ノランは朝の散歩と言って出掛けたが、多分昨日話していたとおり、フランクのところへ行ってくれたんだろうと二人は思った。自分たちに何かできることはないだろうか?
「町に出て情報収集するのは……やっぱり危険かしら?」
「そうですねえ。ノランさんにばかり頼ってもいられないですよね」
「アマルさんにも迷惑かけちゃうから、ここも出ていかなきゃだし、やっぱり町に出てマッシュを探さない?」
「ちょっと不安ですが、フランクさんはノランさんに任せて、わたくしたちはマッシュさんを探しに行きましょうか!」
二人は、町に出てマッシュを探すことにして一階に降りた。アマルが忙しそうにお店の準備をしている。
「忙しそうね……また迷惑かけてしまうから黙って行こうか」
アマルは、熱々のオーブンを開けたり、デコレーションをしたりしている。真珠は少しほっとした。――邪魔しちゃいけない。その考えをいい考えだと思う。
クルックスはハタと足を止めた。
「真珠さん、わたくしその考えには賛成できません。たとえ気まずくとも、きちんと感謝の気持ちを表すべきです」
クルックスのしっかりしたその言葉に、真珠は自分が恥ずかしくなった。少しだけ顔が熱くなる。
「そうよね」
「そうですとも」
「……ア、アマルさん! あの、私たち――」
真珠が勇気を出して声をかけると、アマルが作業の手を止め近づいた。
「あんたたち、まさか出掛けるつもりかい?」
「はい。あの、パンケーキ、ごちそうさまでした。とても美味しかったです。……それと」
真珠はお礼を言おうとした。が、言いかけた瞬間、アマルが覆い被せるように話を遮った。
「本当に悪かった!!」
びっくりして、真珠は伝えようとしていた言葉を失った。
「昨日、あんたたちが一生懸命仕込みを手伝ってくれてるの見てたらさ、なんか、よく知ろうともせずにあんたたちを拒否してた自分がものすごく恥ずかしくなっちゃってさ」
アマルは顔を真っ赤にして目をそらし、鼻を掻いた。
「父ちゃんがあんたたちを家に連れてきた理由が少しわかった気がするよ。本当にごめんな」
真珠の目に涙が溢れる。それに気づいたアマルが慌てると、クルックスは『おやおや』といったように羽をすくめた。
「お、おい! 真珠? どうした?」
真珠はアマルに言われて、はじめて自分が泣いているのに気づく。
「……わからない」
「なんだよ! じゃあなんで泣いてんだよ?」アマルがオロオロする。
「本当にわからない!」
真珠は吐き捨てるように口にした。涙が止まらない。
この感情はいったいなんだろう?
昨日まで怖いと感じていたアマルが突然優しくなったから?
嫌われてると思ってたのに、実は嫌われていなかったから?
アマルが素直に自分の非を認めてくれたから?
アマルのことを怖いと感じた自分が恥ずかしいから?
考えが渦を巻く。どれもしっくりくるようで、どれもしっくりこない。気持ちがぐるぐると現れては消えていく。ただ、胸の奥がじりじりと熱くて、涙が止まらなかった。
真珠はその答えを持っている。ただ、今の真珠にはその感情を表現するだけの言葉を持っていないのかもしれない。甘いメープルとシナモンの香る店の中で、真珠の止まらない涙をなんとか拭こうとアマルは慌てた。
クルックスは、その様子を何だか嬉しく思いながら、傍らで黙って優しく見守っていた。
「とにかく! 今、町に出ていくのはあたしが絶対に許さないからね!」
「でも、わたしたち、マッシュのために何かしなきゃいけないし、ここにいたらアマルさんたちにも迷惑をかけてしまうから」
「お父ちゃんが出ていく時にマッシュの話も聞いたよ。信じろって言われたんだろ? なら、信じてやらなきゃ。大丈夫! うちのお父ちゃんもついてるんだから、居所が分かるまで任せときゃいいのさ」
心配性で責任感の強いクルックスは、任せとけばいいというそのアマルの言葉を新鮮に感じていた。信じるってどういうことなのか。真珠はしきりに「でも」と繰り返している。しばらく聞いていたクルックスが口を開いた。
「そうですね。そうしましょう。では今日もお店の仕込みのお手伝いをいたしましょう!」
「本当かい? それは助かるよ! なんか無理矢理引き留めたみたいで悪かったね。でもきっとマッシュってやつは大丈夫さ」
アマルはとても喜んでいる。真珠はその嬉しそうなアマルの顔を見ながら、なぜかノランのどっしりとした背中を思い出していた。 大丈夫、そうね、きっとそうかもしれない。そして思い切って言った。
