ーーーー のどかを後にした4人は、それぞれの家の近場である、コミュニティ公園へと足を運んでいた。
上の里公園と呼ばれるその場所には、大きな体育館や、野球場、アスレチックにキャンプ場や、これまた広大な芝生広場が設置されており、家族連れや、スポーツ倶楽部、愛犬の散歩にランニング、夏には盛大な夏祭りに使用されるなど、多目的に愛されている。
そんな公園の駐車場の隅。周りが木々で覆われているが、1箇所だけ獣道のように、拓けた場所が存在していた。
その道を躊躇なく類を先頭にして進んでいく一行。
その道は地元民でも知るものは他におらず、4人だけの秘密の道だった。
無論、その秘密の道を抜けた先にある、その目的地に聳えるソレにも気づくものは居ない。
公園の敷地からはちょうど外れた位置、誰のものかも分からない、そんな小さなプレハブ小屋。
4人がこれを見つけたのはまだ小学校低学年の頃。
探検ごっこの延長線でたまたま見つけたその小屋は、今では、4人の秘密基地になっていて、中には、コンテナと、木の板で作られた簡易的なテーブルと、4人が持ち寄ったパイプ椅子が置かれており、壁にはアニメやゲームのポスターが貼られており、その他には、漫画や雑誌、トランプやボードゲームなども備えられている。
高校生になった今でも、こうして4人はそのプレハブ小屋を憩いの場とし、少年少女時代から続く青春を謳歌していた。
高校生になってからは、こっそりと夜に抜け出し、基地の前にピクニックシートを広げ、丸くくり抜かれた自然のプラネタリウムを、寝そべって見上げる。そんな夜遊びも覚えていた。
そして今日も今日とてそれは変わる事なく、途中自販機で買った清涼飲料水で乾杯をした4人は、思い思いにそのゆったりとしていながらも、あっという間に過ぎゆく時を浪費する。
太陽は、椅子の後ろ足でバランスを取りながら漫画のページを捲っており、類はスマートフォンの液晶とにらめっこをしている。
双葉と春は、発売されたばかりの雑誌を2人で覗きこんでいる。
そんな、風が揺らす木々の音と、鳥のさえずりが心地よい放課後のひと時。
そんな中、ふと双葉が透き通った声色で、とある曲の歌い出しのフレーズを口ずさんだ。
それは4人にとって特別な曲で、元々は女性シンガーの卒業ソングとして生まれた楽曲だった。
その楽曲は時を経て、とある番組のタイアップとして使用される際に、タイトルと歌詞を変え、そのシンガーの属するユニットの代表曲として、人気を博した名曲だ。
4人は世代ではないものの、様々な歌手のカバーや、両親の影響もあり、馴染み深いものであった。
小さい頃から、その楽曲は、4人の旗印、テーマソングのようなもので、誰からともなくハーモニーを重ねる事が、恒例となっていた。
それはこの日も例外なく、双葉が何の気なしに口ずさんだソレを合図に、他3人の歌声が、違和感なく、そこに在るべき物のように溶け込んでいく。
それぞれが漫画、スマートフォン、雑誌に視線を落としながらも、声だけは同じ方向へと向かい交わう。
木々のせせらぎも、鳥のさえずりも、ソレに共鳴しているように、約5分という短い時間でも、何ものにも代えがたい特別として、刻まれていく。
曲が終われば再び訪れる無の時間。それでも、その無でさえも楽しむ余裕が4人の中には、すでに確立されており、唯一無二の空間となって、そこに鎮座していた。
「もう。俺達も18か」
そんな心地よい静寂を破ったのは、その太陽の一言だった。
まだ大人とは呼べない。それでいて、子供という括りにするほど幼稚ではない。
そんな分岐点に立たされた4人でも、時の早さに心が追いつけずにいた。
「まぁ、でも。早いと感じても、無意義だったとは思えないから、正解だったって事でいいんじゃない?」
そんな太陽のひとりごとのような呟きに、雑誌から視線を逸らす事なく返答する双葉。
「正解か………。それはいつ決めればいいんだろうな? 誰に決めて貰えばいいんだろうな?」
