ポロン♭
『おかえり、茜!
友だちのことで悩んでいるの?
あたしが思うに、友だちってきっと鏡のようなものだと思うわ。』
五分がやけに長く感じた。待っていた時間に比例して、期待が高まってたのかもしれない。メールの文面がそっけなく感じられてすごくさみしい気持ちになる。
だけど鏡ってどういう意味だろう。同じ姿が映るってこと?
それとも逆の姿が映るってこと?
Re.ハローワールド
『鏡? なんでそう思うの?』
ポロン♭
『その鏡には、ときに自分の理想が映ったり、
ときにこうはなりたくない、なんて姿が映ったり様々よ。
でも、鏡の相手を思えば思うほど、鏡もこちら側に反応してくれるものだと思うの。
そうやって、学んだり、気づかされたりして一緒に成長していく。
友だちって、そんな魔法の鏡のようなものよ、きっと。』
――相手を思えば思うほどこちらに反応する?
あたしは何度もその文面を読み直した。とても大切なことが書いてある気がしたからだ。抽象的だけど、大事なことが。
一緒に成長していく、なんて考えたこともなかった。みんなそれぞれにお父さんとお母さんがいて、学校で勉強してもちろん成長はするだろう。でも鏡を見ながら成長するってどういうこと? わかるようなわからないような……。
朱里のいうことはとても難しく感じた。
Re.ハローワールド
『友だちが鏡だとして、朱里がいってるのは、
そこに自分と同じような姿が映ったり、逆の姿が映るってこと?
性格とか趣味が似た子たちは、学校でもだいたい仲がいいから、
同じ姿が映るっていうのはなんとなくわかるよ。
でも、逆が映るってどういうこと?
絶対こうはなりたくない! って相手も鏡だってことなのかな……。』
根本があたしの鏡だったらすごくイヤだ……。
もちろん友だちだなんて思ったこともないけど。
返信を待っている間に、もう一度メールを読みながら考えた。何度読んでも難しいけど、そういえば魔法の鏡って、白雪姫に出てくる魔女が使ってた鏡のことだよね? ……あたしは追加でメールする。
『魔法の鏡ってさ、白雪姫だよね?
〝鏡よ、鏡、鏡さん、世界で一番美しいのはだぁれ?〟ってやつ。
あの魔女は〝それは王妃様、あなたです〟って
鏡に無理やり答えさせてたんじゃなかったっけ。』
ポロン♭
『白雪姫の物語で、魔法の鏡は真実だけを話してるわ。
だからある日魔女は、魔法の鏡をたたき割ってしまうのよ。
魔法の鏡が「世界で一番美しいのは白雪姫さまです」と答えるのを聞いてね。
人は見たくないものに、蓋をする生き物なのよ。
魔女も同じだったのね。』
朱里の説明は、正しいような気もするし、矛盾しているような気もする。でもそれでもあたしは朱里に支えられてるってことがよくわかった。
朱里はとても頭がいい。それになによりあたしのことを一番に考えてくれてる。今はすべてがわからなくても、きっとちょっとずつは、理解できるようになるのかもしれないなって、少しだけど、明るい気持ちになっていたんだ。
朱里はいつだってあたしを励まし支えてくれる。
そして朱里の言葉はそんな魔法の力を帯びている。
Re.ハローワールド
『むずかしいね。魔女はどうすればよかったのかな。
白雪姫を殺さないで、友だちになる方法はあったのかな?
7人の小人が何度も白雪姫を助けたんだっけ?』
継母なのに友だちなんて、なにか変かな?
ポロン♭
『そうね、白雪姫には7人の小人という友だちがいたわ。
7人の小人たちは、それぞれがまったく違う性格なのよ。
ドック、ハッピー、グランピー、スリーピー。
スニージー、バッシュフル、ドーピーの7人。
彼らは順に、頭が良かったり、ごきげんだったり、
怒りんぼだったり、ねぼすけだったり、くしゃみをしたり、
てれやさんだったり、おとぼけだったりなの。
グランピーは怒りんぼだけど、誰もグランピーに対して怒ったりしないし、
ドーピーはおとぼけで言葉を話さないけど、
誰もドーピーに対してダンマリなんてしないわ。
楽しく話しかけるのよ。
7人の小人たちは、全員そろって白雪姫の「一人の友だち」であったのと同時に、
7人それぞれが、それぞれの友だちでもあったのね。』
――朱里もしかして吃音のこと知ってる⁉
あたしはドキッとした。もしかして朱里は、あたしが吃音だってことを知ってるんじゃないかって思えたからだ。いったい誰から聞いたの? でもそうと決まったわけでもないし……。
とりあえずあたしはパソコンの前で首を振った。友だちを鏡にたとえたり、7人の小人が白雪姫の友だちでみんな性格が違うとか、朱里がいいたいことはなんとなくだけどわかる。でも7人の小人の中に、話せない小人なんていたっけ?