「わたしも手伝います!」
アマルは本当に嬉しそうな顔をした。
「町に出て情報収集するのは……やっぱり危険かしら?」
「そうですねえ。ノランさんにばかり頼ってもいられないですよね」
「アマルさんにも迷惑かけちゃうから、ここも出ていかなきゃだし、やっぱり町に出てマッシュを探さない?」
「ちょっと不安ですが、フランクさんはノランさんに任せて、わたくしたちはマッシュさんを探しに行きましょうか!」
二人は、町に出てマッシュを探すことにして一階に降りた。アマルが忙しそうにお店の準備をしている。
「忙しそうね……また迷惑かけてしまうから黙って行こうか」
アマルは、熱々のオーブンを開けたり、デコレーションをしたりしている。真珠は少しほっとした。――邪魔しちゃいけない。その考えをいい考えだと思う。
クルックスはハタと足を止めた。
「真珠さん、わたくしその考えには賛成できません。たとえ気まずくとも、きちんと感謝の気持ちを表すべきです」
クルックスのしっかりしたその言葉に、真珠は自分が恥ずかしくなった。少しだけ顔が熱くなる。
「そうよね」
「そうですとも」
「……ア、アマルさん! あの、私たち――」
真珠が勇気を出して声をかけると、アマルが作業の手を止め近づいた。
「あんたたち、まさか出掛けるつもりかい?」
「はい。あの、パンケーキ、ごちそうさまでした。とても美味しかったです。……それと」
真珠はお礼を言おうとした。が、言いかけた瞬間、アマルが覆い被せるように話を遮った。
「本当に悪かった!!」
びっくりして、真珠は伝えようとしていた言葉を失った。
「昨日、あんたたちが一生懸命仕込みを手伝ってくれてるの見てたらさ、なんか、よく知ろうともせずにあんたたちを拒否してた自分がものすごく恥ずかしくなっちゃってさ」
アマルは顔を真っ赤にして目をそらし、鼻を掻いた。
「父ちゃんがあんたたちを家に連れてきた理由が少しわかった気がするよ。本当にごめんな」
真珠の目に涙が溢れる。それに気づいたアマルが慌てると、クルックスは『おやおや』といったように羽をすくめた。
「お、おい! 真珠? どうした?」
真珠はアマルに言われて、はじめて自分が泣いているのに気づく。
「……わからない」
「なんだよ! じゃあなんで泣いてんだよ?」アマルがオロオロする。
「本当にわからない!」
真珠は吐き捨てるように口にした。涙が止まらない。
この感情はいったいなんだろう?
昨日まで怖いと感じていたアマルが突然優しくなったから?
嫌われてると思ってたのに、実は嫌われていなかったから?
アマルが素直に自分の非を認めてくれたから?
アマルのことを怖いと感じた自分が恥ずかしいから?
考えが渦を巻く。どれもしっくりくるようで、どれもしっくりこない。気持ちがぐるぐると現れては消えていく。ただ、胸の奥がじりじりと熱くて、涙が止まらなかった。
真珠はその答えを持っている。ただ、今の真珠にはその感情を表現するだけの言葉を持っていないのかもしれない。甘いメープルとシナモンの香る店の中で、真珠の止まらない涙をなんとか拭こうとアマルは慌てた。
クルックスは、その様子を何だか嬉しく思いながら、傍らで黙って優しく見守っていた。
「とにかく! 今、町に出ていくのはあたしが絶対に許さないからね!」
「でも、わたしたち、マッシュのために何かしなきゃいけないし、ここにいたらアマルさんたちにも迷惑をかけてしまうから」
「お父ちゃんが出ていく時にマッシュの話も聞いたよ。信じろって言われたんだろ? なら、信じてやらなきゃ。大丈夫! うちのお父ちゃんもついてるんだから、居所が分かるまで任せときゃいいのさ」
心配性で責任感の強いクルックスは、任せとけばいいというそのアマルの言葉を新鮮に感じていた。信じるってどういうことなのか。真珠はしきりに「でも」と繰り返している。しばらく聞いていたクルックスが口を開いた。
「そうですね。そうしましょう。では今日もお店の仕込みのお手伝いをいたしましょう!」
「本当かい? それは助かるよ! なんか無理矢理引き留めたみたいで悪かったね。でもきっとマッシュってやつは大丈夫さ」
アマルはとても喜んでいる。真珠はその嬉しそうなアマルの顔を見ながら、なぜかノランのどっしりとした背中を思い出していた。 大丈夫、そうね、きっとそうかもしれない。そして思い切って言った。
「わたしも手伝います!」
アマルは本当に嬉しそうな顔をした。