「で? 俺に聞きたいことってなんだよ」

 聖亜の部屋も、ひどい散らかりようだった。
 床には脱ぎっぱなしの衣類や漫画やゲーム、テーブルの上には食べ終わった弁当やカップラーメンの容器や空のペットボトル、部屋の隅にはゴミ袋がいくつか積まれている。
 そういえば聖亜の部屋に来たのは何年振りだろう。
 小さいころは、もっと綺麗だったはず。きっとお母さんがいたからだ。

 聖亜は乱れたベッドの上に座って、僕を見る。
 そのそばにはぐしゃぐしゃに丸められた用紙があり、『進路希望調査書』という文字がわずかに見えた。
 僕はなんとか座れそうな場所に腰を下ろすと、率直に聞いた。

「小さいころ、近所の公園で聖亜がバスケやってたとき、僕と一緒に見てた男の子、誰?」
「は?」

 聖亜が顔をしかめる。
 僕は身を乗り出して続ける。

「僕が覚えてるのは春なんだけど。桜が散る公園で、聖亜を見ていた男の子がいたはずなんだ。僕、その子が『ハル』だと思ってる」

 聖亜の顔がさらに歪む。

「聖亜は知ってるんだろ? その子が誰かって」
「知らねーよ」
「嘘だ!」

 僕は立ち上がり、聖亜の前に近づく。

「聖亜はなにか隠してるよね? ほんとは知ってることあるくせに、言おうとしない」

 聖亜が面倒くさそうに、顔をそむける。
 僕はそんな聖亜の肩を、両手でつかんだ。

「知ってることあるなら教えてよ! ハルが知りたがってるんだ、自分のことを。それを思い出せないと、ハルは成仏できないんだ!」
「成仏?」

 にらむようにこっちを見た聖亜が、僕の手を振り払う。

「成仏なんかしなけりゃいいだろ! てか、成仏ってなんだよ! 消えちまうのか? だったらこのまま学校にいればいいじゃねーか!」

 聖亜の視線が僕とぶつかる。
 ああ、聖亜も同じなんだ。最初のころの僕と同じで、幽霊の気持ちが全然わかってない。