澄み切った青空に浮かぶふっくらした白い雲。日差しの暖かさは体に受ける優しい風となって、北西へスノーディアを目指す一行を後押しする。
「スノーディアって広いのかしら」
ハンモックに寝そべりながら、真珠は足を宙でパタパタする。朝食を食べてから腹ごなしの間、一行の話題はスノーディア一色だった。
「そりゃー、フランクさんほどのスケールの方々が一同にお集りになられるような場所ですから、わたくしが思いますにそこはとてつもなく広いのではないでしょうか」
クルックスはアンティーク戸棚の中から、自分用に整えられた巣ベッドの上で毛づくろいをしながら優雅に答えた。
昨日――女王の森に別れを告げて北西へ向かう間――グスングスンとフランクはいつまでも泣き止まなかった。
「いい加減泣くのを止めてくれないか」
マッシュが困ったように笑いながら、フランクを慰める。
「もう! 慰めてほしいのはわたしたちの方よね」
真珠が口を尖らせると「だってだって」とフランクは続ける。
クルックスはずっとフランクの頭の上に留まり、ポンポンと羽で調子を取りながら聞いていた。
「何もできないということは、得てして一番辛いことなのですよね。わたくしわかりますとも」
「だってほら! こんなにも元気よ!」
踊る真珠を見て、フランクは安堵して笑った。でもまたすぐに思い出し「でもでも」とぐずる。 というわけで、マッシュは雨宿りのためだと言いながら、アンティーク戸棚の一画をクルックスのために空けた。
アンティーク戸棚の中は、もともとマッシュの食べ終わったギャレットケースのコレクションで一杯だった。
扉のついたその小振りな木の空間。クルックスは――はっきりとは言わなかったが――時折懐かしそうにその棚の木の表面を撫ぜていた。マッシュは気づいていたのかいないのか、実はこっそりとギャレットケースの整理を続けていた。
雨宿りのためとはいえ、巣ベッドがすでに出来上がっていたことに真珠は気づいていた。
「是非くまなく探検して、スノーディアの地図を完成させたいものだな!」
フランクの背で寝そべっていたマッシュが体を起こす。落ち着きを装いながらも、興奮を隠せない。
「地図かあ! ものすごく広いところだったら、地図が完成するまでに何年もかかってしまいそうだね!」
今日のフランクはもう元気だ。空を泳ぎながら、フランクの声も少し興奮している。
「構わないさ! 誰も成し遂げたことのないことをする。素晴らしい! 男のロマンじゃないか!」
クルックスはアンティーク戸棚の自分の一室でしきりに体を折り曲げている。控えめに「ポポー。ポポー」とつぶやきながら言った。
「そんなもんでしょうか? わたくしも生物学上の雄に分類されますが、いやはやそんな大それたこと、ただの一度も思ったことはありません」
「君と一緒にしないでくれ!」
少し冗談っぽく喉を膨らましたマッシュに皆が笑った。
「ところでさっきから何してるの?」
笑い声が途切れないうちに、真珠は体を動かし続けているクルックスに聞いた。
「ポォー? 真珠さん、気になりますか? 筋トレです!」
――筋トレ!?
真珠たちは大笑いした。木彫りの鳥に筋肉なんてあるのかしら? クルックスは澄ました顔で筋トレの羽を休めない。
「まあ……仕方ないか」
そう言ってマッシュは長いこと傘を差していた。
「わたくしの家に戻った時、勘が衰えていてはわたくしのご家族をがっかりさせてしまうでしょう!? いつでも戻れるように、最善の状態にしておかなければ!」
「クルックスはいつも前向きだね!」
フランクが大きく笑い、潮を噴く。
この旅が終わるとき――真珠はここ最近頭を過ぎるその思いに気づかない振りをした。
「ところでスノーディアの気候はどうなんだろうか」
マッシュが銀時計をハンカチで磨きながら言う。
「ぼくは暑いのは苦手だな。スノーってつくくらいだから寒い場所なんじゃない?」
「そういえば考えたこともなかったですが、北を目指す以上はフランクさんがおっしゃるように寒い地域かもしれませんね」
マッシュは銀時計を磨き終わると、ついでにギャレットケースを軽く磨いて胸ポケットにしまった。
「スノーディアに入る前に対策を立てないとだな」
マッシュがそう言うのを聞くと、クルックスは筋トレの羽を休めて上を向く。
「ポー。ポカの実などはどうでしょうか」
「ポカの実か……。あの言葉では表現し難い苦味さえ我慢できれば問題解決だな」
マッシュは地図を取り出すと、近くに大きな森があるのを確認した。
フランクに方角の指示を出す。
「……ブルネラの近くだな。厄介なことにならなければ良いが」
クルックスが正午を伝える。
森へ近づき、マッシュが目視で確認する。
「マザーツリーはもういないようだな。よし手前で降りよう」
