ーーー昼休み。 屋上。
「やぁ! 来たよ! みのりん!」
今日も今日とて、双葉は意気揚々と屋上を訪れる。
「本当に毎日くるんだね?」
そんな双葉を待ちわびていたかのように、フェンス背中を凭れさせ、地べたに腰掛ける穂。
「あれ?」
双葉は、大きく手を振り行進しながら、穂に近寄ると、呆気に取られたように立ち尽くす。
「ん? どうしたの?」
「いや、ほら、いつものあれはやらないのかなぁ〜って」
そう言いながら、双葉は、穂が習慣としている、深呼吸の動作をする。
「ああ。あれね。まぁ、なんというか。もう別に、必要ないかなと思ってさ。その、今はそんなに、息苦しくないし」
「ん?」
双葉はそんな穂の言葉にも、まだ疑問が解決されずに、首を傾げて見せながら、穂の隣に腰を下ろす。
「汚れるよ。私はいいけどさ」
「うん。私も別にいいよ」
そうして2人並んで、今日もまた青く染まる空を見上げる。
「そういえば、あの時の答え聞いてなかったね? 」
「あの時の答え?」
「うん! ほら、ここ鍵がかかってるはずじゃん! なのに、どうやって入ったのかって話!」
「ああ、あれね、簡単な事だよ」
穂は、大きく背伸びをするように、両手を空にぐっと伸ばす。
「あれは言ってしまえば、言葉で鍵をかけているだけ。実際は、鍵なんて始めからかかってなかったのよ。口ではそう言って、勝手に生徒達の脳に、屋上は鍵がかかっていて入れない。そんな刷り込みをしているだけ」
「何それ? 所謂、ミスリードってやつ!?」
双葉は目を、ラムネの中のビー玉に映した陽の光のように、キラキラと目を輝かせる。
「そんな大層なものでも無いと思うけど。そういう、捉え方はできるかもね」
「凄いね! みのりんはあれだね! 」
そこで双葉は一拍置いて息を整える。その醸し出すオーラに、穂も思わず息を呑んで次の言葉を待つ。
「高評価の映画みたいだね!」
「え?」
しかし、次に紡がれた双葉の言葉は、そんな的を得ているようだが、一見分かりにくい例えだった。
「でもさ私思うんだ。所謂、一捻りある映画、どんでん返し系の映画ってやつ? あれさ、最初から、衝撃の展開!! みたいな触れ込みがあるとさ、こっちもミスリードとかをより敏感に探すわけじゃん。それで、先を読めちゃうパターンって、結構あるくない?」
「うん。それは凄く分かる」
「ね! だよね! みのりんなら分かってくれると思ったよ!」
双葉はそう喜びという感情を表情に全振りすると、穂の両手を、自分の両手で包むように握る。
そんな様子を、屋上の入口の扉の隙間から、覗き見る3つの頭。上から団子のように並んだ、春、類、太陽だ。
「おいおい。どう思う?類?」
太陽が地面すれすれに顎を浮かばせながら、黒目だけで上にいる類に視線を送る。
「どう思うって言われてもさ。双葉の恋愛の対象が、女の子だったとしても、何も思わないけど」
「な! 寧ろありがとうございます!って感じだよな! な!」
「いや、それは思ってないけどさ」
「つまり!私も、双葉ねぇとワンチャン!」
「おいこら、妹よ。お前まで」
と三者三様の思惑を浮かべている他所で、穂は双葉に手を握られ、不意に視線を外した先に居る、3つの人影に気づく。
「所で。あれは双葉さんのストーカーか何か?」
その身に覚えのない言葉に、素早く振り返る双葉。
そこには明らかに見覚えのある顔が3つ。
「ああ。うん。まあ、いいんじゃない。放って置いて」
「え? いいの? 」
「うん。いいの! それでさ…… 」
まだ、双葉の顔越しに見える3人を気にしつつも、真反対に気にする素振りも見せず話を続ける双葉の声に、耳を傾ける穂。
一方、その様子を眺めている団子3兄妹。
「なぁ。絶対に今、こっち見てたよな?」
