じっと見つめていると、その光はちりちりと無数の細かい粒子となって舞うように感じる。両手を上に広げ、光をつかもうとするアケル。その目が忙しくキラキラと宙を舞う。私も膝を着いたままアケル同様両手を開き、光を捕まえる仕草をする。
ケルビムの淹れてくれたガラスポットのマローブルーの青いお茶が、うっすらとピンクに染まっていくのを眺めていて、私はふと思いついた。
「そうだ!」
私が突然大きな声を出したので、アケルはびっくりして目を丸くしている。
「どうしたの? おねえちゃん」
ふふふ……私は不敵な笑みを浮かべ、アケルに言った。
「アケル君。このキラキラがいつでも見れるとしたら、君は嬉しいかね?」
私の突然の発言の意味を理解したのだろう。アケルは目を輝かせ私に向かってこれ以上ない元気な声で答えた。
「嬉しい!」
「よし! ではおねえちゃん博士と一緒に来たまえ!」
私はエレベーターに向かって走り出す。アケルも私を追って後からついてくる。
「おねえちゃん博士ー、待ってー」
私たちがエレベーターに乗り込むとエレベーターはゆっくりと上昇していった。
再び元いたフロアでエレベーターは停止すると、ケルビムが北館への通路を探している最中のようだ。ケルビムは私たちに気づくと寄ってきて言った。
「おや? どうなされました?」
「おねえちゃん博士がわたしにいつでもキラキラを見せてくれるの!」
ケルビムは、アケルが嬉しそうに言うことが理解できなかったとみえて、不思議に受け取りましたよ? といったジェスチャーをする。両腕を組み、首を傾げてみせた。
仮面は薄ら笑ったままだが……。
「はて? 博士? キラキラ? いったいなんのことでしょうか」
「ちょうどよかった。ねぇケルビム、ちょっと耳を貸して!」手を添えて、思いつくままに必要な材料をこそこそと伝えていく。「はさみ、のり、油性マジック、セロテープ、白い厚紙、クリアケース、透明なプラ板、黒い厚紙、ラップの芯、アルミホイル……」
横ではアケルが唇をとがらせ、割って入ろうとする。気になって仕方がないのだろう。
「博士⁉ なに? なに?」
「ふふ、お楽しみよ」せっつくアケルに答えてから、ケルビムに訊ねた。
「ねぇ、材料は揃うかな? いくつかあれば応用は利くと思うんだけど」
「お任せください!」
ケルビムは自信満々に胸をはり、部屋のひとつへと入っていった。材料を集めるため、バタバタと各部屋を行ったり来たりし始める。
「千里様、材料はまもなくすべて滞りなく揃いますゆえ、食堂にてアケル様とお待ちいただけますでしょうか」
「ありがとう、お願いね」
感謝を伝えると、アケルの手を引いて、私は再び食堂へと降りた。
「キラキラ♪ キラキラ♪」
アケルはずっとはしゃいでいた。私の腕をとって揺らしながら、待ちきれない気持ちを変な踊りで表している。しばらくすると、ケルビムが息を切らせて戻ってきた。
「お待たせ致しました!」
手にどっさりと材料を抱えている。硝子玉や、ビーズ、スポンジテープなども揃っていた。
「あぁ、すごい! ガラス玉まであったの?」
「はい! 必要と思いましたので」
「さすがね、じゃあさっそく作りましょ」
ケルビムが集めてくれた材料を使って、工作の時間が始まった。プラをカットしたり、油性のマジックで色を塗ったアクリルを細かく刻んでオーブンで焼いたり……。こんなときでも白のフリルエプロンを着用しているケルビムを指差して笑ったり、三人でペチャクチャ笑いあいながら目的のものは完成していった。
でき上がったものを見て、アケルが不思議そうに言った。
「おねえちゃん、これキラキラしてないよ?」
「ふふふ……それはだな――」
不敵な笑いを浮かべ、私がその訳を説明しようとしていると、ケルビムが突然割り込んできた。
