噴水広場の裏路地でノランと二人がぶつかってここまで来る間、ノランはマッシュとフランクのことを聞かなかった。マッシュのことを話さなければいけない。
お茶を飲み終わった後真珠はノランに切り出した。
「あの! マッシュのことなんですが……」
何かを察しているのか、考えがあるのか、ノランは真珠の説明を優しく遮った。
「その話は夕食の後にじっくり話し合おう。夕食の支度をするから、君たちはくつろいでいなさい」
そう言って奥のキッチンに向かう。
クルックスが飲み終わった後のティーカップをキッチンに運んでいる。ノランがここはいいから下へ行ってアマルの仕事でも見てきなさいと言っている。
「そうですね! 真珠さん♪ 今日一日この家にお世話になるのですから、アマルさんのお手伝いをいたしましょう」
クルックスが真珠の元へ戻って来て嬉しそうにそう提案した。
どうやらアマルのお菓子作りにとても興味があるらしい。真珠は躊躇う。先ほどの一件で、真珠にはアマルに対する苦手意識がどっしりと芽生えていた。
「わたしたちなんかが手伝ったらきっと迷惑よ……」
「ポォ? そうですか? であればわたくし一人で♪」
真珠は心の中でこう言った。
――クルックスの鈍感! なんでわたしの気持ちがわからないのかしら?
クルックスはウキウキしながら一階に降りていく。真珠は所在なくて、渋々クルックスの後に続いた。
クルックスが一階の厨房に入っていく。
真珠は一階まで降りずに、階段の途中で腰を降ろして座った。
厨房の中からクルックスの元気な声が聞こえてくる。
「アマルさん! わたくしにも何かお手伝いさせてください!」
「何だよ! ひとりで充分だからあっちへ行きな!」
クルックスがアマルにねだる。
「そんなことおっしゃらずに! わたくしにも何かお手伝いさせてください!」
「要らないって言ってるだろ! お父ちゃんの話相手でもしてきなよ!」
――ほら、やっぱり邪魔してる……。
真珠は二人の会話を聞きながらがっかりした。
「おや? これはクッキーの種でしょうか? どれ、わたくし見事にこの種を捏ねてご覧にいれましょう♪」
クルックスが羽を差しだそうとすると、アマルがそれを怒鳴って止めた。
「ああ!? あんた手洗いしたのかい、このバカ鳥!」
クルックスは澄ました顔をして、アマルに両羽を広げてお道化て見せた。
「手? はて、わたくし羽と足しかございませんが? 羽を洗えばよろしいでしょうか?」
「どっちでもいいよ! 捏ねる方を洗ってきな!」
「ポッポー♪」
クルックスは嬉しそうに羽を洗いにいく。
――アマルさんは本当にクルックスに手伝わせるつもりなのかな?
真珠は階段の壁から少し顔を出し、厨房をそっと覗いてみた。素早く羽を洗って戻ってきたクルックスが早速ボウルの中身を捏ねている。その様子をぶっきらぼうにアマルは見ている。真珠の目には彼女がとても不愉快そうに映った。
アマルは別のお菓子の仕込みをしながらクルックスを横目で見て言う。
「そんな力任せに捏るんじゃないよ。もっと丁寧に練りな」
その口調はさっきまでとは違い、声を荒げたような感じではなかった。
「こんな感じでよろしいでしょうか♪」
アマルはぶっきらぼうに「あぁ」と答えただけだった。
クルックスが種を混ぜ終わるのを見ると、アマルは仕込台の下からいくつかの保存容器を取り出して、ドンと仕込台の上に置いた。そのうちのひとつからナッツを取り出して丁寧に布巾に包むと、こん棒を手にしておもむろにダンダンと叩いた。そして砕いたナッツをクルックスのボウルに放り込む。
階段に隠れていた真珠はその音にびっくりして肩をすくめた。
――どうしてクルックスは平気なのかしら!?