一行はブルネラを避けるようにして、森の東手前の岩場で降り、先に昼食を取ることにした。
「スノーディアって広いのかしら」
ハンモックに寝そべりながら、真珠は足を宙でパタパタする。朝食を食べてから腹ごなしの間、一行の話題はスノーディア一色だった。
「そりゃー、フランクさんほどのスケールの方々が一同にお集りになられるような場所ですから、わたくしが思いますにそこはとてつもなく広いのではないでしょうか」
クルックスはアンティーク戸棚の中から、自分用に整えられた巣ベッドの上で毛づくろいをしながら優雅に答えた。
昨日――女王の森に別れを告げて北西へ向かう間――グスングスンとフランクはいつまでも泣き止まなかった。
「いい加減泣くのを止めてくれないか」
マッシュが困ったように笑いながら、フランクを慰める。
「もう! 慰めてほしいのはわたしたちの方よね」
真珠が口を尖らせると「だってだって」とフランクは続ける。
クルックスはずっとフランクの頭の上に留まり、ポンポンと羽で調子を取りながら聞いていた。
「何もできないということは、得てして一番辛いことなのですよね。わたくしわかりますとも」
「だってほら! こんなにも元気よ!」
踊る真珠を見て、フランクは安堵して笑った。でもまたすぐに思い出し「でもでも」とぐずる。 というわけで、マッシュは雨宿りのためだと言いながら、アンティーク戸棚の一画をクルックスのために空けた。
アンティーク戸棚の中は、もともとマッシュの食べ終わったギャレットケースのコレクションで一杯だった。
扉のついたその小振りな木の空間。クルックスは――はっきりとは言わなかったが――時折懐かしそうにその棚の木の表面を撫ぜていた。マッシュは気づいていたのかいないのか、実はこっそりとギャレットケースの整理を続けていた。
雨宿りのためとはいえ、巣ベッドがすでに出来上がっていたことに真珠は気づいていた。
「是非くまなく探検して、スノーディアの地図を完成させたいものだな!」
フランクの背で寝そべっていたマッシュが体を起こす。落ち着きを装いながらも、興奮を隠せない。
「地図かあ! ものすごく広いところだったら、地図が完成するまでに何年もかかってしまいそうだね!」
今日のフランクはもう元気だ。空を泳ぎながら、フランクの声も少し興奮している。
「構わないさ! 誰も成し遂げたことのないことをする。素晴らしい! 男のロマンじゃないか!」
クルックスはアンティーク戸棚の自分の一室でしきりに体を折り曲げている。控えめに「ポポー。ポポー」とつぶやきながら言った。
「そんなもんでしょうか? わたくしも生物学上の雄に分類されますが、いやはやそんな大それたこと、ただの一度も思ったことはありません」
「君と一緒にしないでくれ!」
少し冗談っぽく喉を膨らましたマッシュに皆が笑った。
「ところでさっきから何してるの?」
笑い声が途切れないうちに、真珠は体を動かし続けているクルックスに聞いた。
「ポォー? 真珠さん、気になりますか? 筋トレです!」
――筋トレ!?
真珠たちは大笑いした。木彫りの鳥に筋肉なんてあるのかしら? クルックスは澄ました顔で筋トレの羽を休めない。
「まあ……仕方ないか」
そう言ってマッシュは長いこと傘を差していた。
「わたくしの家に戻った時、勘が衰えていてはわたくしのご家族をがっかりさせてしまうでしょう!? いつでも戻れるように、最善の状態にしておかなければ!」
「クルックスはいつも前向きだね!」
フランクが大きく笑い、潮を噴く。
この旅が終わるとき――真珠はここ最近頭を過ぎるその思いに気づかない振りをした。
「ところでスノーディアの気候はどうなんだろうか」
マッシュが銀時計をハンカチで磨きながら言う。
「ぼくは暑いのは苦手だな。スノーってつくくらいだから寒い場所なんじゃない?」
「そういえば考えたこともなかったですが、北を目指す以上はフランクさんがおっしゃるように寒い地域かもしれませんね」
マッシュは銀時計を磨き終わると、ついでにギャレットケースを軽く磨いて胸ポケットにしまった。
「スノーディアに入る前に対策を立てないとだな」
マッシュがそう言うのを聞くと、クルックスは筋トレの羽を休めて上を向く。
「ポー。ポカの実などはどうでしょうか」
「ポカの実か……。あの言葉では表現し難い苦味さえ我慢できれば問題解決だな」
マッシュは地図を取り出すと、近くに大きな森があるのを確認した。
フランクに方角の指示を出す。
「……ブルネラの近くだな。厄介なことにならなければ良いが」
クルックスが正午を伝える。
森へ近づき、マッシュが目視で確認する。
「マザーツリーはもういないようだな。よし手前で降りよう」
一行はブルネラを避けるようにして、森の東手前の岩場で降り、先に昼食を取ることにした。