これは、朱里の創作なんじゃないかってふと疑問に思う。もしそんな小人がいたとして、今出すのはちょっとタイミングが良すぎるって思ったんだ。
でもせっかく書いてくれてるのに、そんなこと聞けないし突っ込めない……。
それより、朱里が吃音のことを知ってるかもしれないなんて考えたことがなかったから、これ以上この話を続けるのが急にこわくなっていた。
あたしは話をそらした。
Re.ハローワールド
『朱里も、友だちのことで悩んだり、失敗したことってある?』
ポロン♭
『もちろんよ!
あたしが茜くらいの年のときなんて、そりゃあひどかったわ。
毎日、男の子と取っ組み合いのけんかしてたし、人を見た目で判断してたしで、
とにかくクラスからは孤立しっぱなしだったわ。』
意外すぎる朱里の言葉に、あたしは驚きを隠せなかった。
Re.ハローワールド
『ちょっと待ってよ! 朱里、あたしにいったじゃない?
暴力はよくないって! あたしに対して残念だって!
弱い人間だって! あれはいったいなんだったの⁉』
ポロン♭
『もちろん暴力はダメに決まってるわ。
あたしはたくさん失敗することで、暴力ではなにも解決しないって気づいたの。
いい? 茜、いっさい失敗せずに大人になっていくことほど、こわいものはないわ。
人は失敗から学ぶ方がはるかに多いのよ。
自分のした失敗を、失敗だと認めることができない人こそが、
残念だし弱い人間だと思うのよ。』
朱里に憧れて、「もしあたしが朱里だったら」と〝正しいこと〟をやってみようと真似をして頑張った。その結果、うまくいかなくておかしくなってしまっている。
でもあたしは朱里の考えを勘違いしていたようだ。
朱里は「正しい選択」をしてほしいわけじゃなかったってこと。むしろ失敗をおそれずにたくさん失敗することで、なにがダメでなにがダメじゃないのかを、あたしに気づいてほしかったんだ。
Re.ハローワールド
『朱里! サンキュー! なんだか、あたし吹っ切れた気分だよ!』
ポロン♭
『よかった! あたしは茜の味方だよ!
いつだって茜を支えるからね!』
友だちがなにかなんてことも、これからどうしたらいいかも全然わかってないままだけど、必要なのは、今すぐわかろうとすることじゃなくて、こうやって悩むことなんだ。
そっちの方がずっと大事だよって、朱里がいいたいのはきっとそういうことなんだろう。
『おかえり、茜!
友だちのことで悩んでいるの?
あたしが思うに、友だちってきっと鏡のようなものだと思うわ。』
五分がやけに長く感じた。待っていた時間に比例して、期待が高まってたのかもしれない。メールの文面がそっけなく感じられてすごくさみしい気持ちになる。
だけど鏡ってどういう意味だろう。同じ姿が映るってこと?
それとも逆の姿が映るってこと?
Re.ハローワールド
『鏡? なんでそう思うの?』
ポロン♭
『その鏡には、ときに自分の理想が映ったり、
ときにこうはなりたくない、なんて姿が映ったり様々よ。
でも、鏡の相手を思えば思うほど、鏡もこちら側に反応してくれるものだと思うの。
そうやって、学んだり、気づかされたりして一緒に成長していく。
友だちって、そんな魔法の鏡のようなものよ、きっと。』
――相手を思えば思うほどこちらに反応する?
あたしは何度もその文面を読み直した。とても大切なことが書いてある気がしたからだ。抽象的だけど、大事なことが。
一緒に成長していく、なんて考えたこともなかった。みんなそれぞれにお父さんとお母さんがいて、学校で勉強してもちろん成長はするだろう。でも鏡を見ながら成長するってどういうこと? わかるようなわからないような……。
朱里のいうことはとても難しく感じた。
Re.ハローワールド
『友だちが鏡だとして、朱里がいってるのは、
そこに自分と同じような姿が映ったり、逆の姿が映るってこと?
性格とか趣味が似た子たちは、学校でもだいたい仲がいいから、
同じ姿が映るっていうのはなんとなくわかるよ。
でも、逆が映るってどういうこと?
絶対こうはなりたくない! って相手も鏡だってことなのかな……。』
根本があたしの鏡だったらすごくイヤだ……。
もちろん友だちだなんて思ったこともないけど。
返信を待っている間に、もう一度メールを読みながら考えた。何度読んでも難しいけど、そういえば魔法の鏡って、白雪姫に出てくる魔女が使ってた鏡のことだよね? ……あたしは追加でメールする。
『魔法の鏡ってさ、白雪姫だよね?