太陽もまた漫画から目線を逸らす事なく、再びひとりごとをそっと置くように、双葉の言葉に答える。
すると今度は、雑誌から視線を上げて、椅子にふんぞり返る太陽をしっかりと捉える双葉。
「そんなの決まってるじゃん。そう思える時が、一瞬でもあるのなら、それで良かったと胸を張れる。それを正解と呼ぶのも、不正解と呼ぶのも、その人自身。だったら、私は全てを正解と肯定したい。自分の人生を評論できる自分だからこそ、正解と呼ぼうとする心が、大事なんじゃないかな?………なんてね! 」
双葉はそうきっぱりと言い切ると、照れ隠しなのだろう。先程まで口ずさんでいた曲を、今度は鼻歌で奏でている。
「ふっ。双葉。エッセイでも書いてみたら。双葉の言葉には、力があるよ。うん」
そんな2人の会話を鼓膜に馴染ませた類が、冗談交じりに称賛する。
「それ、本当に思ってる? 」
「思ってるって」
「どう思う? はるるん? 」
「う〜ん。これはね〜。全く目線を合わせようとしない。鼻頭を搔いている。ここから推測するに、ガチ照れしている模様なので、解! 本心で思っているけど、照れ隠しが下手な、ただのおにぃ!」
類は春の指摘に図星をつかれ、鼻頭を搔いていた、右手人差し指の動きを止めて、ゆっくりと離す。
「おぉ〜、さすが実妹は違うなぁ~」
「えっと、双葉ねぇ。これは実妹うんぬんじゃなくて、ただおにぃがわかりやすいだけ」
「と、言われてますが? ルイルイ選手、今のお気持ちは? 」
双葉は、プロ野球のヒーローインタビューの如く、エアマイクを類に突き出す。
「そうですね。ここは何としても、兄の威厳を見せつけたい所でしたので、こういう結果になってしまった訳ですが、次はもっと上手に誤魔化せるんじゃないかと、そう思いますね」
と類もまたノリノリで返答する。
「それじゃあ、ヒーローインタビューじゃなくて、敗者チームの監督インタビューだな」
そこへ太陽のマニアックなツッコミにより、息の合ったショートコントの幕が下ろされた。
ーーースマートフォンの液晶に映しだされた、デシタル時計が17時を指すとほぼ同時に、防災無線の小さなノイズから始まり、誰もが知っているであろう童謡が町中に流れ始める。
その時報を合図に、4人は顔を上げる。
「うし。今日はここまでだな。帰りますか」
太陽は何度も読み返してきた漫画のため、栞を挟むや、目印になるものを挟む事なく、パタンと本を閉じる。
「そうだな」
それを合図に類も重い腰を上げる。それに釣られるようにして、双葉と春ものろのろと椅子から離れる。
「あ〜ねみぃ」
太陽はそうもはや口癖にもなっているその言葉を吐き出し、春の夕空の下へ繰り出す。
その後を双葉、春と続き、最後に室内を見渡し、忘れ物の有無を確認した類も続く形となって、一行は基地を後にした。
基地を出て、車一つ止まっていない駐車場を横切り、公園の出口へと差しかかる。
その出口から左方面に双葉と太陽、右方面に類と春の自宅があるため、必然的にそこで解散となる。
「じゃあ、また明日な」
類がチンアナゴのように手を揺ら揺らとさせると、それに答えるように、何故かサムズアップを披露する太陽。
「双葉ねぇ!」
「はるるん!」
一方で双葉と春は、これが今生の別れかのように、熱い抱擁を交わしている。
その一通りの別れの挨拶の後、二手に別れた類と春の道先にぽつんと佇む、白い毛並みに、ピンッと真っ直ぐ空に伸びた両耳、青みがかった鋭い眼光。
紛れもなくそれは野良猫だった。
しかし、野良猫にしては毛並みが手入れされており、どこが上品な佇まいをしている。
その野良猫は、暫く2人を遠巻きに眺めて、鼻を鳴らすかのように、ヒゲをピクッと震わせると、疾風の如く草むらへと消えていく。
2人と別れ10メートル程進んだ先で、その野良猫を見つけ足を止めていた類と春。
「今のって………」
春は、その野良猫を何処か苦々しげに追いながら、そう小さく呟く。