「アケル様、その筒を両手で持ち、筒の窓を御覧になってみてください」
「ちょっとケルビム! 一番いいところ持っていかないでよ」
「あぁッ! 申し訳ございません!」
「もぉ……」
苦笑いで私が口を尖らせると、ケルビムは、おでこに手をあてて「わたくしとしたことが、申し訳ありません」としきりに謝った。
小さな窓から筒を覗いて、首をかしげるアケルに、私は続きを伝えた。
「それを光の当たるところで、窓を覗きながら回してごらん。ほら、あっちの方で」
「うんっ」
言われた通り、アケルが陽の差し込む場所まで進むと、目を当てて筒をくるくると回した。視界の中ではキラキラと幾何学模様が輝いているはずだ。
ぱらりぱらりと幕がすり替わるように次々と、文様が姿を変えていく……。
「………………」
アケルは筒を覗き込んだまま黙っていた。
あんまりだったかな? 反応が得られず不安になっていると、アケルが突然振りかえって驚喜の声をあげた。
「すごい! すごくきれい! どうやったの⁉」
万華鏡に負けないほどキラキラとした表情を見せてくれて私はほっとする。
「ああ、よかった。カレイドスコープっていうのよ、それ」
ケルビムが、もうひとつ用意していた筒――ガラス玉が付けられたもの――をアケルに渡す。
「こちらはテレイドスコープと呼びます」
テレイドスコープは、先端部にビーズなどのオブジェクトを入れないタイプの万華鏡だ。ガラスの球体越しに覗く外の景色すべてが七変化の対象となる。
「すごいすごいすごい……」
アケルは夢中で回し続けていた。双眼鏡のように両目をふさぎ、クルクルしている姿がとてもかわいらしい。
「さすが千里様。お見事でございます」とケルビムが敬意を表し拍手してくれる。
「昔から図工は得意だったのよ」
まっすぐ褒められると気恥ずかしい。
広間の中央、輝く日差しの下でアケルは万華鏡に熱中していた。
――とにかく、アケルが気に入ってくれてよかった。
ケルビムの淹れてくれたガラスポットのマローブルーの青いお茶が、うっすらとピンクに染まっていくのを眺めていて、私はふと思いついた。
「そうだ!」
私が突然大きな声を出したので、アケルはびっくりして目を丸くしている。
「どうしたの? おねえちゃん」
ふふふ……私は不敵な笑みを浮かべ、アケルに言った。
「アケル君。このキラキラがいつでも見れるとしたら、君は嬉しいかね?」
私の突然の発言の意味を理解したのだろう。アケルは目を輝かせ私に向かってこれ以上ない元気な声で答えた。
「嬉しい!」
「よし! ではおねえちゃん博士と一緒に来たまえ!」
私はエレベーターに向かって走り出す。アケルも私を追って後からついてくる。
「おねえちゃん博士ー、待ってー」
私たちがエレベーターに乗り込むとエレベーターはゆっくりと上昇していった。
再び元いたフロアでエレベーターは停止すると、ケルビムが北館への通路を探している最中のようだ。ケルビムは私たちに気づくと寄ってきて言った。
「おや? どうなされました?」
「おねえちゃん博士がわたしにいつでもキラキラを見せてくれるの!」
ケルビムは、アケルが嬉しそうに言うことが理解できなかったとみえて、不思議に受け取りましたよ? といったジェスチャーをする。両腕を組み、首を傾げてみせた。
仮面は薄ら笑ったままだが……。
「はて? 博士? キラキラ? いったいなんのことでしょうか」
「ちょうどよかった。ねぇケルビム、ちょっと耳を貸して!」手を添えて、思いつくままに必要な材料をこそこそと伝えていく。「はさみ、のり、油性マジック、セロテープ、白い厚紙、クリアケース、透明なプラ板、黒い厚紙、ラップの芯、アルミホイル……」
