[八月六日――]
『ハローワールド』
サウスシャインの森に住むマーモットの子ウッディーと、こぐまのマイニーモーはとても仲良し。
今日もふたりは泥だらけになりながら、森の中をかけまわります。
からだは小さいけれど、頭の回転がはやいウッディー。
おっとり屋だけれど、力持ちのマイニーモー。
かれらはおたがいを尊敬し、そして信頼しあっていました。
ある日ふたりが森で遊んでいると、森では見かけたことのない、人間の女の子が立っています。
「こんにちは」
マイニーモーが、女の子に声をかけます。
「こんにちは」
マイニーモーの挨拶に、女の子も答えました。
「きみの名前は?」
今度は、ウッディーが女の子にたずねました。
「あたしの名前はレティシア。覚えているのは自分の名前だけ」
「聞いたかい? ウッディー。彼女、自分の名前しか覚えてないんだって」
「もちろん、聞こえてたさ、マイニーモー。しかし困ったなぁ。彼女をそのままにはしておけないね」
女の子のそばでふたりは顔を見合わせ、どうしたものかと悩んでいました。
「そうだ! マザーツリーのところへ連れていこう!」
ひらめいたウッディーが提案します。
「それがいいね。きっとマザーならどうすればよいか、教えてくれるかもね」
マイニーモーはウッディーの提案に大賛成。
ふたりは女の子を連れて、森で一番大きく立派な木であるマザーツリーを目指しました。
🐨
マザーツリーのもとにやって来た三人。
ウッディーがマザーツリーに、名前以外のことをなにも思い出せないレティシアを、いったいどうすればよいかたずねます。
マザーはやさしくいいました。
「彼女の帰るべきところを、あなたたちで見つけてあげなさい」
しかし、森の外へ出たことのないウッディーとマイニーモーは、いったいレティシアの帰るべきところが、どんなところなのか、けんとうもつきません。
オロオロととまどうふたりに、ふたたびマザーはやさしくいいました。
「この世界のどこかに、ハローワールドと呼ばれるところがあるそうです。ひょっとすると、そこが彼女の帰るべきところかもしれません」
「そんな見たことも聞いたこともないような場所に、連れていってもらうなんてあなたたちに悪いわ。あたしひとりで行ってみるから、あなたたちは今までどおり、この森で暮らして」
レティシアはふたりに遠慮したのか、とつぜんこんなことをいい出したのです。
それを聞いたウッディーとマイニーモー。
『はい、そうですか』
なんて、つめたいことをいうようなふたりではありません。
「ぼくたちにまかせてよ! かならずきみをハローワールドに連れていってあげるからさ」
そんなふたりのやさしさが、とてもうれしく思えたレティシアは、なんどもお礼をいいました。
🐻
三人はハローワールドを目指し、世界中を旅してまわります。
てりつけるような暑い日も、こごえるような寒い日も、大雨にふられて、身も心もずぶぬれになり、気持ちがぽっきりと折れてしまいそうな日も、強い風にさらされて、一歩も足を前に出せそうにない、そんな日も。
森を抜け、草原を進み、山を越え、川を渡り、あらゆる場所を探しましたが、ハローワールドは見つからないままでした。
ある日、世界の果てにある、雲をつらぬき、空高くそびえるほど高い山の頂上で、海の水平線のはるか彼方を見ながら、レティシアがつぶやきました。
「この海の向こうがわに、目指す場所がありそうな気がする」
「よし! じゃあ海を渡ろう!」
意気揚々と、ウッディーがいいます。
「でも……どうやって?」
マイニーモーは、不安そうです。
「簡単なことさ! 木を切って、大きなイカダを作るんだ!」
マイニーモーは、その考えに大賛成。
「それはよいね! イカダなら海も渡れるものね!」
三人は山をおりると、山の木を使って大きなイカダを作りました。
イカダが完成すると、三人は海へとこぎ出します。
茜色の海をいくつもこえて、茜色の空をいくつも迎えたころ、やがて三人の目の前に、大きな陸地が現れました。
「やった! とうとう到着だ!」
三人は大喜びで陸地に上がると、目の前には大きな森が現れます。
懐かしい香りと、やさしくなでる風、見なれた森と仲間たち、そして森の中央には、ひときわ大きなマザーツリー。
そうです。かれらは長い長い旅の果てに、ついにはもとの場所へと戻ってきてしまったのです。
ハローワールドを見つけられず、ひどくがっかりするふたり。
ところがレティシアは、とても満足そうな笑顔を浮かべてふたりにいいます。
「本当に、本当にありがとう。ふたりのおかげで、あたしは帰る場所を見つけたわ」
「どういうこと?」
ふたりは不思議そうな顔をし、レティシアにたずねました。
「ここよ! この森! あなたたちの住むこの森こそが、あたしの帰る場所だったのよ」
ハローワールドとは、おとぎの国の話だったのでしょうか?