その隣の類もまた同じように、その白猫の残像を追いかけていた。
上の里公園と呼ばれるその場所には、大きな体育館や、野球場、アスレチックにキャンプ場や、これまた広大な芝生広場が設置されており、家族連れや、スポーツ倶楽部、愛犬の散歩にランニング、夏には盛大な夏祭りに使用されるなど、多目的に愛されている。
そんな公園の駐車場の隅。周りが木々で覆われているが、1箇所だけ獣道のように、拓けた場所が存在していた。
その道を躊躇なく類を先頭にして進んでいく一行。
その道は地元民でも知るものは他におらず、4人だけの秘密の道だった。
無論、その秘密の道を抜けた先にある、その目的地に聳えるソレにも気づくものは居ない。
公園の敷地からはちょうど外れた位置、誰のものかも分からない、そんな小さなプレハブ小屋。
4人がこれを見つけたのはまだ小学校低学年の頃。
探検ごっこの延長線でたまたま見つけたその小屋は、今では、4人の秘密基地になっていて、中には、コンテナと、木の板で作られた簡易的なテーブルと、4人が持ち寄ったパイプ椅子が置かれており、壁にはアニメやゲームのポスターが貼られており、その他には、漫画や雑誌、トランプやボードゲームなども備えられている。
高校生になった今でも、こうして4人はそのプレハブ小屋を憩いの場とし、少年少女時代から続く青春を謳歌していた。
高校生になってからは、こっそりと夜に抜け出し、基地の前にピクニックシートを広げ、丸くくり抜かれた自然のプラネタリウムを、寝そべって見上げる。そんな夜遊びも覚えていた。
そして今日も今日とてそれは変わる事なく、途中自販機で買った清涼飲料水で乾杯をした4人は、思い思いにそのゆったりとしていながらも、あっという間に過ぎゆく時を浪費する。
太陽は、椅子の後ろ足でバランスを取りながら漫画のページを捲っており、類はスマートフォンの液晶とにらめっこをしている。
双葉と春は、発売されたばかりの雑誌を2人で覗きこんでいる。
そんな、風が揺らす木々の音と、鳥のさえずりが心地よい放課後のひと時。
そんな中、ふと双葉が透き通った声色で、とある曲の歌い出しのフレーズを口ずさんだ。
それは4人にとって特別な曲で、元々は女性シンガーの卒業ソングとして生まれた楽曲だった。
その楽曲は時を経て、とある番組のタイアップとして使用される際に、タイトルと歌詞を変え、そのシンガーの属するユニットの代表曲として、人気を博した名曲だ。
4人は世代ではないものの、様々な歌手のカバーや、両親の影響もあり、馴染み深いものであった。
小さい頃から、その楽曲は、4人の旗印、テーマソングのようなもので、誰からともなくハーモニーを重ねる事が、恒例となっていた。
それはこの日も例外なく、双葉が何の気なしに口ずさんだソレを合図に、他3人の歌声が、違和感なく、そこに在るべき物のように溶け込んでいく。
それぞれが漫画、スマートフォン、雑誌に視線を落としながらも、声だけは同じ方向へと向かい交わう。
木々のせせらぎも、鳥のさえずりも、ソレに共鳴しているように、約5分という短い時間でも、何ものにも代えがたい特別として、刻まれていく。
曲が終われば再び訪れる無の時間。それでも、その無でさえも楽しむ余裕が4人の中には、すでに確立されており、唯一無二の空間となって、そこに鎮座していた。
「もう。俺達も18か」
そんな心地よい静寂を破ったのは、その太陽の一言だった。
まだ大人とは呼べない。それでいて、子供という括りにするほど幼稚ではない。
そんな分岐点に立たされた4人でも、時の早さに心が追いつけずにいた。
「まぁ、でも。早いと感じても、無意義だったとは思えないから、正解だったって事でいいんじゃない?」
そんな太陽のひとりごとのような呟きに、雑誌から視線を逸らす事なく返答する双葉。
「正解か………。それはいつ決めればいいんだろうな? 誰に決めて貰えばいいんだろうな?」
