場所は変わって町の東口を出る一人の老人の姿があった。
老人の手には大きな吊り下げ袋が掛かっている。彼は時計職人のノラン。娘アマルの店を出た後、町の外を北へ向かいそのまま森を迂回するように歩いていた。
――フランクがこの中身を見たら驚くだろうな。
ノランはその中身を知っている。
森を大きく迂回し、目の前に大きな岩がいくつも転がっている場所が見えてきた。岩陰を抜けると、向こうに大きなフランクの姿が見えた。
「フランク!」ノランは大声でフランクの名前を呼んだ。
フランクは声に気がついて、辺りをキョロキョロとする。
大きな岩の隙間から老人が一人やってくる。老人はこちらへまっすぐ歩いてくる。近づくにつれ、ようやくフランクはそれがノランだと気づいて、大きな体をフワリと持ち上げた。
「あー! ノランさん? ノランさんだー!」
フランクが、辺りに柔らかい風を起こしながらノランのところまで移動する。
「やあ。元気にしてたかい? フランク。一人で大丈夫だったかい?」
「ぼくは大丈夫だよ。みんなは今森に行ってるんだけどまだ帰ってこないんだ。ところでどうしてノランさんがここに!?」
フランクは思いがけない久しぶりの再会にびっくりしながらも、とても喜んでいるようだった。
ノランは真珠たちに答えたように丁寧にフランクの問いに答えた。
「私はブルネラの出身なのだよ。古い友人に修理を頼まれて、戻ってきていたんだ」
ノランがフランクの不安を煽らないように気をつけながら説明する。
フランクを置いて森に入った三人は、ブルネラの男たちに見つかって追われてしまったこと。さらに町に逃げ込んだ真珠とクルックスにバッタリ遭遇して、今は娘のアマルのところで預かっているので無事なこと。ただし一人オトリとなったマッシュの行方がまだわかっていないこと。
「しかしマッシュのことは私に任せておけばいい。君たちは何も心配は要らない」
フランクはノランが丁寧に説明するのをしっかりと聞いていた。
マッシュが見つかり次第、皆揃ってここへ連れて来るから、もう少しだけここで待っててほしいとノランが告げる。
「うん。ノランさん。みんなをよろしくお願いします」
珍しくフランクが、丁寧な言葉を使った。
「ありがとう、フランク。では慌ただしいが私は行くよ。またすぐに来ると約束しよう」
そう言ってからノランは持っていた大きな吊り下げ袋を地面に置いた。袋の口を大きく開くようにして、よいしょっと底から大きな鉄板を取り出してフランクの前に置く。鉄板を覆うようにして箱がかぶせてあった。
「君には小さいだろうが……是非とも君に渡してくれと娘に頼まれたものだよ。娘はそれを徹夜で作ったんだ」
「え! なんだろう? 楽しみだな! 開けてもいい?」
「ああ! もちろん」
ノランはフランクの代わりに、上を覆っていた箱を外して中身を見せた。
フランクが目を輝かす。大きな白クジラのゼリー! 小さな飴細工のパラソルが挿してある。
「すごい! これぼくだ!」
ぼくだぼくだと繰り返して、フランクは右から左から、いろんな角度でゼリーを眺める。
「もったいなくて食べられなくなっちゃうよ!」
フランクは潮を吹き尻尾を左右に振り喜ぶ。
「娘と二人で君のために特別に大きな型を作ったんだ。ゼリーを作るのを、真珠とクルックスも頑張った! まあそれはきっと彼らも今頃初めて知って、驚いているだろうけどもね。喜んでもらえたなら、娘も喜ぶよ」
「ノランさん、ありがとう! 娘さんにありがとうって伝えてね! 二人にも!」
ノランの表情が緩む。まるで自分のことを褒められているようだ。
「娘はアマルというんだ。ああ、必ず伝えるよ」
ノランはニッコリ微笑んでその場を後にした。
しばらく歩いてからフランクの方を振り返る。岩の隙間から大きな白クジラと小さな小さな白クジラゼリーが見える。フランクは白クジラゼリーを目の前にして、ただニコニコといつまでも眺めているようだった。
