――それから一時間ほど後。わたしたち親子だけでお骨上げをして、ロビーで待っていてくれた貢の愛車で家まで送ってもらうことになった。

「井上の伯父さまも、今日のお葬式に来たかっただろうなぁ。お悔やみのメールはもらったけど」

 実の弟を亡くした伯父は、さぞ残念だっただろう。できることなら帰国して、一緒にお骨上げもしたかっただろうと思った。でも急なことだったので飛行機のチケットが取れず、泣く泣く帰国を断念したそうだ。

「そうねぇ。残念だけど、こればっかりは仕方ないわよ。今ごろ、海の向こうで別れを惜しんでいるでしょうね」

「うん……」

 小さな骨壺(こつつぼ)を抱え、後部座席で残念そうに肩をすくめた母に、父の遺影を膝の上で抱えたわたしは頷くしかなかった。でも、父と兄弟仲のよかった伯父のことだからきっと、休暇を取って帰国し、ウチに立ち寄って手を合わせに来てくれるだろう。


「――ねえママ、これからのことで、ちょっと相談があるの。桐島さんにも聞いてもらいたいんだけど」

 わたしは二人に、自分の中で温めていた新たな決意を話しておこうと思い立った。

「なぁに?」

「僕は運転中ですけど、ちゃんと耳だけは傾けているので大丈夫ですよ。おっしゃって下さい」

 彼はハンドルを握りながらも、わたしの話はちゃんと聞いていますよという感じで、わたしに話の続きを促した。

「うん、じゃあ言うね。――わたし、高校生と会長兼CEOの二刀流でいこうと思ってるの。どっちも頑張りたいから、二人にもぜひ協力してもらいたくて」

「分かったわ。絢乃が自分で決めたことなら、喜んで協力させてもらいましょう。で、具体的には何をしたらいいの?」

「まず、ママにはわたしの会長としての業務を代行してほしいの。学校に行ってる間、会長がいないことになっちゃうでしょ? 宏司さんは多分、鬼の首でも取ったみたいにそこを非難してくると思うから、その予防線ね」

「なるほど。あの人も当主である私には偉そうに言えないものね。いいわよ」

「ありがと、ママ。――で、桐島さんにはわたしだけじゃなくて、ママの仕事もサポートしてあげてほしいの。二人分の秘書の仕事をやることになるけど大丈夫?」

「大丈夫です。お任せください。総務でこき使われていたことを思えば、それくらい何でもないですよ」

 二人から秘書として頼られることは、ものすごく大変なことだと思うけれど。それすら楽だと思えるくらい、前にいた部署ではひどい目に遭わされてきたんだろうかと、わたしは胸が痛んだ。