「えっ、なんで泣くんだよ!?」
「だって、あんなに人と話すのが苦手だった柚希が……しっかりコミュニケーション取ろうと頑張ってるんだと思うと、泣けてきて……」
「もうやめてよ……恥ずかしいから」

 ぐすぐす洟をすすっている母さんに聞く。

「そ、そんなことよりさ。僕が小さいころ、聖亜以外に、一緒に公園に行くような子っていたっけ?」

 母さんは顔を上げて僕を見たあと、またエプロンで目元を拭う。

「いるわけないじゃない! あんた、聖亜くん以外の子と、全然しゃべれなかったんだから! 超コミュ障だったんだから!」
「ははっ、そうだよね」

 苦笑いした僕に、母さんが言う。

「聖亜くんね、ご両親が離婚してから、きっと寂しい思いをしていると思うのよ。それでちょっとだけぐれちゃって、『あの子はどうしようもない不良だ』なんて言う人もいるけど、お母さんは聖亜くんのこと信じてる。だってあの子、根はすごく優しい子だから」

 母さんが涙を光らせて、僕に笑いかける。

「柚希だって、そう思うでしょう?」

 僕の頭に、聖亜にやられたひどいことが次々と浮かんでくる。
 だから簡単にうなずくことはできないけれど、百パーセント否定することも僕にはできない。
 暗い倉庫から出たときに見た、聖亜のホッとしたような笑顔と、ジャングルジムの上から手を差し伸べてくれた、聖亜の必死な顔が忘れられないから。
 だから僕は「そうだね」とだけ言っておく。
 あんなひねくれたやつのこと、「優しい」なんて言ってあげられるのは、きっとこの世界に母さんと僕くらいしかいないだろう。