「ふふっ……。本当は、わかってるの。わかっていたのよ」
それは始祖として崇められるのには充分すぎるほどの呪いだった。
「私は大予言者に選ばれた始祖ではなかったから」
大予言者の言葉は計り知れない力を持っていた。
英雄を始祖として祀り上げ、その力を帝国の為だけに使うことを強要した。
「本当の選ばれた英雄は私じゃなかったから」
マリーの名前だけは、予言された英雄のものではなかった。
本来ならば、マリーがいるべき場所には別人が立っているはずだった。
「それを私が奪ったのだから」
そして、それを守護神と崇める帝国の異常な姿は、異常として見られず、理想的な帝国の在り方として各国に広まっていった。
その恐ろしい連鎖もミカエラの望みだったのかもしれない。
「本当に残酷な人。――私の思いを知っていながらも、陛下は、九百年もの間、一度も降り立ってくれはしないなんて。一人で満足をしているの?」
零れ落ちる涙を拭いながら、呪いの言葉を吐き捨てる。
愛しているからこそ歪んでしまった言葉を受け止める人はいない。
「陛下、ここは貴方が望んだ理想郷じゃないの?」
それをわかっているのにもかかわらず、マリーは、歪んだ口元から呪いの言葉を吐き続ける。
「陛下に会えないというのならば、私はその理想郷を聖女として否定するわ」
ライドローズ帝国は七人の英雄により支えられてきた大国だ。
それは、犠牲の上に成り立つ理想郷であり、古の魔法文明を保つ驚異の国家でもあった。
「だから、お願いよ。陛下。もう一度、貴方に会いたいの」
それは帝国を愛したミカエラにより描かれた理想郷だった。
「穢れを知らぬ者には価値はないと切り捨てたのは、陛下よ」
腕を斬り裂き、血を流す。
「私は陛下の寵愛がほしかっただけなのに」
マリーの眼からは涙が零れ落ちた。
「貴方はそれを必要ないと捨てたから」
これを望んでいたわけではないと訴えるかのように涙が魔方陣を濡らす。
「だから、私だって捨ててあげるわ」
【物語の台本】を改悪する為だけに書き加えた魔法陣の一部が狂ってしまったことにマリーは気付いていなかった。
「陛下の大事な物を奪ってあげるわ!」
【物語の台本】を改悪する為の魔法陣はマリーの血で描かれている。
「あはっ! あははははっ!!」
【物語の台本】を改悪する魔方陣は完成した。
膨大な魔力を込められた魔方陣は瞬く間に暴走をすることだろう。
一歩間違えば帝国だけではなく、世界中を巻き込むことになる。
マリーはそのことを知らなかった。
「あは、はははははははははっ!!」
青白い光を放ち始めた魔法陣の中央に立つマリーはそう思ったのだろう。
一部が狂ってしまっていることに気付かないまま、マリーは笑い始めた。その目には大粒の涙が零れ落ちている。
「これで、これでいいのよ。ねえ、陛下。貴方の理想郷を壊してさしあげるわ」
彼女は正気ではなかったのだろう。
マリーも気付かない間に狂ってしまっていたのだろう。
「きっと、私の正義を認めはしないのでしょうね。いいのよ、いいの。それでもいいのよ」
血文字による魔方陣。
それは、かつて愛した人の描いた理想郷を壊す為だけに生み出されたもの。
「私は私の正義の為に立ったの」
帝国の崩壊を避ける為だけに、歴史が繰り返され続ける。
歴史の中に消え去った人々の意思を踏み倒し、帝国は強力な呪いを基盤として維持され続けている。
「陛下。貴方に恨まれて殺される為の正義を選んだの」
呪いの中に存在する帝国を壊す為に書き換えられた【物語の台本】は暴走をするだろう。
「貴方の大事な物を全部壊してあげるわ」
それは、きっと、彼女以外は望まない。
誰もが繁栄を望む。誰もが一時的な幸せに手を伸ばす。
その為ならば、繰り返しの歴史に気付かぬふりをしてきたのだ。
人間は同じ罪を繰り返す。そういうものなのだと、歴史を解釈してきた。
その流れを止める彼女の行為は、正義と言うべきか、自己満足と言うべきか。
……これでいいの。
涙を流しながらも魔方陣の中央に立つマリーの身体から光が抜け出していく。
魔力の放出だ。放出された魔力は魔法陣に吸収をされていく。
それを拒みもしないマリーは狂ってしまっているのだろう。
……私は九百年生きても本物の聖女にはなれなかったわ。偽物は偽物でしかなかったのよ。――あぁ、これは、彼女から力を奪った罰なのかもしれないわ。
【物語の台本】の改悪は帝国の平和の維持に大きな影響を与えるだろう。
それを知っていながらも、マリーにその呪詛の方法を教えた人物がいた。
七人の始祖による帝国の体制維持に疑問を抱き始めたマリーを唆した人物がいる。真の犯人と呼ぶべきその人は先の大戦にて命を落としている。
それは、マリーが禁忌と呼ぶべき【物語の台本】の改悪に手を出す切っ掛けだったのだろう。
辛うじて正気を保っているだけだったマリーの心を壊すのには、充分すぎる影響だったのだろう。
