ーーー そして放課後。いつもの4人に加え、今日から新たに加わった顔。
田舎ということもあり、殆ど人通りのない道を、5人で並び歩く。
「ごめんね~。そういえば、みのりんのお家、反対側だったよね。遠回りになっちゃったよね?」
穂の家は、学校近くではあるが、方向的には、4人とは真反対に位置していた。
「ううん。別に大丈夫だよ。そんな大変な距離じゃないし。どうせ、帰っても1人だから」
穂のあっけらかんとそう言い放つが、他4人は、「帰っても1人」の部分に気を向ける。
「ねぇ! ちょっと、ばぁばの店、寄っていっていい?」
少し陰の方へ傾きかけた空気の軌道を修正するように、春がそう提案をする。
「おお!行こうぜ! そういえば、最近、ゼリ炭飲んで無かったし、久しぶりに飲みたいぜ」
太陽もその提案に前のめりで賛成する。
「だね。あれたまに、無性に飲みたくなるからね」
類もまた、それに乗っかるように言葉を残す。
「よっし! じゃあ、まずは、ばぁばの店だね!」
双葉はそう意気揚々と歩幅を少し大きくさせる。
「ばぁばの店? ゼリ炭? 」
その会話の中に至極当然の如く現れた2つのワードに、穂は首を傾げる。
「ん?あぁ。ばぁばの店ってのは、気の良いおばあさんが、1人でやってる小さな商店だよ。まぁ、小さなコンビニとでも思ってくれていいよ。んで、ゼリ炭は、ゼリー炭酸っていうジュースだけど、もしかして、飲んだことない感じ?」
穂の疑問に、代表して答えた太陽は、もうひとつの疑問を残す。
「うん。見たことはあるかもしれないけど」
「マジか! あれを飲んでいないとは! いいか、俺達の秘密基地の仲間入りをしたんだ! あれを飲まないと始まらないからな!」
「え? え? なにそれ? 何か恒例行事みたいな? 儀式みたいな?」
「もう陽くん! みのりんを困らせないよ! みのりん、陽くんは、こういう適当な事があるから、お話は半々聞き逃してもいいからね!」
「ひど!」
そんな軽快なやり取りの一部となった穂は、初めて感じる居心地に小さく微笑んだ。
ばぁばの店。それは、通称という事はなく、塗装の剥げた看板に、薄っすらとそう記されている。外壁も所々に傷や落書きがあったり、草花を擦り付けたように、色がついている部分もある。
パッと見で、まだ営業中とは思えないほど、存在感のない外装。
「こんにちは! おばちゃん!」
自宅一体化した店のレジ奥にある居間で、恐らくテレビを見ているであろう、店の主に声をかける太陽。
するとそのレジ奥の引き戸の奥から、「あいよ〜」と返答が聞こえる。
「うし!じゃあ、ちゃっちゃと買い物を済ませるか〜。俺がまとめて買うから、後で精算な〜」
そう言いつつ、慣れた手つきで、籠に人数分のゼリー炭酸ジュースを放り込む太陽。
類、春、双葉もまたその流れに慣れたように、紙パックのコーヒー牛乳や、アメリカではお馴染みの緑色のパッケージが特徴的な炭酸ジュースや、ミルクティーなど、各々好きな物を、太陽の持つ籠に放り込んだ。
「ああ。みのりんも! 好きな物をどんどん入れてね! 後でまとめて精算するから、奢りという訳じゃないから、気を遣う事はないよ!」
「え?う、うん」
入口で面くらっていた穂は、双葉に促されるようにして、店内を巡回しはじめた。
ーーー 太陽がまとめて会計を済ませ、一行は基地へと向かう。
「ここって。お祭りとか、ピクニックとかで来たことあったけど、こんな所に秘密基地なんて、本当にあるの?」
穂は、公園の入口に差し掛かると、園内を脳内で歩き回り、基地らしき場所に身に覚えがない事を確認する。
「まぁ。簡単に見つかるような場所にはないよ。秘密基地っていうくらいだからね」
類は、そう淡々と穂の問いに答える。
「まぁ。そういうことだよね」
そして一行は、駐車場脇の小道に入り込むと、木々から漏れる陽の光を踏んで基地を目指す。
穂はそんな光景ひとつひとつ新鮮に目に焼き付けていく。
「はい!到着!ただいま!」
太陽はそう、誰に言うともなく、小屋へ入室する。
その後に類と春も続く。
穂は、突如現れたプレハブに何度目かの面をくらい、辺りを見渡す。
「ここが、私達の秘密基地! どう? 気に入った?」
そんな様子を入口付近で振り返り眺めていた双葉が、そう声をかける。
