ノランの娘さん? 二人はびっくりしてノランの顔を見る。店の奥から女の人の声が聞こえてきた。
「お客さんかい? そろそろ閉店なんだ、また明日来てよ」
「帰ったよアマル」
「ああ。お父ちゃんか」
アマルと呼ばれた女の人が奥から店内を覗き見るように顔を出す。奥に厨房があるようだ。
「あの! こんにちは! わたしは真珠です」
「はじめまして! わたくし、カッコウ時計のカッコウ、名前をクルックスと申します」
真珠とクルックスの二人は、アマルの顔が見えた瞬間に慌てるようにそう挨拶した。こんな美しいものを作る人。その興奮が期待を高める。しかし返ってきた言葉は二人の予想を反したものだった。
「お父ちゃん! これはいったいどういうことだい?」
アマルの声は激しかった。ノランの隣にいるその来訪者を見て大きく口を開く。
「この町に住む人たちがどういう人たちか知ってるだろ!」
クルックスがビクッ! っとしてその羽に持っていた飴細工を落とした。パリンと小さく音を立て飴細工の指輪が割れる。
真珠もクルックスも怯えてしまった。
「あんたたちもわかってんだろ!? 早くこの町から出ていきな!」
真珠は声をあげて泣き出してしまった。
「ああっ! 真珠さん」
クルックスは自分もびっくりしたことをすっかり忘れて、なんとか真珠をなだめようとする。驚きすぎたのか、真珠の涙は次々と溢れ出してくる。
その時ノランが強い口調でアマルに言った。
「アマル、私の大切な客人に謝りなさい」
いつも温厚なノランが強い口調で言ったので、一瞬部屋はシーンとなった。
アマルはバツの悪い顔をし、二人に向かって謝った。
「……怒鳴って悪かったよ、ごめんな二人とも。あたしはアマル。今日はここに泊まっていきな。あたしは明日の仕込みがあるから奥に行くけど、後は父ちゃんに聞きな」
真珠とクルックスは、アマルの「悪かったよ」という言葉につられるようにお礼を言った。
「あ、ありがとう。アマル、さん……」
アマルは黙って目で肯いて、店の奥へと消えていった。
アマルを見送ってから、ノランは「さあ、二階に上がろう」と二人に寄って、真珠の肩に手を掛けた。まだ涙が渇いてない真珠は、クルックスとともにノランの後に着いて階段を上がった。
アマルの店は三階建てのレンガ造りの住宅だった。
一階部分は半分がお店になっている。奥が厨房。二階にはアマルの寝室と居室、生活用のキッチンがある。三階部分は倉庫を兼ねていたが、客間としても使っているようだ。三階へつながる階段から積みあがった本が見える。
二階のキッチンに通じる比較的広い居室には、大きいが質素なテーブルと椅子があった。ノランに促され二人が席に着く。
「少し待っていなさい。今、お茶を淹れてくるからね」
真珠を落ち着かせようと、ノランが二階に備えつけられたキッチンに立った。お茶を淹れるノランの背中を見ながら真珠が口を開く。
「ノランさん、わたしたちのためにありがとう」
ノランは背中を向けたまま少し笑い「困った時はお互い様だ」と言ってくれた。
お茶を淹れたノランがテーブルに戻ってくる。
「ポ~。しかしノランさんの娘さんは、ずいぶんと気性の荒い方なのですね」
「あんなに素敵なお菓子を作る人なのに……。わたしてっきりおしとやかな人だと思ったわ」
ノランは自分も椅子に座り、二人の飲むお茶に視線を向けながら言った。
「確かにあの子は男勝りなところや言葉遣いが悪い部分も持っている。しかし、それは彼女の能力や本質とはなんら関係ないのだよ」
真珠はノランの言うことがなんだかよくわからなかった。それでも何かとても大切なことを言われているような気がして、黙ってお茶を飲んだ。
「お客さんかい? そろそろ閉店なんだ、また明日来てよ」
「帰ったよアマル」
「ああ。お父ちゃんか」
アマルと呼ばれた女の人が奥から店内を覗き見るように顔を出す。奥に厨房があるようだ。
「あの! こんにちは! わたしは真珠です」
「はじめまして! わたくし、カッコウ時計のカッコウ、名前をクルックスと申します」
真珠とクルックスの二人は、アマルの顔が見えた瞬間に慌てるようにそう挨拶した。こんな美しいものを作る人。その興奮が期待を高める。しかし返ってきた言葉は二人の予想を反したものだった。
「お父ちゃん! これはいったいどういうことだい?」
アマルの声は激しかった。ノランの隣にいるその来訪者を見て大きく口を開く。
「この町に住む人たちがどういう人たちか知ってるだろ!」
クルックスがビクッ! っとしてその羽に持っていた飴細工を落とした。パリンと小さく音を立て飴細工の指輪が割れる。
真珠もクルックスも怯えてしまった。
「あんたたちもわかってんだろ!? 早くこの町から出ていきな!」
真珠は声をあげて泣き出してしまった。
「ああっ! 真珠さん」
クルックスは自分もびっくりしたことをすっかり忘れて、なんとか真珠をなだめようとする。驚きすぎたのか、真珠の涙は次々と溢れ出してくる。
その時ノランが強い口調でアマルに言った。
「アマル、私の大切な客人に謝りなさい」
いつも温厚なノランが強い口調で言ったので、一瞬部屋はシーンとなった。
アマルはバツの悪い顔をし、二人に向かって謝った。
「……怒鳴って悪かったよ、ごめんな二人とも。あたしはアマル。今日はここに泊まっていきな。あたしは明日の仕込みがあるから奥に行くけど、後は父ちゃんに聞きな」
真珠とクルックスは、アマルの「悪かったよ」という言葉につられるようにお礼を言った。
「あ、ありがとう。アマル、さん……」
アマルは黙って目で肯いて、店の奥へと消えていった。
アマルを見送ってから、ノランは「さあ、二階に上がろう」と二人に寄って、真珠の肩に手を掛けた。まだ涙が渇いてない真珠は、クルックスとともにノランの後に着いて階段を上がった。
アマルの店は三階建てのレンガ造りの住宅だった。
一階部分は半分がお店になっている。奥が厨房。二階にはアマルの寝室と居室、生活用のキッチンがある。三階部分は倉庫を兼ねていたが、客間としても使っているようだ。三階へつながる階段から積みあがった本が見える。
二階のキッチンに通じる比較的広い居室には、大きいが質素なテーブルと椅子があった。ノランに促され二人が席に着く。
「少し待っていなさい。今、お茶を淹れてくるからね」
真珠を落ち着かせようと、ノランが二階に備えつけられたキッチンに立った。お茶を淹れるノランの背中を見ながら真珠が口を開く。
「ノランさん、わたしたちのためにありがとう」
ノランは背中を向けたまま少し笑い「困った時はお互い様だ」と言ってくれた。
お茶を淹れたノランがテーブルに戻ってくる。
「ポ~。しかしノランさんの娘さんは、ずいぶんと気性の荒い方なのですね」
「あんなに素敵なお菓子を作る人なのに……。わたしてっきりおしとやかな人だと思ったわ」
ノランは自分も椅子に座り、二人の飲むお茶に視線を向けながら言った。
「確かにあの子は男勝りなところや言葉遣いが悪い部分も持っている。しかし、それは彼女の能力や本質とはなんら関係ないのだよ」
真珠はノランの言うことがなんだかよくわからなかった。それでも何かとても大切なことを言われているような気がして、黙ってお茶を飲んだ。