

「……うん。ありがと」

 それを嬉しそうに受け止め、頬を染めた彼女は財閥の偉大な会長ではなく、一人の女の子だった。素直でまっすぐな、本当に普通の女の子だった。そんな彼女を、僕はより一層愛おしく思うのだった。