「うん。なんか、こういうの初めてだから、少しわくわくする」
「ふふっ! 気に入ってくれると思ってた。それでね、あっちにはもっと拓けた場所があってね! 夏祭りに花火を打ち上げるでしょ? その超穴場スポットなの! 私達祭りの度に、屋台でいっぱい食べ物やら、飲み物を買って、基地でパーティーして、最後にみんなで花火を見るの! いいでしょ? 今年はみのりんも一緒にしようね!」
「いいの? 私も?」
そんな魅力的な提案にも、自分を卑下するように、迷いを浮かべる穂。
「あったりまえでしょ! 私達はもう友達! ね! 」
屈託なく、木漏れ日のように淡くもない。しっかりとそこに存在していて、曇の概念もない晴れ空のような双葉の笑みに、穂もまた自然と笑みを零す。
「うん!」
「よし! じゃあ、入ろうか! みんなも待ってるだろうし!」
そうして、双葉と穂も秘密基地へと足を踏み入れる。その様子を木々の影から鋭く見つめる、白い小さなシルエットには気づくことは無かった。
ーー 「じゃあ、新しい仲間を祝いまして!乾杯!」
そんな双葉の音頭を合図に、ゼリー炭酸で乾杯をする一行。
「うめぇー、やっぱり、うめぇ〜」
太陽はいの一番にゼリー炭酸に口をつけると、グレープ味でゼリー状のなのに、舌を細かく刺すような刺激を感じる不思議な感覚に酔いしれている。
太陽に続き各々が口にゼリー炭酸を運び、控えめにため息をひとつ溢す。
穂もまた、恐る恐るそれを口に運び、初めての感覚に驚きを見せながらも小さく「美味しい」と溢した。
「だろ! 分かってんね〜! 穂! 俺はお前を、ここの一員として認めよう! な! みんな!」
その溢れた言葉を聞き逃さなかった太陽は、そう盛大に宣言をする。しかし、それに賛同する物は居らず、基地内に、木々の揺れる音すら、介入する事を拒む程の無が流れる。
「あれ? 聞こえなかった? 俺は、穂をこの基地の一員として認める!」
その無の空気に耐えられなずに、太陽はそう繰り返し宣言をするも、それに対して春と双葉の心情も代弁するかのように、冷静な口調で類がこう声にする。
「いや、まだ認めてなかったのかよ」
田舎ということもあり、殆ど人通りのない道を、5人で並び歩く。
「ごめんね~。そういえば、みのりんのお家、反対側だったよね。遠回りになっちゃったよね?」
穂の家は、学校近くではあるが、方向的には、4人とは真反対に位置していた。
「ううん。別に大丈夫だよ。そんな大変な距離じゃないし。どうせ、帰っても1人だから」
穂のあっけらかんとそう言い放つが、他4人は、「帰っても1人」の部分に気を向ける。
「ねぇ! ちょっと、ばぁばの店、寄っていっていい?」
少し陰の方へ傾きかけた空気の軌道を修正するように、春がそう提案をする。
「おお!行こうぜ! そういえば、最近、ゼリ炭飲んで無かったし、久しぶりに飲みたいぜ」
太陽もその提案に前のめりで賛成する。
「だね。あれたまに、無性に飲みたくなるからね」
類もまた、それに乗っかるように言葉を残す。
「よっし! じゃあ、まずは、ばぁばの店だね!」
双葉はそう意気揚々と歩幅を少し大きくさせる。
「ばぁばの店? ゼリ炭? 」
その会話の中に至極当然の如く現れた2つのワードに、穂は首を傾げる。
「ん?あぁ。ばぁばの店ってのは、気の良いおばあさんが、1人でやってる小さな商店だよ。まぁ、小さなコンビニとでも思ってくれていいよ。んで、ゼリ炭は、ゼリー炭酸っていうジュースだけど、もしかして、飲んだことない感じ?」
穂の疑問に、代表して答えた太陽は、もうひとつの疑問を残す。
「うん。見たことはあるかもしれないけど」
「マジか! あれを飲んでいないとは! いいか、俺達の秘密基地の仲間入りをしたんだ! あれを飲まないと始まらないからな!」
「え? え? なにそれ? 何か恒例行事みたいな? 儀式みたいな?」
「もう陽くん! みのりんを困らせないよ! みのりん、陽くんは、こういう適当な事があるから、お話は半々聞き逃してもいいからね!」
「ひど!」
そんな軽快なやり取りの一部となった穂は、初めて感じる居心地に小さく微笑んだ。
