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 ――翌日の午後は、冬とは思えない暖かさだった。

「では、僕はそろそろ会長をお迎えに行って参ります」

「ええ、お願いね。行ってらっしゃい」

 僕は三時前に会社を出た。加奈子さんはいつも、絢乃さんが出社されるまで会長室で待たれていた。直接仕事を引き継ぎたかったから、だそうである。
 ――それはともかく、丸ノ内からクルマを走らせること二十分、八王子の茗桜女子の校門前に到着すると、絢乃さんはちょうど里歩さんとガールズトークに花を咲かせながら歩いて来られるところだった。それも、よくよく聞き耳を立ててみるとちょうどタイムリーにバレンタインチョコの話をされているではないか。

「――んじゃ、告るのは別にいいとして、チョコだけでもあげたら? 桐島さんってスイーツ男子だし、絢乃の手作りチョコなら喜んで受け取ってくれると思うよ」

「手作りねぇ……。やってる時間あるかなぁ」

 里歩さんからのアドバイスに対して、絢乃さんはチョコを手作りされることにお悩みのようだった。その前に、里歩さんが何かサラッとトンデモ発言をされていたように聞こえたが、それは聞き流すことにした。

「そこはまぁ、来週はテスト期間だし。休みの日もあるし? あたしも部活休みだし準備とか手伝ってあげられるから」

「うん……、じゃあ……考えてみようかな」

「――『考えてみる』って何のお話ですか? 絢乃さん」

 僕は彼女たちの会話をその部分からしか聞いていなかったことにして、僕の存在にまだ気づいておられなかった絢乃さんに声をおかけした。すると、オフィスでは冷静で落ち着いておられる彼女が思いっきり驚いて飛び上がっていた。
「早かったねー」と彼女が声を上ずらせたことも、いつもは部活に出ていてご一緒ではない里歩さんが一緒だったことも、僕はあえてスルーした。ガールズトークに男がおいそれと首を突っ込んではいけないのだ。


 会社へ向かう車内で、僕は絢乃さんに訊ねてみた。小学校からずっと女子校だった彼女に、チョコを差し上げる相手がいらっしゃるのかを。
 すると、里歩さんや広田常務、小川先輩など女性たちの他に社長と専務のお名前も挙がったがそこに僕の名前はなく、僕の分はないのかと肩を落としかけると、最後にこう言われた。「あと……ね、貴方にも。一応手作り……の予定」と。

「……えっ? 本当ですか!?」

 その言葉に、僕が小躍りしそうになったのは言うまでもない。