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――翌日から、わたしと貢は土・日返上で退職した人や休職中の人たちへの家庭訪問を敢行した。
「桐島さん、ICレコーダーって持ってる? 被害に遭ってた人たちの証言、録音しておきたいんだけど」
もしも彼が持っていなければ、家電量販店などで新しく購入しなくてはならないと思っていたけれど(もちろん、わたしの自腹で)。
「はい、持っていますよ。小川先輩から『いつ必要な時が来ても大丈夫なように、常備しておきなさい』と言われて、秘書室の研修が始まってすぐに自腹で購入してあったんです」
「へぇ……、そうなんだ。じゃあ、その分の代金も必要経費としてわたしから清算するね」
――そんな会話をしながら、都内の二十三区内や郊外に散らばる被害者のお宅を訪問して回った。わたしの服装はもちろん、いつもどおりの制服姿だ。
「こういう時くらい、スーツをお召しになってもよろしいんじゃないですか?」
彼は不思議そうにそんなことを言っていた。TPOをわきまえた方がいいという意味で言ったんだと思うけれど、実は「絢乃さんのスーツ姿も見てみたいな」という彼自身の願望も含まれているんじゃないかとわたしは勝手に想像していた。
「ママにもおんなじこと言われたなぁ。でもね、これはわたしのポリシーの問題なの。〝制服姿の会長〟っていうイメージを世間的にもっと定着させたいから。そのために就任会見もこの格好でやったわけだし」
「…………はぁ。こういうところが、加奈子さんもおっしゃっていたとおり頑固……いえ、何でもありません」
頑固、と言われてわたしは思わず助手席から運転席の彼を睨んでしまったけれど、彼が怯んだところでちょっと反省した。
「ううん、ママと桐島さんの言うとおりだわ。やっぱり頑固なのかなぁ、わたし」
尊敬していた父と同じ血が自分にも流れているんだ、と実感できるのは喜ばしいことだけど、こんな変なところは父に似なくてもよかったよなぁと、その一点のみはあまり喜べない自分がいた。
「まぁまぁ、会長。そんなに落ち込まないで下さい。自分のダメなところをすぐに省みることができるのはいいことですよ。それだけ絢乃さんは素直な人だということです。僕はあなたのそういうところも好きなんですよ」
「……うん。そっか、そうだよね。ありがと」
何だか途中から、呼び方が「絢乃さん」に変わったと思ったら、後半は秘書としてではなく彼氏としての意見だったらしい。
「はぁ…………、やっぱり調子狂うなぁ、もう」
「……? 何ですか?」
「別に、何でもない」
恋愛初心者のわたしは、職業上のパートナーでもある彼にこうやってコロコロ態度を変えられるとやりにくくて仕方がなかったのだ。