「おい。手を休めるんじゃないよ。おまえはひたすら練ってろ」
アマルは次に入れる材料を容器から取り出していた。
「この……橙色の皮のようなツブツブしたものは何です?」
「杏子の砂糖漬けさ。さっき砕いて入れたのはペカンナッツだ」
「ポォー!」感心したように言う。
さらにアマルがうっすら黄色がかった液体を取り出す。クルックスが羽を休めてクンクンと香りを嗅ぐ。
「いい香りがしますね!」
「カモミールの花の水を入れてな! さらに練り合わせて焼くんだ。手止めるなって言ってるだろ! 練ったら次は団子にしろ」
アマルが見本をひとつ造り上げた。葉の形のような、小さな丸っこいひし型に種を整えて、鉄板の上に並べる。
「これを真似できるか?」
「おまかせください♪」
クルックスが種を整えて鉄板に並べていく。アマルはクルックスから離れて何かを探し始めた。上の戸棚からメモ用紙を見つけると、何やら書き込んでいる。書き終わると再び調理台に戻り自分の仕込みを始めた。
お茶を飲み終わった後真珠はノランに切り出した。
「あの! マッシュのことなんですが……」
何かを察しているのか、考えがあるのか、ノランは真珠の説明を優しく遮った。
「その話は夕食の後にじっくり話し合おう。夕食の支度をするから、君たちはくつろいでいなさい」
そう言って奥のキッチンに向かう。
クルックスが飲み終わった後のティーカップをキッチンに運んでいる。ノランがここはいいから下へ行ってアマルの仕事でも見てきなさいと言っている。
「そうですね! 真珠さん♪ 今日一日この家にお世話になるのですから、アマルさんのお手伝いをいたしましょう」
クルックスが真珠の元へ戻って来て嬉しそうにそう提案した。
どうやらアマルのお菓子作りにとても興味があるらしい。真珠は躊躇う。先ほどの一件で、真珠にはアマルに対する苦手意識がどっしりと芽生えていた。
「わたしたちなんかが手伝ったらきっと迷惑よ……」
「ポォ? そうですか? であればわたくし一人で♪」
真珠は心の中でこう言った。
――クルックスの鈍感! なんでわたしの気持ちがわからないのかしら?
クルックスはウキウキしながら一階に降りていく。真珠は所在なくて、渋々クルックスの後に続いた。
クルックスが一階の厨房に入っていく。
真珠は一階まで降りずに、階段の途中で腰を降ろして座った。
厨房の中からクルックスの元気な声が聞こえてくる。
「アマルさん! わたくしにも何かお手伝いさせてください!」
「何だよ! ひとりで充分だからあっちへ行きな!」
クルックスがアマルにねだる。
「そんなことおっしゃらずに! わたくしにも何かお手伝いさせてください!」
「要らないって言ってるだろ! お父ちゃんの話相手でもしてきなよ!」
――ほら、やっぱり邪魔してる……。
真珠は二人の会話を聞きながらがっかりした。
「おや? これはクッキーの種でしょうか? どれ、わたくし見事にこの種を捏ねてご覧にいれましょう♪」
クルックスが羽を差しだそうとすると、アマルがそれを怒鳴って止めた。
「ああ!? あんた手洗いしたのかい、このバカ鳥!」
クルックスは澄ました顔をして、アマルに両羽を広げてお道化て見せた。
「手? はて、わたくし羽と足しかございませんが? 羽を洗えばよろしいでしょうか?」
「どっちでもいいよ! 捏ねる方を洗ってきな!」
「ポッポー♪」
クルックスは嬉しそうに羽を洗いにいく。
――アマルさんは本当にクルックスに手伝わせるつもりなのかな?
真珠は階段の壁から少し顔を出し、厨房をそっと覗いてみた。素早く羽を洗って戻ってきたクルックスが早速ボウルの中身を捏ねている。その様子をぶっきらぼうにアマルは見ている。真珠の目には彼女がとても不愉快そうに映った。
アマルは別のお菓子の仕込みをしながらクルックスを横目で見て言う。
「そんな力任せに捏るんじゃないよ。もっと丁寧に練りな」
その口調はさっきまでとは違い、声を荒げたような感じではなかった。
「こんな感じでよろしいでしょうか♪」
アマルはぶっきらぼうに「あぁ」と答えただけだった。
クルックスが種を混ぜ終わるのを見ると、アマルは仕込台の下からいくつかの保存容器を取り出して、ドンと仕込台の上に置いた。そのうちのひとつからナッツを取り出して丁寧に布巾に包むと、こん棒を手にしておもむろにダンダンと叩いた。そして砕いたナッツをクルックスのボウルに放り込む。
階段に隠れていた真珠はその音にびっくりして肩をすくめた。
――どうしてクルックスは平気なのかしら!?
「おい。手を休めるんじゃないよ。おまえはひたすら練ってろ」
アマルは次に入れる材料を容器から取り出していた。
「この……橙色の皮のようなツブツブしたものは何です?」
「杏子の砂糖漬けさ。さっき砕いて入れたのはペカンナッツだ」
「ポォー!」感心したように言う。
さらにアマルがうっすら黄色がかった液体を取り出す。クルックスが羽を休めてクンクンと香りを嗅ぐ。
「いい香りがしますね!」
「カモミールの花の水を入れてな! さらに練り合わせて焼くんだ。手止めるなって言ってるだろ! 練ったら次は団子にしろ」
アマルが見本をひとつ造り上げた。葉の形のような、小さな丸っこいひし型に種を整えて、鉄板の上に並べる。
「これを真似できるか?」
「おまかせください♪」
クルックスが種を整えて鉄板に並べていく。アマルはクルックスから離れて何かを探し始めた。上の戸棚からメモ用紙を見つけると、何やら書き込んでいる。書き終わると再び調理台に戻り自分の仕込みを始めた。