「ただいま……」
「おかえり、柚希! 今日は遅かったのね?」

 家に帰るといつものように、母さんに迎えられた。
 僕にとっては当たり前の光景。ちょっとうんざりするほどの。
 でも聖亜は四年生のころから、ずっと真っ暗な家にひとりぼっちだったんだ。

「うん、ちょっと……聖亜の家に寄ってたから」
「あらー、最近ずいぶん仲がいいのね?」
「仲なんかよくないよ」

 僕の声に、母さんが不思議そうな顔をする。

「母さん、僕、四年生のころから聖亜とは仲よくないんだ」
「え? そんなことないでしょ?」
「そんなことあるんだよ。母さんが知らなかっただけで」

 そう言ってから、付け加えた。

「いや、僕が言わなかったんだから、知るはずないよね」

 母さんは困ったようにおろおろしている。
 そんな母さんに向かって、僕は言う。

「でも最近、考え直したんだ」

 いままでの僕は、聖亜から逃げているだけだった。
 ちゃんと話そうとしないで、嫌なことも嫌って言えず、ただ逃げまわっているだけだった。

「聖亜とは、もっとちゃんと話そうって」
「柚希……」

 母さんがエプロンで目元をぬぐう。