――真冬の夕暮れは早く、タワーに着いた五時ごろにはもう日が沈み始めていて、あたりはオレンジ色と薄紫色に染められていた。
 休日だったためかその日の天望デッキは人でごった返しており、西側の窓辺はキレイな夕焼けの写真をSNSにアップすべくスマホをかざす女の子のグループやカップルたちで賑わっていた。

「――ホントは、こんな人が大勢いるところで言うようなことじゃないと思うんだけど……。昨日はライン、返事返さなくてごめんなさい!」

 絢乃さんはその景色を楽しむことなく、大勢の人たちの目がある中で開口一番で僕にガバッと頭を下げられた。
 彼女はすでにかなりの有名人だったはずで、悪目立ちしてしまったらどうしようかとうろたえた僕は「頭を上げて下さい」と言おうとしたが、その前に彼女の方から顔を上げて下さったので少しホッとした。

「でもね、それにはちゃんと理由があるの。……最初のメッセージで返信しようとしたら、その後あんなこと書かれるんだもん。わたし、どう返していいか分かんなくなっちゃって。ただ、それは怒ってたわけじゃなくて、気が動転してたっていうか、パニクってたっていうか……。とにかく頭の中が真っ白になっちゃってて」

 僕の顔色をチラチラと窺いながら、誠実に理由を話してくださる彼女は本当に純真で可愛らしかった。
 初めて男性(僕のことである)からキスをされて、気が動転していたのは本当だろうし、そこがピュアな絢乃さんらしい。僕がチョコの感想だけを送っていればよかったのに、あんな余計なことまで送信したせいであの時の記憶が甦ってしまって余計に動揺してしまったのだろう。何だか申し訳ない。
 僕もそのアンサーとして、自分の想いをお伝えした。もしかしたら絢乃さんから嫌われてしまったんじゃないかと心配していたのだと。だから電話を下さった時は驚いたけれど嬉しかった、と。

 そこで彼女は、人を好きになったのが初めてだから、あなたの気持ちはちゃんと言葉にしてくれないと分からないとおっしゃった。キスなんて遠回しな行動では、彼女に僕の気持ちは伝わらなかったのだ。
 それでもわざとすっとぼけると、「初めて会った日から貴方(あなた)のことが好き。好き好き好きっ!」と半ばシャウトのような告白を受けた。顔を真っ赤にしてゼイゼイ息を切らしている彼女も可愛くて、この人を好きになって本当によかったと思った僕は、自分からも改めて愛の告白をした。
「それまでの恋愛がすべて()(せき)だったと思えるくらいに、絢乃さんのことが好きです」と。