ばぁばの店。それは、通称という事はなく、塗装の剥げた看板に、薄っすらとそう記されている。外壁も所々に傷や落書きがあったり、草花を擦り付けたように、色がついている部分もある。
パッと見で、まだ営業中とは思えないほど、存在感のない外装。
「こんにちは! おばちゃん!」
自宅一体化した店のレジ奥にある居間で、恐らくテレビを見ているであろう、店の主に声をかける太陽。
するとそのレジ奥の引き戸の奥から、「あいよ〜」と返答が聞こえる。
「うし!じゃあ、ちゃっちゃと買い物を済ませるか〜。俺がまとめて買うから、後で精算な〜」
そう言いつつ、慣れた手つきで、籠に人数分のゼリー炭酸ジュースを放り込む太陽。
類、春、双葉もまたその流れに慣れたように、紙パックのコーヒー牛乳や、アメリカではお馴染みの緑色のパッケージが特徴的な炭酸ジュースや、ミルクティーなど、各々好きな物を、太陽の持つ籠に放り込んだ。
「ああ。みのりんも! 好きな物をどんどん入れてね! 後でまとめて精算するから、奢りという訳じゃないから、気を遣う事はないよ!」
「え?う、うん」
入口で面くらっていた穂は、双葉に促されるようにして、店内を巡回しはじめた。
ーーー 太陽がまとめて会計を済ませ、一行は基地へと向かう。
「ここって。お祭りとか、ピクニックとかで来たことあったけど、こんな所に秘密基地なんて、本当にあるの?」
穂は、公園の入口に差し掛かると、園内を脳内で歩き回り、基地らしき場所に身に覚えがない事を確認する。
「まぁ。簡単に見つかるような場所にはないよ。秘密基地っていうくらいだからね」
類は、そう淡々と穂の問いに答える。
「まぁ。そういうことだよね」
そして一行は、駐車場脇の小道に入り込むと、木々から漏れる陽の光を踏んで基地を目指す。
穂はそんな光景ひとつひとつ新鮮に目に焼き付けていく。
「はい!到着!ただいま!」
太陽はそう、誰に言うともなく、小屋へ入室する。
その後に類と春も続く。
穂は、突如現れたプレハブに何度目かの面をくらい、辺りを見渡す。
「ここが、私達の秘密基地! どう? 気に入った?」
そんな様子を入口付近で振り返り眺めていた双葉が、そう声をかける。
「うん。なんか、こういうの初めてだから、少しわくわくする」
「ふふっ! 気に入ってくれると思ってた。それでね、あっちにはもっと拓けた場所があってね! 夏祭りに花火を打ち上げるでしょ? その超穴場スポットなの! 私達祭りの度に、屋台でいっぱい食べ物やら、飲み物を買って、基地でパーティーして、最後にみんなで花火を見るの! いいでしょ? 今年はみのりんも一緒にしようね!」
「いいの? 私も?」
そんな魅力的な提案にも、自分を卑下するように、迷いを浮かべる穂。
「あったりまえでしょ! 私達はもう友達! ね! 」
屈託なく、木漏れ日のように淡くもない。しっかりとそこに存在していて、曇の概念もない晴れ空のような双葉の笑みに、穂もまた自然と笑みを零す。
「うん!」
「よし! じゃあ、入ろうか! みんなも待ってるだろうし!」
そうして、双葉と穂も秘密基地へと足を踏み入れる。その様子を木々の影から鋭く見つめる、白い小さなシルエットには気づくことは無かった。
ーー 「じゃあ、新しい仲間を祝いまして!乾杯!」
そんな双葉の音頭を合図に、ゼリー炭酸で乾杯をする一行。
「うめぇー、やっぱり、うめぇ〜」
太陽はいの一番にゼリー炭酸に口をつけると、グレープ味でゼリー状のなのに、舌を細かく刺すような刺激を感じる不思議な感覚に酔いしれている。
太陽に続き各々が口にゼリー炭酸を運び、控えめにため息をひとつ溢す。
穂もまた、恐る恐るそれを口に運び、初めての感覚に驚きを見せながらも小さく「美味しい」と溢した。
「だろ! 分かってんね〜! 穂! 俺はお前を、ここの一員として認めよう! な! みんな!」
その溢れた言葉を聞き逃さなかった太陽は、そう盛大に宣言をする。しかし、それに賛同する物は居らず、基地内に、木々の揺れる音すら、介入する事を拒む程の無が流れる。
「あれ? 聞こえなかった? 俺は、穂をこの基地の一員として認める!」
その無の空気に耐えられなずに、太陽はそう繰り返し宣言をするも、それに対して春と双葉の心情も代弁するかのように、冷静な口調で類がこう声にする。
「いや、まだ認めてなかったのかよ」