「聖亜?」

 驚いた僕の前で、聖亜がうつむいている。
 でもすぐに顔を上げると、クラスメイトたちに向かって大声で叫んだ。

「わかったよ! だったらいますぐ死んでやる!」
「聖亜……」

 僕が伸ばそうとした手を振り切り、聖亜がフェンスをつかむ。
 その素早い行動に、誰もが唖然として立ち止まっている。
 そして僕も……手をかけ、足をかけ、迷いもなくフェンスを登っていく聖亜の姿を、呆然と見ることしかできなかった。

「聖亜……もしかして」

 聖亜の姿がどんどん遠くなる。伸ばした手が、フェンスの一番上をつかもうとしている。
 僕はその背中を見て思う。

「もしかしてずっと……死にたかった?」

 カシャンッとなにかがぶつかる音が聞こえた。

「え、ハル……」

 僕の目に、聖亜を追いかけてフェンスをよじ登る、ハルの姿が見えた。

「ハル……でもハルは……」

 ハルは僕以外の人間をつかめない。
 僕はコンクリートを蹴って走った。
 でもあせったあまり足がもつれて、その場に転んでしまう。

「せ、聖亜っ!」

 聖亜はもう、フェンスを乗り越えようとしている。
 ハルが一生懸命手を伸ばす。
 僕は這いずってフェンスに近づく。
 ダメだ。僕じゃ間に合わない。

「ハル! 頼む!」

 僕は叫ぶ。
 ふたりの姿が頭の上に見える。

「聖亜を助けてくれ!!」

 ガシャン――!!

 フェンスになにかがぶつかったと思ったら、僕のそばにふたりの人間が落ちてきた。

「いってぇ……」
「聖亜!」

 僕は倒れているふたりを見る。
 そこにいるのは聖亜と――聖亜の制服を強く握りしめているハルだった。

 ハルが……ハルが聖亜を助けた?

「お、おい、なんだ、いまの」
「聖亜がこっちに落ちたんだろ?」
「いや、なにかに服、引っ張られてなかったか?」
「嘘だろ? 誰もいねーし」
「こわっ、もう行こうよ」
「ああ、行こうぜ」

 クラスメイトたちが、逃げるように校舎の中へ駆け込んでいく。
 僕はふたりに視線を戻す。
 聖亜は頭をさすっていて、ハルはその隣で呆然と座っていた。