翌朝、いつもの教室に行くと、聖亜の姿がなかった。

「おい、聖亜は?」
「知らね。またサボりじゃね?」
「そういえばあいつにラインしても、返事こねーわ」
「ダサっ、無視されてんじゃん!」

 教室の後ろのほうで、聖亜の仲間たちが笑っている。

「でもあいつ、最近つき合い悪くね?」

 男子の会話に一軍女子も加わる。

「あ、わかるー! うちらが話しかけても、つまんなそーにしてるし」
「遊びに誘っても、全然ついてこないしね」

 僕は自分の席で前を見たまま、その声を聞く。

「なんかムカつかね? あいつ」
「ああ、前から思ってたんだよな、いっつもえらそーだなって」
「それそれ! あいつ俺らのこと、バカにしてるんじゃね?」

 聖亜なんか大嫌いなはずなのに、なんだか胸がむずむずする。

「なぁ、知ってる? 聖亜のヤベー噂」

 ひとりの男子の声に、まわりの生徒たちが「なになに?」と集まってくる。

「実は聖亜ってさぁ」

 こそこそとなにか話したあと、女子の甲高い声が教室に響いた。

「やばーい! それマジー?」
「マジマジ。聖亜の中学時代の先輩から聞いたもん」
「うわ、きもっ、無理だわー、俺」

 騒がしくなった教室の中、僕はひとり立ち上がり、教室を出る。
 するとばったり、担任に会ってしまった。

「ん? 柚希、どこ行くんだ? もう授業はじまるぞ?」
「すみません。ちょっと具合悪いんで、保健室行ってきます」

 担任の返事も聞かずに、廊下を走る。
 そして角を曲がると、思いっきり階段を駆け上った。