1番下の太陽は、遠目でも分かる程、明らかに顔をこちらに向け、何事もなかったように、会話を再開させた2人の様子が、見間違いではなかったであろう事を、2人に問う。
「うんうん。見てた 」
その問いに答えるように、1番上の春が、類の頭頂部に顎を擦り付けるように、3度頷いてみせる。
「おい! いてぇよ! 禿げたらどうすんだよ!?」
いくら顎とはいえ、摩擦を与えられれば、多少のダメージは負うらしく、類は黒目だけを上に向け、春がを睨みつける。
「そう言えばさ、つむじを押すと、下痢になるってやつ、本当なのか?」
その会話の流れに身を預けるようにして、そんな身にならない疑問を口にする太陽。
「え? なにそれ? 本当に!? おにぃ、やってみていい?」
「やめろ!」
「良いじゃん! やってやれ! やってやれ!」
「てめぇ〜ごら!」
「痛っ! いてぇ!!!」
その迷信に踊らされるように、類のつむじを顎で押そうと構える春。そんな春を煽る太陽。そして、そんな太陽に鉄槌を下す類。という構図が完成する。
「おい!! お前達!! そこで、何をやってるんだ!!」
その太陽の声を便りに、階段下から現れたのは、生徒指導の役職を持つ教師だった。
それから生徒指導室に呼ばれた3人。そして巻き添えを食らった双葉と穂も加え、長い説教の末に開放される一行。
「もう。あんた達のせいで、流れ弾食らったんだけど〜 みのりんも、お気に入りの場所が行けなくなって、残念だよね?」
生徒指導室から、教室までの道すがら、狭い廊下を女子3人が先頭に、男子2人が後に並ぶ、2列の小さな群れの中、先頭の真ん中でそう口を尖らせる双葉。
「え? いや、私は何も………」
「いいのいいの!気を遣わなくて! 」
「でもさ、双葉ねぇ。屋上って立ち入り禁止だよね? そもそも、そこにいる時点でアウトなんじゃ?」
先頭の右端、春が男子2人が触れていなかった核心をつく。
「それは………そうだけどさ。そもそも、バレなければ、罪も罪にならないの!」
「おいおい。とんでもねぇ発言だぞそれ?」
双葉の開き直りに、太陽ですら呆れている。
「双葉さん達ってどういう関係なの?」
そんな4人の空気感を端から感じ取っていた穂は、自分の知らない感覚に戸惑いを浮かべている。
「所謂、幼馴染ってやつだよ! はるるんとルイルイは、兄妹だけどね」
「幼馴染………」
聞き馴染みはありながら、身近ではないそんな関係性に、目を伏せる穂。
その前髪で隠れた表情変化を、空気感から読み取った双葉は、パンっと手を打ち合わせる。
「そうそう! みのりん! 今日の放課後はお暇かな? 私達は、いつも通りに、溜り場に行くんだけど、良かったら一緒に来ない?」
「基地?」
映画やアニメや漫画、フィクションの話をしなければ、恐らく聞くことのないであろうそのワードに、穂は疑問符を加えて復唱する。
「うん! 私達の秘密基地だよ!」
穂はその「私達」の部分に引っかかりを覚えて、前髪の隙間から双葉以外の3人を見回す。
「あ、えっと。だって、その秘密基地ってさ。所謂、幼馴染だけの、秘密の場所でしょ? 部外者の私が、ズケズケと入り込んでいいの?」
「何を言ってんのさ! 禁足地なわけじゃあるまいし! みのりんはもう友達だし! 私の友達は、みんなの友達! そういう事! ね! いいでしょ? みんな? 」
双葉もまた、くるりと体を翻しながら、3人に視線を送る。
「私はいいよ!」と春。
「俺も」と太陽。
「まぁ、断る理由なんてないしね」と類がそれぞれ承諾の意を示す。
「ね! みんなもこう言ってるし! どうかな?」
「え? ま、まぁ。そこまで言ってくれるのなら」
「やったね!」
双葉は穂に満面の笑みを浮かべながら、飛びつくように抱きしめると、穂は困惑したように、両手を宙で迷子にさせている。
そんな様子を、やれやれと、子を見守る保護者のように、類、春、太陽は目配せをして微笑んだ。
