「――僕と、お付き合いして頂けますか? 僕をあなたの彼氏にして下さい。お願いします」

 このセリフを僕から言ったのは、これが初めてではなかった。それまでの恋愛でも、告白したのは決まって僕からだったはずなのに、絢乃さんに対して言うのはそれと違う感覚だった。
 一生この女性について行きたい、彼女のことを守っていきたいという気持ち。――そういう気持ちが芽生えたのはきっと、彼女が僕の運命の人だったからだと今は思う。

「はい……、喜んで。こちらこそ、これからもよろしくお願いします」

 彼女は可愛くはにかみながら、それでもしっかりと頷いて下さった。生れて初めての彼氏が、こんな頼りない男でいいのだろうかと自虐的な気持ちが湧きつつも、大好きな女性と両想いになれて本当に嬉しかった。
 思えば日比野の時、こんな気持ちにはならなかった。遊ばれていることを承知の上で付き合っていたのだから、あの頃の僕はそこまで本気じゃなかったのだろう。なのに裏切られたと傷付き、女性不信になった僕はバカだ。もう、あの黒歴史はこれで忘れようと思った。それでも一度植え付けられてしまった女性不信というトラウマは、なかなか消えてはくれなかったが……。

 でも、絢乃さんは絶対に僕を裏切らないという確信があったので、僕の胸に飛び込んできた彼女をしっかりと抱きしめた。この人を絶対に離さないという決意を込めて。


 僕たちの関係は、社内では秘密にしようということになった。会長と秘書が恋愛関係だというのは世間的にスキャンダラスだし、社員たちに示しがつかないと絢乃さんが気にされていたのだ。

「そうですよね……。僕は別に気にしなくていいと思いますけど、秘密の恋愛の方がスリルがあっていいと思います」

 二人の年齢差のこともあるし、秘密のオフィスラブを楽しんでみるのも悪くないかなと僕は思ったのだった。


   * * * *


 ――その日の帰りにも、僕は絢乃さんをお家の前までお送りしたのだが、そこで嬉しい誤算が待っていた。

「……ねえ、桐島さん。よかったら、ウチで一緒に夕飯食べて行かない? ママにも今日のこと、報告したいから」

 なんと、思いがけない夕食のお誘い! 彼女と両想いになる前ならおこがましいと辞退していただろうが、晴れて彼氏となった僕にお断りする理由はなかった。彼氏が彼女の家にお邪魔するのは、カップルではごく普通のことなのだから。

「ええ、ではお言葉に甘えてお邪魔します」

 というわけで、僕は篠沢家の夕食のテーブルに加えて頂くことになった。