――朝食を済ませてから、僕は家を出た。まずはいつも絢乃さん用のコーヒー豆を提供してもらっている、実家にほど近いコーヒー専門店へ。
「――いらっしゃい……あ、貢くん。おはよう。いつものでいいかな?」
「おはようございます、マスター。お願いします」
カフェ巡りの時、僕は決まってブレンドをオーダーする。それプラス店によってはたまにスイーツも。
ブレンドコーヒーには店それぞれのこだわりが表れていて、その店の味が出ていると思うからだ。ちなみに、絢乃さんに飲んで頂いているのもここのブレンド豆である。
「……いつ飲んでも美味いっすね、ここのブレンド。明後日の朝、また豆もらいに来ます」
「ありがとう。君のところのボスも、ウチのコーヒーを気に入ってくれてるんだって? 嬉しいねぇ」
五十代前半のマスターが目を細めた。絢乃さんもこの店のコーヒーのファンになってくれたことを、心から喜んでいるようだった。
「はい。って言っても、ここの豆だってこと、まだ会長には話してないんですけど。僕から宣伝しておきましょうか?」
「ありがとうね。それも嬉しいが、いつか彼女と二人で飲みにおいで」
「…………はい、一応考えておきます」
彼女には昨日嫌われたかもしれないのに、と思った僕はお茶を濁した。飲んでいたのはコーヒーだが。
――結局、朝までソワソワしながら待っていたが、絢乃さんからメッセージの返事は来なかった。既読がついていたのに、である。それを世間では「既読スルー」というのだが、されて当然のことをした自覚はあったので僕に怒る資格はなかった。
彼女は絶対に怒っているんだと、その時の僕は思っていた。そして、週明けに待っているであろう最悪の事態まで想像してひとりで勝手に震えあがっていた。
『桐島さん、貴方には会長秘書の任から外れてもらうから。要するに、秘書をクビってこと』
『貴方には失望した。そんな人だと思わなかった。サイテー』
よくよく考えれば、絢乃さんがそんなことを言うような人ではないと分かっていたのに。彼女から既読スルーをくらったせいで、勝手に失恋フラグどころかクビフラグまで立ってしまったと思い込んでいたのだ。
その後は都内のあちこちでカフェに立ち寄り、ランチも済ませ、フラリと映画館に入った。たまたま上映時間に間に合った恋愛映画のチケットを買って一人で観ていると、ふとこんな呟きが漏れた。
「絢乃さんも一緒に観られたらよかったなぁ……」
ものすごく勝手だが、一人でいると考えるのは絢乃さんのことばかりだった。コーヒーを飲むのも、映画も、彼女と一緒ならどれだけ楽しかっただろうと。
「――いらっしゃい……あ、貢くん。おはよう。いつものでいいかな?」
「おはようございます、マスター。お願いします」
カフェ巡りの時、僕は決まってブレンドをオーダーする。それプラス店によってはたまにスイーツも。
ブレンドコーヒーには店それぞれのこだわりが表れていて、その店の味が出ていると思うからだ。ちなみに、絢乃さんに飲んで頂いているのもここのブレンド豆である。
「……いつ飲んでも美味いっすね、ここのブレンド。明後日の朝、また豆もらいに来ます」
「ありがとう。君のところのボスも、ウチのコーヒーを気に入ってくれてるんだって? 嬉しいねぇ」
五十代前半のマスターが目を細めた。絢乃さんもこの店のコーヒーのファンになってくれたことを、心から喜んでいるようだった。
「はい。って言っても、ここの豆だってこと、まだ会長には話してないんですけど。僕から宣伝しておきましょうか?」
「ありがとうね。それも嬉しいが、いつか彼女と二人で飲みにおいで」
「…………はい、一応考えておきます」
彼女には昨日嫌われたかもしれないのに、と思った僕はお茶を濁した。飲んでいたのはコーヒーだが。
――結局、朝までソワソワしながら待っていたが、絢乃さんからメッセージの返事は来なかった。既読がついていたのに、である。それを世間では「既読スルー」というのだが、されて当然のことをした自覚はあったので僕に怒る資格はなかった。
彼女は絶対に怒っているんだと、その時の僕は思っていた。そして、週明けに待っているであろう最悪の事態まで想像してひとりで勝手に震えあがっていた。
『桐島さん、貴方には会長秘書の任から外れてもらうから。要するに、秘書をクビってこと』
『貴方には失望した。そんな人だと思わなかった。サイテー』
よくよく考えれば、絢乃さんがそんなことを言うような人ではないと分かっていたのに。彼女から既読スルーをくらったせいで、勝手に失恋フラグどころかクビフラグまで立ってしまったと思い込んでいたのだ。
その後は都内のあちこちでカフェに立ち寄り、ランチも済ませ、フラリと映画館に入った。たまたま上映時間に間に合った恋愛映画のチケットを買って一人で観ていると、ふとこんな呟きが漏れた。
「絢乃さんも一緒に観られたらよかったなぁ……」
ものすごく勝手だが、一人でいると考えるのは絢乃さんのことばかりだった。コーヒーを飲むのも、映画も、彼女と一緒ならどれだけ楽しかっただろうと。