「やぁ! 来たよ! みのりん!」
今日も今日とて、双葉は意気揚々と屋上を訪れる。
「本当に毎日くるんだね?」
そんな双葉を待ちわびていたかのように、フェンス背中を凭れさせ、地べたに腰掛ける穂。
「あれ?」
双葉は、大きく手を振り行進しながら、穂に近寄ると、呆気に取られたように立ち尽くす。
「ん? どうしたの?」
「いや、ほら、いつものあれはやらないのかなぁ〜って」
そう言いながら、双葉は、穂が習慣としている、深呼吸の動作をする。
「ああ。あれね。まぁ、なんというか。もう別に、必要ないかなと思ってさ。その、今はそんなに、息苦しくないし」
「ん?」
双葉はそんな穂の言葉にも、まだ疑問が解決されずに、首を傾げて見せながら、穂の隣に腰を下ろす。
「汚れるよ。私はいいけどさ」
「うん。私も別にいいよ」
そうして2人並んで、今日もまた青く染まる空を見上げる。
「そういえば、あの時の答え聞いてなかったね? 」
「あの時の答え?」
「うん! ほら、ここ鍵がかかってるはずじゃん! なのに、どうやって入ったのかって話!」
「ああ、あれね、簡単な事だよ」
穂は、大きく背伸びをするように、両手を空にぐっと伸ばす。
「あれは言ってしまえば、言葉で鍵をかけているだけ。実際は、鍵なんて始めからかかってなかったのよ。口ではそう言って、勝手に生徒達の脳に、屋上は鍵がかかっていて入れない。そんな刷り込みをしているだけ」
「何それ? 所謂、ミスリードってやつ!?」
双葉は目を、ラムネの中のビー玉に映した陽の光のように、キラキラと目を輝かせる。
「そんな大層なものでも無いと思うけど。そういう、捉え方はできるかもね」
「凄いね! みのりんはあれだね! 」
そこで双葉は一拍置いて息を整える。その醸し出すオーラに、穂も思わず息を呑んで次の言葉を待つ。
「高評価の映画みたいだね!」
「え?」
しかし、次に紡がれた双葉の言葉は、そんな的を得ているようだが、一見分かりにくい例えだった。
「でもさ私思うんだ。所謂、一捻りある映画、どんでん返し系の映画ってやつ? あれさ、最初から、衝撃の展開!! みたいな触れ込みがあるとさ、こっちもミスリードとかをより敏感に探すわけじゃん。それで、先を読めちゃうパターンって、結構あるくない?」
「うん。それは凄く分かる」
「ね! だよね! みのりんなら分かってくれると思ったよ!」
双葉はそう喜びという感情を表情に全振りすると、穂の両手を、自分の両手で包むように握る。
そんな様子を、屋上の入口の扉の隙間から、覗き見る3つの頭。上から団子のように並んだ、春、類、太陽だ。
「おいおい。どう思う?類?」
太陽が地面すれすれに顎を浮かばせながら、黒目だけで上にいる類に視線を送る。
「どう思うって言われてもさ。双葉の恋愛の対象が、女の子だったとしても、何も思わないけど」
「な! 寧ろありがとうございます!って感じだよな! な!」
「いや、それは思ってないけどさ」
「つまり!私も、双葉ねぇとワンチャン!」
「おいこら、妹よ。お前まで」
と三者三様の思惑を浮かべている他所で、穂は双葉に手を握られ、不意に視線を外した先に居る、3つの人影に気づく。
「所で。あれは双葉さんのストーカーか何か?」
その身に覚えのない言葉に、素早く振り返る双葉。
そこには明らかに見覚えのある顔が3つ。
「ああ。うん。まあ、いいんじゃない。放って置いて」
「え? いいの? 」
「うん。いいの! それでさ…… 」
まだ、双葉の顔越しに見える3人を気にしつつも、真反対に気にする素振りも見せず話を続ける双葉の声に、耳を傾ける穂。
一方、その様子を眺めている団子3兄妹。
「なぁ。絶対に今、こっち見てたよな?」
1番下の太陽は、遠目でも分かる程、明らかに顔をこちらに向け、何事もなかったように、会話を再開させた2人の様子が、見間違いではなかったであろう事を、2人に問う。