それは始祖として崇められるのには充分すぎるほどの呪いだった。
「私は大予言者に選ばれた始祖ではなかったから」
大予言者の言葉は計り知れない力を持っていた。
英雄を始祖として祀り上げ、その力を帝国の為だけに使うことを強要した。
「本当の選ばれた英雄は私じゃなかったから」
マリーの名前だけは、予言された英雄のものではなかった。
本来ならば、マリーがいるべき場所には別人が立っているはずだった。
「それを私が奪ったのだから」
そして、それを守護神と崇める帝国の異常な姿は、異常として見られず、理想的な帝国の在り方として各国に広まっていった。
その恐ろしい連鎖もミカエラの望みだったのかもしれない。
「本当に残酷な人。――私の思いを知っていながらも、陛下は、九百年もの間、一度も降り立ってくれはしないなんて。一人で満足をしているの?」
零れ落ちる涙を拭いながら、呪いの言葉を吐き捨てる。
愛しているからこそ歪んでしまった言葉を受け止める人はいない。
「陛下、ここは貴方が望んだ理想郷じゃないの?」
それをわかっているのにもかかわらず、マリーは、歪んだ口元から呪いの言葉を吐き続ける。
「陛下に会えないというのならば、私はその理想郷を聖女として否定するわ」
ライドローズ帝国は七人の英雄により支えられてきた大国だ。
それは、犠牲の上に成り立つ理想郷であり、古の魔法文明を保つ驚異の国家でもあった。
「だから、お願いよ。陛下。もう一度、貴方に会いたいの」
それは帝国を愛したミカエラにより描かれた理想郷だった。
「穢れを知らぬ者には価値はないと切り捨てたのは、陛下よ」
腕を斬り裂き、血を流す。
「私は陛下の寵愛がほしかっただけなのに」
マリーの眼からは涙が零れ落ちた。
「貴方はそれを必要ないと捨てたから」
これを望んでいたわけではないと訴えるかのように涙が魔方陣を濡らす。
「だから、私だって捨ててあげるわ」
【物語の台本】を改悪する為だけに書き加えた魔法陣の一部が狂ってしまったことにマリーは気付いていなかった。
「陛下の大事な物を奪ってあげるわ!」
【物語の台本】を改悪する為の魔法陣はマリーの血で描かれている。
「あはっ! あははははっ!!」
【物語の台本】を改悪する魔方陣は完成した。
膨大な魔力を込められた魔方陣は瞬く間に暴走をすることだろう。
一歩間違えば帝国だけではなく、世界中を巻き込むことになる。
マリーはそのことを知らなかった。
「あは、はははははははははっ!!」
青白い光を放ち始めた魔法陣の中央に立つマリーはそう思ったのだろう。
一部が狂ってしまっていることに気付かないまま、マリーは笑い始めた。その目には大粒の涙が零れ落ちている。
「これで、これでいいのよ。ねえ、陛下。貴方の理想郷を壊してさしあげるわ」
彼女は正気ではなかったのだろう。
マリーも気付かない間に狂ってしまっていたのだろう。
「きっと、私の正義を認めはしないのでしょうね。いいのよ、いいの。それでもいいのよ」
血文字による魔方陣。
それは、かつて愛した人の描いた理想郷を壊す為だけに生み出されたもの。
「私は私の正義の為に立ったの」
帝国の崩壊を避ける為だけに、歴史が繰り返され続ける。
歴史の中に消え去った人々の意思を踏み倒し、帝国は強力な呪いを基盤として維持され続けている。
「陛下。貴方に恨まれて殺される為の正義を選んだの」
呪いの中に存在する帝国を壊す為に書き換えられた【物語の台本】は暴走をするだろう。
「貴方の大事な物を全部壊してあげるわ」
それは、きっと、彼女以外は望まない。
誰もが繁栄を望む。誰もが一時的な幸せに手を伸ばす。
その為ならば、繰り返しの歴史に気付かぬふりをしてきたのだ。
人間は同じ罪を繰り返す。そういうものなのだと、歴史を解釈してきた。
その流れを止める彼女の行為は、正義と言うべきか、自己満足と言うべきか。
……これでいいの。
涙を流しながらも魔方陣の中央に立つマリーの身体から光が抜け出していく。
魔力の放出だ。放出された魔力は魔法陣に吸収をされていく。
それを拒みもしないマリーは狂ってしまっているのだろう。
……私は九百年生きても本物の聖女にはなれなかったわ。偽物は偽物でしかなかったのよ。――あぁ、これは、彼女から力を奪った罰なのかもしれないわ。
【物語の台本】の改悪は帝国の平和の維持に大きな影響を与えるだろう。
それを知っていながらも、マリーにその呪詛の方法を教えた人物がいた。
七人の始祖による帝国の体制維持に疑問を抱き始めたマリーを唆した人物がいる。真の犯人と呼ぶべきその人は先の大戦にて命を落としている。
それは、マリーが禁忌と呼ぶべき【物語の台本】の改悪に手を出す切っ掛けだったのだろう。
辛うじて正気を保っているだけだったマリーの心を壊すのには、充分すぎる影響だったのだろう。