横ではアケルが唇をとがらせ、割って入ろうとする。気になって仕方がないのだろう。
「博士⁉ なに? なに?」
「ふふ、お楽しみよ」せっつくアケルに答えてから、ケルビムに訊ねた。
「ねぇ、材料は揃うかな? いくつかあれば応用は利くと思うんだけど」
「お任せください!」
ケルビムは自信満々に胸をはり、部屋のひとつへと入っていった。材料を集めるため、バタバタと各部屋を行ったり来たりし始める。
「千里様、材料はまもなくすべて滞りなく揃いますゆえ、食堂にてアケル様とお待ちいただけますでしょうか」
「ありがとう、お願いね」
感謝を伝えると、アケルの手を引いて、私は再び食堂へと降りた。
「キラキラ♪ キラキラ♪」
アケルはずっとはしゃいでいた。私の腕をとって揺らしながら、待ちきれない気持ちを変な踊りで表している。しばらくすると、ケルビムが息を切らせて戻ってきた。
「お待たせ致しました!」
手にどっさりと材料を抱えている。硝子玉や、ビーズ、スポンジテープなども揃っていた。
「あぁ、すごい! ガラス玉まであったの?」
「はい! 必要と思いましたので」
「さすがね、じゃあさっそく作りましょ」
ケルビムが集めてくれた材料を使って、工作の時間が始まった。プラをカットしたり、油性のマジックで色を塗ったアクリルを細かく刻んでオーブンで焼いたり……。こんなときでも白のフリルエプロンを着用しているケルビムを指差して笑ったり、三人でペチャクチャ笑いあいながら目的のものは完成していった。
でき上がったものを見て、アケルが不思議そうに言った。
「おねえちゃん、これキラキラしてないよ?」
「ふふふ……それはだな――」
不敵な笑いを浮かべ、私がその訳を説明しようとしていると、ケルビムが突然割り込んできた。
「アケル様、その筒を両手で持ち、筒の窓を御覧になってみてください」
「ちょっとケルビム! 一番いいところ持っていかないでよ」
「あぁッ! 申し訳ございません!」
「もぉ……」
苦笑いで私が口を尖らせると、ケルビムは、おでこに手をあてて「わたくしとしたことが、申し訳ありません」としきりに謝った。
小さな窓から筒を覗いて、首をかしげるアケルに、私は続きを伝えた。
「それを光の当たるところで、窓を覗きながら回してごらん。ほら、あっちの方で」
「うんっ」
言われた通り、アケルが陽の差し込む場所まで進むと、目を当てて筒をくるくると回した。視界の中ではキラキラと幾何学模様が輝いているはずだ。
ぱらりぱらりと幕がすり替わるように次々と、文様が姿を変えていく……。
「………………」
アケルは筒を覗き込んだまま黙っていた。
あんまりだったかな? 反応が得られず不安になっていると、アケルが突然振りかえって驚喜の声をあげた。
「すごい! すごくきれい! どうやったの⁉」
万華鏡に負けないほどキラキラとした表情を見せてくれて私はほっとする。
「ああ、よかった。カレイドスコープっていうのよ、それ」
ケルビムが、もうひとつ用意していた筒――ガラス玉が付けられたもの――をアケルに渡す。
「こちらはテレイドスコープと呼びます」
テレイドスコープは、先端部にビーズなどのオブジェクトを入れないタイプの万華鏡だ。ガラスの球体越しに覗く外の景色すべてが七変化の対象となる。
「すごいすごいすごい……」
アケルは夢中で回し続けていた。双眼鏡のように両目をふさぎ、クルクルしている姿がとてもかわいらしい。
「さすが千里様。お見事でございます」とケルビムが敬意を表し拍手してくれる。
「昔から図工は得意だったのよ」
まっすぐ褒められると気恥ずかしい。
広間の中央、輝く日差しの下でアケルは万華鏡に熱中していた。
――とにかく、アケルが気に入ってくれてよかった。