老人の手には大きな吊り下げ袋が掛かっている。彼は時計職人のノラン。娘アマルの店を出た後、町の外を北へ向かいそのまま森を迂回するように歩いていた。
――フランクがこの中身を見たら驚くだろうな。
ノランはその中身を知っている。
森を大きく迂回し、目の前に大きな岩がいくつも転がっている場所が見えてきた。岩陰を抜けると、向こうに大きなフランクの姿が見えた。
「フランク!」ノランは大声でフランクの名前を呼んだ。
フランクは声に気がついて、辺りをキョロキョロとする。
大きな岩の隙間から老人が一人やってくる。老人はこちらへまっすぐ歩いてくる。近づくにつれ、ようやくフランクはそれがノランだと気づいて、大きな体をフワリと持ち上げた。
「あー! ノランさん? ノランさんだー!」
フランクが、辺りに柔らかい風を起こしながらノランのところまで移動する。
「やあ。元気にしてたかい? フランク。一人で大丈夫だったかい?」
「ぼくは大丈夫だよ。みんなは今森に行ってるんだけどまだ帰ってこないんだ。ところでどうしてノランさんがここに!?」
フランクは思いがけない久しぶりの再会にびっくりしながらも、とても喜んでいるようだった。
ノランは真珠たちに答えたように丁寧にフランクの問いに答えた。
「私はブルネラの出身なのだよ。古い友人に修理を頼まれて、戻ってきていたんだ」
ノランがフランクの不安を煽らないように気をつけながら説明する。
フランクを置いて森に入った三人は、ブルネラの男たちに見つかって追われてしまったこと。さらに町に逃げ込んだ真珠とクルックスにバッタリ遭遇して、今は娘のアマルのところで預かっているので無事なこと。ただし一人オトリとなったマッシュの行方がまだわかっていないこと。
「しかしマッシュのことは私に任せておけばいい。君たちは何も心配は要らない」
フランクはノランが丁寧に説明するのをしっかりと聞いていた。
マッシュが見つかり次第、皆揃ってここへ連れて来るから、もう少しだけここで待っててほしいとノランが告げる。
「うん。ノランさん。みんなをよろしくお願いします」
珍しくフランクが、丁寧な言葉を使った。
「ありがとう、フランク。では慌ただしいが私は行くよ。またすぐに来ると約束しよう」
そう言ってからノランは持っていた大きな吊り下げ袋を地面に置いた。袋の口を大きく開くようにして、よいしょっと底から大きな鉄板を取り出してフランクの前に置く。鉄板を覆うようにして箱がかぶせてあった。
「君には小さいだろうが……是非とも君に渡してくれと娘に頼まれたものだよ。娘はそれを徹夜で作ったんだ」
「え! なんだろう? 楽しみだな! 開けてもいい?」
「ああ! もちろん」
ノランはフランクの代わりに、上を覆っていた箱を外して中身を見せた。
フランクが目を輝かす。大きな白クジラのゼリー! 小さな飴細工のパラソルが挿してある。
「すごい! これぼくだ!」
ぼくだぼくだと繰り返して、フランクは右から左から、いろんな角度でゼリーを眺める。
「もったいなくて食べられなくなっちゃうよ!」
フランクは潮を吹き尻尾を左右に振り喜ぶ。
「娘と二人で君のために特別に大きな型を作ったんだ。ゼリーを作るのを、真珠とクルックスも頑張った! まあそれはきっと彼らも今頃初めて知って、驚いているだろうけどもね。喜んでもらえたなら、娘も喜ぶよ」
「ノランさん、ありがとう! 娘さんにありがとうって伝えてね! 二人にも!」
ノランの表情が緩む。まるで自分のことを褒められているようだ。
「娘はアマルというんだ。ああ、必ず伝えるよ」
ノランはニッコリ微笑んでその場を後にした。
しばらく歩いてからフランクの方を振り返る。岩の隙間から大きな白クジラと小さな小さな白クジラゼリーが見える。フランクは白クジラゼリーを目の前にして、ただニコニコといつまでも眺めているようだった。