ふたりにはわかりません。
けれども、目を輝かせて満足そうなレティシアの笑顔を見たふたりは、すでに彼女は彼女だけのハローワールドを見つけ出したんじゃないかと思えました。
「きみのお役に立てて光栄さ。なによりきみの帰る場所が、ぼくたちの帰る場所と、同じ場所だったことがとてもうれしいよ。これからもよろしくね」
こうして三人は、マザーツリーの見守る森の中でいつまでも仲良く幸せに暮らしました。
(おわり)
♬
「おっおー、お…おしまい!」
「やだ! もっと! もっとよんで!」
「ひっひか、日夏茉ちゃん、きーきに、気にい…いった?」
「うん!」
「ははっ。さっきまでお母さんがいないってぐずってたのに、その絵本気に入ってくれたみたいだね。きっと茜の読み方が上手なんだよ」
「そっ…そ、そんなこと、ないっ、ない…よ!」
かなえが手を伸ばして本を受け取ると、パラパラと開いて中の絵を見ていく。
「このクマかわいいけど、なんかちょっと不細工だね。これってもしかしてあれ?」
そういって、かなえが部屋の隅に置いてある薬局のおばさんがくれたトートバッグを指差した。中の生理用品を取り出して、今日は水着をいれてある。
「これ、このリボン! かわいい!」
そんなかなえの手首にはめてあるリボンをみて、日夏茉ちゃんが声をあげた。シフォンみたいなピンクのリボンがついたヘアゴムで、かなえにしてはちょっとめずらしい。
でもかわいい。
「お、日夏茉ちゃんお気に召した? これ、友子のお母さんが作ったやつなんだよね。友子リボン嫌いだから要らないって、こないだもらったんだ。他にもあるかもしれないから聞いてみようかな」
――友子がリボンが嫌い⁉
思わず固まるあたしの横で、かなえが手首からリボンのヘアゴムを外して渡すと、日夏茉ちゃんはうれしそうにマネして腕にはめている。
「おぉ~? にあうぞぉー? 日夏茉ちゃんもおそろいにしたいよねぇー。友子はやく来ないかな」
「ひか、みせてくる!」
日夏茉ちゃんは、おばあちゃんに見せるために一階へおりていった。「ばあちゃあ! みてみて!」下からきゃっきゃとはしゃぐ声が聞こえてくる。
あたしはかなえがいったセリフが気になっていた。
「ちょ、ちょちょっとまーまって、とっ友子がり、り…リボンがきらいっい? い…いらない? 要らないって?」
「ああ、そういやほら、茜が図書室で倒れた日あったじゃん。あのとき結構うちら保健室で長いこといてさ、結局先生が静かにしてた方がいいっていうから先に帰っちゃったんだけど、ごめんな。で、あのときに友子が話してたんだけど、友子の着てる服ってさ――」
――友子の服? ふっ、服もなにかあるの?