〝鏡よ、鏡、鏡さん、世界で一番美しいのはだぁれ?〟ってやつ。
あの魔女は〝それは王妃様、あなたです〟って
鏡に無理やり答えさせてたんじゃなかったっけ。』
ポロン♭
『白雪姫の物語で、魔法の鏡は真実だけを話してるわ。
だからある日魔女は、魔法の鏡をたたき割ってしまうのよ。
魔法の鏡が「世界で一番美しいのは白雪姫さまです」と答えるのを聞いてね。
人は見たくないものに、蓋をする生き物なのよ。
魔女も同じだったのね。』
朱里の説明は、正しいような気もするし、矛盾しているような気もする。でもそれでもあたしは朱里に支えられてるってことがよくわかった。
朱里はとても頭がいい。それになによりあたしのことを一番に考えてくれてる。今はすべてがわからなくても、きっとちょっとずつは、理解できるようになるのかもしれないなって、少しだけど、明るい気持ちになっていたんだ。
朱里はいつだってあたしを励まし支えてくれる。
そして朱里の言葉はそんな魔法の力を帯びている。
Re.ハローワールド
『むずかしいね。魔女はどうすればよかったのかな。
白雪姫を殺さないで、友だちになる方法はあったのかな?
7人の小人が何度も白雪姫を助けたんだっけ?』
継母なのに友だちなんて、なにか変かな?
ポロン♭
『そうね、白雪姫には7人の小人という友だちがいたわ。
7人の小人たちは、それぞれがまったく違う性格なのよ。
ドック、ハッピー、グランピー、スリーピー。
スニージー、バッシュフル、ドーピーの7人。
彼らは順に、頭が良かったり、ごきげんだったり、
怒りんぼだったり、ねぼすけだったり、くしゃみをしたり、
てれやさんだったり、おとぼけだったりなの。
グランピーは怒りんぼだけど、誰もグランピーに対して怒ったりしないし、
ドーピーはおとぼけで言葉を話さないけど、
誰もドーピーに対してダンマリなんてしないわ。
楽しく話しかけるのよ。
7人の小人たちは、全員そろって白雪姫の「一人の友だち」であったのと同時に、
7人それぞれが、それぞれの友だちでもあったのね。』
――朱里もしかして吃音のこと知ってる⁉
あたしはドキッとした。もしかして朱里は、あたしが吃音だってことを知ってるんじゃないかって思えたからだ。いったい誰から聞いたの? でもそうと決まったわけでもないし……。
とりあえずあたしはパソコンの前で首を振った。友だちを鏡にたとえたり、7人の小人が白雪姫の友だちでみんな性格が違うとか、朱里がいいたいことはなんとなくだけどわかる。でも7人の小人の中に、話せない小人なんていたっけ?
これは、朱里の創作なんじゃないかってふと疑問に思う。もしそんな小人がいたとして、今出すのはちょっとタイミングが良すぎるって思ったんだ。
でもせっかく書いてくれてるのに、そんなこと聞けないし突っ込めない……。
それより、朱里が吃音のことを知ってるかもしれないなんて考えたことがなかったから、これ以上この話を続けるのが急にこわくなっていた。
あたしは話をそらした。
Re.ハローワールド
『朱里も、友だちのことで悩んだり、失敗したことってある?』
ポロン♭
『もちろんよ!
あたしが茜くらいの年のときなんて、そりゃあひどかったわ。
毎日、男の子と取っ組み合いのけんかしてたし、人を見た目で判断してたしで、
とにかくクラスからは孤立しっぱなしだったわ。』
意外すぎる朱里の言葉に、あたしは驚きを隠せなかった。
Re.ハローワールド
『ちょっと待ってよ! 朱里、あたしにいったじゃない?
暴力はよくないって! あたしに対して残念だって!
弱い人間だって! あれはいったいなんだったの⁉』
ポロン♭
『もちろん暴力はダメに決まってるわ。
あたしはたくさん失敗することで、暴力ではなにも解決しないって気づいたの。
いい? 茜、いっさい失敗せずに大人になっていくことほど、こわいものはないわ。
人は失敗から学ぶ方がはるかに多いのよ。
自分のした失敗を、失敗だと認めることができない人こそが、
残念だし弱い人間だと思うのよ。』
朱里に憧れて、「もしあたしが朱里だったら」と〝正しいこと〟をやってみようと真似をして頑張った。その結果、うまくいかなくておかしくなってしまっている。
でもあたしは朱里の考えを勘違いしていたようだ。
朱里は「正しい選択」をしてほしいわけじゃなかったってこと。むしろ失敗をおそれずにたくさん失敗することで、なにがダメでなにがダメじゃないのかを、あたしに気づいてほしかったんだ。
Re.ハローワールド
『朱里! サンキュー! なんだか、あたし吹っ切れた気分だよ!』
ポロン♭
『よかった! あたしは茜の味方だよ!
いつだって茜を支えるからね!』
友だちがなにかなんてことも、これからどうしたらいいかも全然わかってないままだけど、必要なのは、今すぐわかろうとすることじゃなくて、こうやって悩むことなんだ。
そっちの方がずっと大事だよって、朱里がいいたいのはきっとそういうことなんだろう。