がらんとする家の中に入る。お母さんの笑顔にただいまのキスをし、自分の部屋にあがる。今日はいろんなことが起こりすぎて、とても半日とは思えないほどみんなであれこれやっていた気分だ。
 実際に先生にお説教を受けてたから半日じゃないけど……。小学校生活の中で、たった半日で二回も職員室に呼び出されたのも初だ。
 お父さんが聞いたらなんていうかな?

 部屋に入ってパソコンを開くと、メールが一件届いていた。朝学校に出かける前に朱里に送ったメールの返信だ。

『おはよう、茜。
 応援してるよ!
 いってらっしゃい!』

 ランドセルを置いて椅子に座ると、朱里に返事をする。

 Re.ハローワールド
『ただいま!
 帰ってきたらこんな時間になっちゃったよ!
 聞いて! 今日は本当にいろんなことがあったんだよ。
 ああ、でも、なにから話そうかな?』

 とりあえず、家に帰ってきたことをはやく伝えたくて、ここまで書くと送信した。
 すぐに返信がやってくる。

『茜、どうしたの?
 興奮しているみたいね。
 なになに?
 なにがあったの?』

 うれしくなり、今日の出来事を説明する。次々にメールを送りながら、どんどん胸がふくらんでくる。もっと、もっとたくさん話したい! あたしの説明は下手かもしれないけど、朱里は全部受けとめてくれた。
 そして今日のあたしの大きすぎる一歩に驚き、祝福してくれる。

『茜さすがね!
 あたしも鼻が高いわ!』

 話に盛りあがっていると、夕食の買い出しを頼まれていたことを思い出した。

 Re.ハローワールド
『ごめん朱里!
 あたし、お父さんに買い出し頼まれてたの思い出したよ!
 今から行ってくるから、帰ったらまたメールするね』

 リビングにおりて、テーブルに置かれた買物リストとお金を手に取る。でもそのとき、なにかいいようのない違和感があった。

 ――なんだろう?

 ・牛肉
 ・ジャガイモ
 ・たまねぎ
 ・人参
 ・シチューの素
 ・フランスパン

 いつもと変わらないお父さんの字。だけど次の瞬間、心臓が口から飛び出しそうになる。その便せんが、朱里から以前もらった手紙とまったく同じやつだということに気づいたからだ。白地の和紙に植物のシルエットが黒で印刷されている。
 ――どういうこと⁉ 同じものが偶然家にあったってこと?
 その紙の出所が気になって仕方なくなり、家中の棚や引き出しを開けて、便せんの残りを探し始めた。リビングにもキッチンにも洋間にもない。もちろんあたしの部屋にあったらとっくに気づいてるはずだ。残るはお父さんの部屋だけ……。
 あたしはお父さんの部屋に忍びこみ物色し始めた。