「ぜんぶお母さんの手作りなんだって」
ええー⁉
「友子のお母さん、いったいいつからかは知らないけど、手芸にはまっちゃって、最初は小物とか作ってたらしいんだけどどんどん上手になって、もはや朝起きると毎日っていっていいくらい、ワンピースができちゃってるらしいよ。ほんとはピンクとかレースとかはあんまり好きじゃないんだけど、断わるとかなしい顔されてかわいそうだから、やっぱり着ちゃうんだってさ」
友子がピンクの服をいやがってたなんて! じゃあもしかして、いつも袖口をいじってたのもリボンが気になってたからってこと⁉ あれは、くよくよしてるときのただのクセだと思ってたのに、まさかリボンが邪魔で外したがってただなんて……。
驚いた……、あたしの目はなんて節穴なんだ。
「しーしし知らなっ知らなかった! でもじゃーじゃあな、なら、あーと、い……いっいえばいい、いい…いのに?」
「うんそうだよね、だからあたしもそういったよ。そしたら今度話してみるって。『あたしもほんとはみんなみたいにティーシャツとか着たいんだ』って。まあ、ちょっと驚きだよね」かなえが笑う。
「ほら、バザーとかだってあるしさ。友子のお母さんが手芸好きならシュシュとか作ってもらえばいいよね。 それにティーシャツの袖のとこだけフリルになってるやつは今流行ってるし、なんていうんだっけ、リメイク? 黒とかなら格好よさそうだし」
「そーそれ、それっ…かっ…かーわいい!」
「だよね。ねえそれよりそろそろ友子来るんじゃない?」
「あっ、あー…ちょっとま、待って。メ…メールちょっとだけ、あーと、うー、うつよ」
「おーっす、じゃあ先に下行ってるよ。……日夏茉ちゃーん、そろそろ準備するよー?」
「うん!」
♮
カラーン、カラーン……。
どこかで鐘の音が鳴り響いている。
モクモクとふくらみあがる入道雲と、照りつける太陽にセミの鳴き声、たくさんのハトが、藍色の青空を羽ばたいていく。
あたしは椅子に座り、お母さんのノートパソコンを開く。机の上には、みんなでとった観覧車の遊園地の真新しい写真が飾られていた。
お父さんが、玄関からあたしに叫んでいる。
「茜ぇ⁉ 友子ちゃんが迎えにきたよ! 今日はみんなでプールに行くんだろー? 日夏茉ちゃんのこと頼むなー。じゃあお父さん行ってくるから!」
Re.ハローワールド
『朱里、誕生日おめでとう!
今日は友子たちとプールに行くんだ!
ところで、あたし、絵本作家を目指そうと思うの。
それで相談なんだけど、あなたのペンネームをあたしに使わせてくれない?
将来、朱里みたいなすごい絵本を作ってみせるわ!
帰ったらまたメールするね。
いってきます!』
メールを送信し、あたしはパソコンを閉じた。
「はーい! い、ま行くー!」
『ハローワールド』
サウスシャインの森に住むマーモットの子ウッディーと、こぐまのマイニーモーはとても仲良し。
今日もふたりは泥だらけになりながら、森の中をかけまわります。
からだは小さいけれど、頭の回転がはやいウッディー。
おっとり屋だけれど、力持ちのマイニーモー。
かれらはおたがいを尊敬し、そして信頼しあっていました。
ある日ふたりが森で遊んでいると、森では見かけたことのない、人間の女の子が立っています。
「こんにちは」
マイニーモーが、女の子に声をかけます。
「こんにちは」
マイニーモーの挨拶に、女の子も答えました。
「きみの名前は?」
今度は、ウッディーが女の子にたずねました。
「あたしの名前はレティシア。覚えているのは自分の名前だけ」
「聞いたかい? ウッディー。彼女、自分の名前しか覚えてないんだって」
「もちろん、聞こえてたさ、マイニーモー。しかし困ったなぁ。彼女をそのままにはしておけないね」
女の子のそばでふたりは顔を見合わせ、どうしたものかと悩んでいました。
「そうだ! マザーツリーのところへ連れていこう!」
ひらめいたウッディーが提案します。
「それがいいね。きっとマザーならどうすればよいか、教えてくれるかもね」
マイニーモーはウッディーの提案に大賛成。
ふたりは女の子を連れて、森で一番大きく立派な木であるマザーツリーを目指しました。
🐨
マザーツリーのもとにやって来た三人。
ウッディーがマザーツリーに、名前以外のことをなにも思い出せないレティシアを、いったいどうすればよいかたずねます。