太陽もまた漫画から目線を逸らす事なく、再びひとりごとをそっと置くように、双葉の言葉に答える。
すると今度は、雑誌から視線を上げて、椅子にふんぞり返る太陽をしっかりと捉える双葉。
「そんなの決まってるじゃん。そう思える時が、一瞬でもあるのなら、それで良かったと胸を張れる。それを正解と呼ぶのも、不正解と呼ぶのも、その人自身。だったら、私は全てを正解と肯定したい。自分の人生を評論できる自分だからこそ、正解と呼ぼうとする心が、大事なんじゃないかな?………なんてね! 」
双葉はそうきっぱりと言い切ると、照れ隠しなのだろう。先程まで口ずさんでいた曲を、今度は鼻歌で奏でている。
「ふっ。双葉。エッセイでも書いてみたら。双葉の言葉には、力があるよ。うん」
そんな2人の会話を鼓膜に馴染ませた類が、冗談交じりに称賛する。
「それ、本当に思ってる? 」
「思ってるって」
「どう思う? はるるん? 」
「う〜ん。これはね〜。全く目線を合わせようとしない。鼻頭を搔いている。ここから推測するに、ガチ照れしている模様なので、解! 本心で思っているけど、照れ隠しが下手な、ただのおにぃ!」
類は春の指摘に図星をつかれ、鼻頭を搔いていた、右手人差し指の動きを止めて、ゆっくりと離す。
「おぉ〜、さすが実妹は違うなぁ~」
「えっと、双葉ねぇ。これは実妹うんぬんじゃなくて、ただおにぃがわかりやすいだけ」
「と、言われてますが? ルイルイ選手、今のお気持ちは? 」
双葉は、プロ野球のヒーローインタビューの如く、エアマイクを類に突き出す。
「そうですね。ここは何としても、兄の威厳を見せつけたい所でしたので、こういう結果になってしまった訳ですが、次はもっと上手に誤魔化せるんじゃないかと、そう思いますね」
と類もまたノリノリで返答する。
「それじゃあ、ヒーローインタビューじゃなくて、敗者チームの監督インタビューだな」
そこへ太陽のマニアックなツッコミにより、息の合ったショートコントの幕が下ろされた。
ーーースマートフォンの液晶に映しだされた、デシタル時計が17時を指すとほぼ同時に、防災無線の小さなノイズから始まり、誰もが知っているであろう童謡が町中に流れ始める。
その時報を合図に、4人は顔を上げる。
「うし。今日はここまでだな。帰りますか」
太陽は何度も読み返してきた漫画のため、栞を挟むや、目印になるものを挟む事なく、パタンと本を閉じる。
「そうだな」
それを合図に類も重い腰を上げる。それに釣られるようにして、双葉と春ものろのろと椅子から離れる。
「あ〜ねみぃ」
太陽はそうもはや口癖にもなっているその言葉を吐き出し、春の夕空の下へ繰り出す。
その後を双葉、春と続き、最後に室内を見渡し、忘れ物の有無を確認した類も続く形となって、一行は基地を後にした。
基地を出て、車一つ止まっていない駐車場を横切り、公園の出口へと差しかかる。
その出口から左方面に双葉と太陽、右方面に類と春の自宅があるため、必然的にそこで解散となる。
「じゃあ、また明日な」
類がチンアナゴのように手を揺ら揺らとさせると、それに答えるように、何故かサムズアップを披露する太陽。
「双葉ねぇ!」
「はるるん!」
一方で双葉と春は、これが今生の別れかのように、熱い抱擁を交わしている。
その一通りの別れの挨拶の後、二手に別れた類と春の道先にぽつんと佇む、白い毛並みに、ピンッと真っ直ぐ空に伸びた両耳、青みがかった鋭い眼光。
紛れもなくそれは野良猫だった。
しかし、野良猫にしては毛並みが手入れされており、どこが上品な佇まいをしている。
その野良猫は、暫く2人を遠巻きに眺めて、鼻を鳴らすかのように、ヒゲをピクッと震わせると、疾風の如く草むらへと消えていく。
2人と別れ10メートル程進んだ先で、その野良猫を見つけ足を止めていた類と春。
「今のって………」
春は、その野良猫を何処か苦々しげに追いながら、そう小さく呟く。
その隣の類もまた同じように、その白猫の残像を追いかけていた。