「せ、聖亜……大丈夫か?」

 体を起こした聖亜が、気まずそうに顔をそむける。

「いま……わかった? 聖亜の服を、ハルが引っ張ってくれたんだよ」
「え?」

 驚いた顔で、聖亜が振り向く。

「ハルは僕以外の人間に触れられないはずなのに……聖亜のこと助けようとして、こっちに引っ張ってくれたんだよ」
「嘘だろ……」

 聖亜が呆然とした顔で僕を見る。
 それからごくんと唾を飲み込んで、静かにつぶやいた。

「ここに……いるのか? ハルが」

 僕はうなずいてハルを見る。ハルはまだ、ぼんやりと自分の手を見つめている。

「ハル。聖亜を助けてくれて、ありがとう」

 ハルが僕を見る。その目から涙がこぼれ落ちる。

「ハル?」

 立ち上がったハルが、逃げるように走り出す。

「ハル、待って……」

 止めようとした僕より大声で、聖亜が怒鳴った。

「待てよ! ハル!」

 ハルが足を止める。聖亜はハルの背中を見ている。
 いや、見えているかどうかはわからないけど……でもちゃんとハルのほうを向いている。

「なんで……止めたんだよ」

 聖亜が、かすれる声でつぶやく。

「なんで俺が死ぬの止めたんだよ! 俺なんか生きててもしょうがねーのに! 俺もそっちに行きたかったのに!」

 背中を向けていたハルが、くるりと振り返る。
 そしてまっすぐこっちに歩いてきて、聖亜の前で止まった。