マザーはやさしくいいました。
「彼女の帰るべきところを、あなたたちで見つけてあげなさい」
しかし、森の外へ出たことのないウッディーとマイニーモーは、いったいレティシアの帰るべきところが、どんなところなのか、けんとうもつきません。
オロオロととまどうふたりに、ふたたびマザーはやさしくいいました。
「この世界のどこかに、ハローワールドと呼ばれるところがあるそうです。ひょっとすると、そこが彼女の帰るべきところかもしれません」
「そんな見たことも聞いたこともないような場所に、連れていってもらうなんてあなたたちに悪いわ。あたしひとりで行ってみるから、あなたたちは今までどおり、この森で暮らして」
レティシアはふたりに遠慮したのか、とつぜんこんなことをいい出したのです。
それを聞いたウッディーとマイニーモー。
『はい、そうですか』
なんて、つめたいことをいうようなふたりではありません。
「ぼくたちにまかせてよ! かならずきみをハローワールドに連れていってあげるからさ」
そんなふたりのやさしさが、とてもうれしく思えたレティシアは、なんどもお礼をいいました。
🐻
三人はハローワールドを目指し、世界中を旅してまわります。
てりつけるような暑い日も、こごえるような寒い日も、大雨にふられて、身も心もずぶぬれになり、気持ちがぽっきりと折れてしまいそうな日も、強い風にさらされて、一歩も足を前に出せそうにない、そんな日も。
森を抜け、草原を進み、山を越え、川を渡り、あらゆる場所を探しましたが、ハローワールドは見つからないままでした。
ある日、世界の果てにある、雲をつらぬき、空高くそびえるほど高い山の頂上で、海の水平線のはるか彼方を見ながら、レティシアがつぶやきました。
「この海の向こうがわに、目指す場所がありそうな気がする」
「よし! じゃあ海を渡ろう!」
意気揚々と、ウッディーがいいます。
「でも……どうやって?」
マイニーモーは、不安そうです。
「簡単なことさ! 木を切って、大きなイカダを作るんだ!」
マイニーモーは、その考えに大賛成。
「それはよいね! イカダなら海も渡れるものね!」
三人は山をおりると、山の木を使って大きなイカダを作りました。
イカダが完成すると、三人は海へとこぎ出します。
茜色の海をいくつもこえて、茜色の空をいくつも迎えたころ、やがて三人の目の前に、大きな陸地が現れました。
「やった! とうとう到着だ!」
三人は大喜びで陸地に上がると、目の前には大きな森が現れます。
懐かしい香りと、やさしくなでる風、見なれた森と仲間たち、そして森の中央には、ひときわ大きなマザーツリー。
そうです。かれらは長い長い旅の果てに、ついにはもとの場所へと戻ってきてしまったのです。
ハローワールドを見つけられず、ひどくがっかりするふたり。
ところがレティシアは、とても満足そうな笑顔を浮かべてふたりにいいます。
「本当に、本当にありがとう。ふたりのおかげで、あたしは帰る場所を見つけたわ」
「どういうこと?」
ふたりは不思議そうな顔をし、レティシアにたずねました。
「ここよ! この森! あなたたちの住むこの森こそが、あたしの帰る場所だったのよ」
ハローワールドとは、おとぎの国の話だったのでしょうか?
ふたりにはわかりません。
けれども、目を輝かせて満足そうなレティシアの笑顔を見たふたりは、すでに彼女は彼女だけのハローワールドを見つけ出したんじゃないかと思えました。
「きみのお役に立てて光栄さ。なによりきみの帰る場所が、ぼくたちの帰る場所と、同じ場所だったことがとてもうれしいよ。これからもよろしくね」
こうして三人は、マザーツリーの見守る森の中でいつまでも仲良く幸せに暮らしました。
(おわり)
♬
「おっおー、お…おしまい!」
「やだ! もっと! もっとよんで!」
「ひっひか、日夏茉ちゃん、きーきに、気にい…いった?」
「うん!」
「ははっ。さっきまでお母さんがいないってぐずってたのに、その絵本気に入ってくれたみたいだね。きっと茜の読み方が上手なんだよ」
「そっ…そ、そんなこと、ないっ、ない…よ!」
かなえが手を伸ばして本を受け取ると、パラパラと開いて中の絵を見ていく。
「このクマかわいいけど、なんかちょっと不細工だね。これってもしかしてあれ?」