「うんうん。見てた 」
その問いに答えるように、1番上の春が、類の頭頂部に顎を擦り付けるように、3度頷いてみせる。
「おい! いてぇよ! 禿げたらどうすんだよ!?」
いくら顎とはいえ、摩擦を与えられれば、多少のダメージは負うらしく、類は黒目だけを上に向け、春がを睨みつける。
「そう言えばさ、つむじを押すと、下痢になるってやつ、本当なのか?」
その会話の流れに身を預けるようにして、そんな身にならない疑問を口にする太陽。
「え? なにそれ? 本当に!? おにぃ、やってみていい?」
「やめろ!」
「良いじゃん! やってやれ! やってやれ!」
「てめぇ〜ごら!」
「痛っ! いてぇ!!!」
その迷信に踊らされるように、類のつむじを顎で押そうと構える春。そんな春を煽る太陽。そして、そんな太陽に鉄槌を下す類。という構図が完成する。
「おい!! お前達!! そこで、何をやってるんだ!!」
その太陽の声を便りに、階段下から現れたのは、生徒指導の役職を持つ教師だった。
それから生徒指導室に呼ばれた3人。そして巻き添えを食らった双葉と穂も加え、長い説教の末に開放される一行。
「もう。あんた達のせいで、流れ弾食らったんだけど〜 みのりんも、お気に入りの場所が行けなくなって、残念だよね?」
生徒指導室から、教室までの道すがら、狭い廊下を女子3人が先頭に、男子2人が後に並ぶ、2列の小さな群れの中、先頭の真ん中でそう口を尖らせる双葉。
「え? いや、私は何も………」
「いいのいいの!気を遣わなくて! 」
「でもさ、双葉ねぇ。屋上って立ち入り禁止だよね? そもそも、そこにいる時点でアウトなんじゃ?」
先頭の右端、春が男子2人が触れていなかった核心をつく。
「それは………そうだけどさ。そもそも、バレなければ、罪も罪にならないの!」
「おいおい。とんでもねぇ発言だぞそれ?」
双葉の開き直りに、太陽ですら呆れている。
「双葉さん達ってどういう関係なの?」
そんな4人の空気感を端から感じ取っていた穂は、自分の知らない感覚に戸惑いを浮かべている。
「所謂、幼馴染ってやつだよ! はるるんとルイルイは、兄妹だけどね」
「幼馴染………」
聞き馴染みはありながら、身近ではないそんな関係性に、目を伏せる穂。
その前髪で隠れた表情変化を、空気感から読み取った双葉は、パンっと手を打ち合わせる。
「そうそう! みのりん! 今日の放課後はお暇かな? 私達は、いつも通りに、溜り場に行くんだけど、良かったら一緒に来ない?」
「基地?」
映画やアニメや漫画、フィクションの話をしなければ、恐らく聞くことのないであろうそのワードに、穂は疑問符を加えて復唱する。
「うん! 私達の秘密基地だよ!」
穂はその「私達」の部分に引っかかりを覚えて、前髪の隙間から双葉以外の3人を見回す。
「あ、えっと。だって、その秘密基地ってさ。所謂、幼馴染だけの、秘密の場所でしょ? 部外者の私が、ズケズケと入り込んでいいの?」
「何を言ってんのさ! 禁足地なわけじゃあるまいし! みのりんはもう友達だし! 私の友達は、みんなの友達! そういう事! ね! いいでしょ? みんな? 」
双葉もまた、くるりと体を翻しながら、3人に視線を送る。
「私はいいよ!」と春。
「俺も」と太陽。
「まぁ、断る理由なんてないしね」と類がそれぞれ承諾の意を示す。
「ね! みんなもこう言ってるし! どうかな?」
「え? ま、まぁ。そこまで言ってくれるのなら」
「やったね!」
双葉は穂に満面の笑みを浮かべながら、飛びつくように抱きしめると、穂は困惑したように、両手を宙で迷子にさせている。
そんな様子を、やれやれと、子を見守る保護者のように、類、春、太陽は目配せをして微笑んだ。