「昨日は怒っちゃったけど、あのあと少し思い出したんです。ブランコと滑り台と、ジャングルジム。それからバスケットゴールがある、桜の花びらが降る公園。そこでバスケをしている人を見てた。誰かと一緒に」

 ハルが僕の目を見つめる。

「一緒に見てたのって……ユズですよね?」
「うん、僕もそんな気がするんだ。僕より少し小さい子と、一緒に見てた」

 ハルはうれしそうに笑ったあと、すぐに困ったように顔をしかめた。

「でもそのバスケしていた人って……ほんとにあいつなんですか?」
「そこは覚えてないの?」
「はい。それが誰だかは、思い出せないんです」
「そっか」

 バスケをしていた人間が、聖亜だってことはわかってる。
 だけど聖亜とハルの関係が、どうしてもわからない。

 柔らかい風が吹き抜けた。
 ハルの明るい色の髪が、ふわりと揺れる。

「もうすぐ春休みですね」

 ハルが、校庭の桜の木を見下ろしながらつぶやいた。

「みんなが登校しないと、寂しくなっちゃうな……」
「僕、毎日ここに来るよ」

 あたたかい日差しの下で、ハルが目を細める。
 色素の抜けたような髪を、キラキラさせて。
 ああ、綺麗だなって思った。
 このままずっと、ハルと一緒にいられればいいのにって思った。
 僕はもう一度ぎゅっと、ハルの体を抱きしめる。

「ユズ? どうしたんですか? 痛いです」
「もう少しだけ……こうさせて」

 ハルはなにも言わなかった。
 ハルの体は氷のように冷たくて、でもとてもあたたかかった。