そういって、かなえが部屋の隅に置いてある薬局のおばさんがくれたトートバッグを指差した。中の生理用品を取り出して、今日は水着をいれてある。
「これ、このリボン! かわいい!」
そんなかなえの手首にはめてあるリボンをみて、日夏茉ちゃんが声をあげた。シフォンみたいなピンクのリボンがついたヘアゴムで、かなえにしてはちょっとめずらしい。
でもかわいい。
「お、日夏茉ちゃんお気に召した? これ、友子のお母さんが作ったやつなんだよね。友子リボン嫌いだから要らないって、こないだもらったんだ。他にもあるかもしれないから聞いてみようかな」
――友子がリボンが嫌い⁉
思わず固まるあたしの横で、かなえが手首からリボンのヘアゴムを外して渡すと、日夏茉ちゃんはうれしそうにマネして腕にはめている。
「おぉ~? にあうぞぉー? 日夏茉ちゃんもおそろいにしたいよねぇー。友子はやく来ないかな」
「ひか、みせてくる!」
日夏茉ちゃんは、おばあちゃんに見せるために一階へおりていった。「ばあちゃあ! みてみて!」下からきゃっきゃとはしゃぐ声が聞こえてくる。
あたしはかなえがいったセリフが気になっていた。
「ちょ、ちょちょっとまーまって、とっ友子がり、り…リボンがきらいっい? い…いらない? 要らないって?」
「ああ、そういやほら、茜が図書室で倒れた日あったじゃん。あのとき結構うちら保健室で長いこといてさ、結局先生が静かにしてた方がいいっていうから先に帰っちゃったんだけど、ごめんな。で、あのときに友子が話してたんだけど、友子の着てる服ってさ――」
――友子の服? ふっ、服もなにかあるの?
「ぜんぶお母さんの手作りなんだって」
ええー⁉
「友子のお母さん、いったいいつからかは知らないけど、手芸にはまっちゃって、最初は小物とか作ってたらしいんだけどどんどん上手になって、もはや朝起きると毎日っていっていいくらい、ワンピースができちゃってるらしいよ。ほんとはピンクとかレースとかはあんまり好きじゃないんだけど、断わるとかなしい顔されてかわいそうだから、やっぱり着ちゃうんだってさ」
友子がピンクの服をいやがってたなんて! じゃあもしかして、いつも袖口をいじってたのもリボンが気になってたからってこと⁉ あれは、くよくよしてるときのただのクセだと思ってたのに、まさかリボンが邪魔で外したがってただなんて……。
驚いた……、あたしの目はなんて節穴なんだ。
「しーしし知らなっ知らなかった! でもじゃーじゃあな、なら、あーと、い……いっいえばいい、いい…いのに?」
「うんそうだよね、だからあたしもそういったよ。そしたら今度話してみるって。『あたしもほんとはみんなみたいにティーシャツとか着たいんだ』って。まあ、ちょっと驚きだよね」かなえが笑う。
「ほら、バザーとかだってあるしさ。友子のお母さんが手芸好きならシュシュとか作ってもらえばいいよね。 それにティーシャツの袖のとこだけフリルになってるやつは今流行ってるし、なんていうんだっけ、リメイク? 黒とかなら格好よさそうだし」
「そーそれ、それっ…かっ…かーわいい!」
「だよね。ねえそれよりそろそろ友子来るんじゃない?」
「あっ、あー…ちょっとま、待って。メ…メールちょっとだけ、あーと、うー、うつよ」
「おーっす、じゃあ先に下行ってるよ。……日夏茉ちゃーん、そろそろ準備するよー?」
「うん!」
♮
カラーン、カラーン……。
どこかで鐘の音が鳴り響いている。
モクモクとふくらみあがる入道雲と、照りつける太陽にセミの鳴き声、たくさんのハトが、藍色の青空を羽ばたいていく。
あたしは椅子に座り、お母さんのノートパソコンを開く。机の上には、みんなでとった観覧車の遊園地の真新しい写真が飾られていた。
お父さんが、玄関からあたしに叫んでいる。
「茜ぇ⁉ 友子ちゃんが迎えにきたよ! 今日はみんなでプールに行くんだろー? 日夏茉ちゃんのこと頼むなー。じゃあお父さん行ってくるから!」
Re.ハローワールド
『朱里、誕生日おめでとう!
今日は友子たちとプールに行くんだ!
ところで、あたし、絵本作家を目指そうと思うの。
それで相談なんだけど、あなたのペンネームをあたしに使わせてくれない?
将来、朱里みたいなすごい絵本を作ってみせるわ!
帰ったらまたメールするね。
いってきます!』
メールを送信し、あたしはパソコンを閉じた。
「はーい! い、ま行くー!」