ふと視線を動かすと、薄暗い街灯の横に、古いバスケットゴールがあるのが見えた。
 子どもが使う、ミニバスのゴールだ。
 僕はジャングルジムから手を離し、足を動かす。
 そして小さいころいつも立っていた木の下で、立ち止まった。

「ここで……聖亜を見てたんだ」

 もう一度視線を動かし、まわりを見まわす。
 真っ暗な公園。夜風で頭の上の木の枝が揺れ、はらはらと枯葉が落ちてくる。
 僕は舞い落ちる枯葉を見つめながら思い出す。
 あのころ、こんなふうに木の葉が……いや違う。あれは桜の花びらだった。
 春風が吹き、桜の花びらが舞い散るこの場所で、僕は聖亜がバスケをする姿を見ていた。
 誰かと一緒に――。

「あれは……誰だったんだ?」

 まだ幼かった、小学校三年生か二年生くらいの記憶。
 めったに見かけない子だった。でも何度か見たことはあった。
 僕より背が低くて、華奢で、かわいらしい男の子だった。
 その子は聖亜がシュートを決めるたび、手を叩いて大げさに喜んだ。

『すごい! すごい! カッコいい!』

 そして僕のそばで、幸せそうにつぶやいたんだ。

『僕もあんなふうになりたいなぁ……』って。

 頭に手を当て、くしゃくしゃと伸ばしっぱなしの髪をかき回す。

「くそっ、思い出せない。誰だったんだ、あの子は……」

 でもきっと、聖亜ならわかるはず。
 僕は顔を上げると、走り出した。
 公園を飛び出し、聖亜の家に向かって。