――この世界は私が住んでいる世界にとても似ているようで、まったく異なった世界。

 真珠(ましろ)は考えていた。

 マッシュが教えてくれた。この世界の住人は、この世界を『エルセトラ』と呼んでいるらしい。とても聴き心地の良い素敵な名前だ。ここに来てから体の調子がとても良い。自分が病気で、ずっとベッドの上で寝ていただけの毎日が嘘のようだ。

 フランクは、青空に浮かぶ丸い雲の中心を結ぶように、雲のドーナツを作っていく。 

 もくもくした柔らかい塊を抜けた後、散り散りになる雲のかけらを見て、真珠は、去年の誕生日に初めて飲んだサイダーの泡のようだと思った。

 マッシュとクルックスはそれぞれに、ゆったりと時間を過ごしていた。

 マザーツリーから数えて、クルックスが三度目の正午を報せた日の夕暮れ、マッシュが言った。

「今夜の寝場所を探すついでに、ここら辺で一度降りてみてくれないか」

 フランクが困惑して答える。

「あれれ? どうしよう」
「どうしたんだい? フランク」

 マッシュの声につられて、真珠とクルックスも近づいてきた。

「陸地がね、見当たらないんだよ。困ったなあ。海に浮かんで眠ることもできるけど、寝ている間に潮に流されて、元いたところがわからなくなっちゃうよ」
「それは……おかしいなあ」

 マッシュはテーブルに地図を開きながら言った。

「パット先生からもらった地図によると……」

 Patt,T

 マッシュは地図の右下にサインされているブルーブラックのインクを、懐かしく指で撫でた。――自分がこの広い世界を見ようと一人旅に出たのは、師匠であるパット先生がいたからだ。そして一人迷子になっているフランクに出会い、旅の同行者となった。

 はじめてパット先生にこの地図を見せられたとき、自分の世界がいかに小さいのか、そしてこの世界がいかに広いのか衝撃を受けたのを思い出した。しかもこの地図は、エルセトラの一部ですべてではない。

「果実をもらったマザーの位置はここだ。それから三日西に進んでいるはずだから」

 マッシュはサインから指を離して左へ視線をやった。

「やはりここら辺はまだ大陸で、三角岬を抜けないと海には出ないはずなんだが……」
「追い風には乗ってないよ」

 フランクがどうしよう? と不安げに言う。

「三角岬?」

 地図をのぞき込む真珠に、マッシュが答えて言う。

「ああ、パット先生の古い友人が岬の灯台に住んでいるはずなんだ。この地図はこの大陸のことしか描かれていないから、この海の先のことはわからないんだ。彼なら何か知っていると思ったんだが」

「どうしよう。東に少し戻ってみる?」
「そうだな。少し大陸へ戻って情報収集してみるか」
「了解!」

 フランクがマッシュに返事をして、体を百八十度転回した時、それまでフランクの頭の上で、お尻の方角――東の大陸側を望遠鏡で眺めていたクルックスは、視界がぐるんと西に向かった途端に慌てて言った。

「ポッポー! ポッポー! マッシュさん、六時の方角に島を発見です!」
「どれどれ」

 マッシュは、フランクの頭の上にいるクルックスのところまで行き、望遠鏡を覗く。

「本当だ! 島がある……」
「フランク。すまないがもう一度進路を西に取り直し、あの島まで行ってくれるかい?」
「うん! わかったよ!」

 フランクは元気よく承諾し、再び百八十度度転回した。辺りはうっすらと暗くなり始めていた。