「昨日、ユズと別れたあと、ずっと考えてたんです。生きていたころのボクって、どんな人間だったんだろうって」

 僕は黙って、ハルの横顔を見つめる。

「ユズは違うって言ってくれたけど、やっぱり悪いやつだったかもしれないし、もしかしてユズを傷つけていた側の人間だったかもしれない」
「そんなわけ……」
「でもわからないんです。考えても考えても思い出せなくて、苦しくて悔しくて、死にたくて……」

 ハルがガシャンッと音を立ててフェンスを強くつかむ。

「昨日の夜、ここから飛び降りてみたんですけど……下に落ちただけで、痛くもかゆくもなくて……なにも変わらなかった……」
「ハル……」

 僕の頭に、真っ暗な闇の中、ここからたったひとりで飛び降りるハルの姿が浮かんだ。
 いくら幽霊だからって、きっと怖くて寂しかったと思う。
 振り返ったハルは、僕を見て笑った。すごく悲しそうに。

「バカですよね、ボク。死んでるのに自殺しようとするなんて……ほんとバカ」

 僕は咄嗟に手を伸ばし、もう一度ハルの冷たい体を抱きしめた。
 さっきよりも、ずっとずっと強く。

「ごめん、ハル。僕がとろいせいで、ハルに苦しい思いさせてる」
「ユズのせいじゃないですよ」

 ハルの手が、僕の背中をぽんぽんっと叩いてくれる。

「でも僕がもっと早く、ハルが誰なのか答えを出してあげてれば、ハルはこんなに苦しまなくてもすむのに……」
「ありがとう、ユズ。きっとボクとユズがここで出会ったこと、なにか意味があると思うんです」

 僕はうなずく。

「僕もそう思ってる。僕は生きていたころのハルに、会っていたんだと思う」
「桜の降る公園で、ですよね?」

 僕はハッとして、ハルの顔を見つめる。ハルはまた少し笑って、口を開く。