――それから約十分後。僕はJR新宿駅前のベンチに座っていた、私服姿の絢乃さんを見つけた。
 本当は路上駐車はいけないのだが、彼女の目の前の路上にクルマを停めて運転席の窓を開け、声をかけた。

「――絢乃さん、お待たせしてすみません」

 本当はそんなにお待たせしていなかったと思うのだが、一応礼儀としてそう言っておいた。

「ううん、待ってないよ。っていうか謝らないで。呼びつけたのはわたしの方なんだから」

 このセリフは何とも心優しい絢乃さんらしい。別に呼びつけられたなんて僕は思っていなかったのに、彼女は自分を悪く言うことで僕に気を遣われたのだと思う。

「あ……、ですよね。絢乃さん、あまり長くクルマを停めておけないので、とりあえず乗って下さい。どこかへ移動しましょう」

 僕はそんな彼女を立て、彼女に乗って頂くために一旦クルマを降り、助手席のドアを開けた。


   * * * *


「あの、絢乃さん。――昨日は本当にすみませんでした」 

 運転席に乗り込んだ僕が、クルマのエンジンをかける前にまず彼女に謝罪すると、彼女は「ううん」と首を振っただけだった。彼女の様子からして、これは「わたしは怒ってないよ」という意味だと僕は解釈した。

 僕は彼女の服装に注目した。
 この日の絢乃さんの装いはピンク色のアーガイル柄が入ったベージュのハイネックニットに茶色いコーデュロイのロングスカート、焦げ茶のロングブーツにライトブラウンのダッフルコートというコーディネート。やっぱり、清楚系のファッションがお好みと見えた。が、ちょっと待てよ? 彼女はこの日、何をして過ごされていた?

「……というか、里歩さんとボウリングに行かれてたんでしたっけ。まさかその格好で?」

 言ってしまってから。「ヤベぇ、地雷踏んじまった」と思った。……が。

「『このロングスカートで?』って思ったでしょ。里歩にもおんなじツッコミされた」

「…………すみません」

「ううん。わたし自身、明らかに服選びミスったなって思ってるから」

 絢乃さんはそうおっしゃって、小さく肩をすくめられた。ロングスカートじゃ、さぞボウリングなんてしにくかったろう。
 そういえば、彼女は運動全般が苦手だとご自身でおっしゃっていたような……。多分、彼女も気にされているはずだし、今度こそ地雷を踏んでしまいそうだったので、ボウリングのスコアについて訊ねるのはやめておいた。