ーー 全ての真相がヨミの口から語られると、基地内は一気に光明を隠した。
「そこから簡単な話だ。やつは、お主らに勘づかれぬよう、気を遣われないように、寿命を3年ずつ分け与えたと、そして、18の誕生日に、双葉が消えるという嘘をついた。これが全てだ」
「そ、そんな……。それじゃあ、ルイルイは、私のせいで……」
双葉は、黒目の奥に閉じこもるように、虚ろな瞳で虚空を見上げる。
「それはどうかの? 」
「え? 」
「寿命というのは、運命そのものだ。こうして類が寿命を分け与え、双葉が生き永らえた。これもまた、初めから定められた運命。運命は変えることはできない。うぬは、寿命を見る事ができるが、あの時、確かに類の寿命は、最初から18歳までだった。逆に双葉、お主の寿命はまだまだ続いておった」
「それじゃあ。あの時、そう伝えていれば………」
「いや、あの時、一瞬でも可能性を感じたのだ。うぬがそう伝えようとした時、双葉の寿命が見えなくなった……。そう、運命が変わろうとした瞬間だった」
「そんな、だって運命は変らないって!……あ……」
「気づいたか? うぬもその時は理解していなかった。うぬもまた、お主らの運命の歯車のひとつとして組み込まれて居たんだ。うぬはそのまま、その時の状況を伝えた。双葉の命が危ないとな。そしてこの運命に辿り着いた。そう。運命は悪戯に、お主らと、うぬを弄んだ。これが、運命には逆らえない。その現だ」
一行は運命というはっきりとした輪郭のないものに翻弄され、ただただ訪れた突然の別れに、悲しむ余裕すらもなくなっていた。
「それからほれ。これはアヤツから預かっていたものだ」
そう言うとヨミは、少し右側に座る位置を変える。すると、先程までヨミの座っていた位置の背後に、小さく折りたたまれた紙が置かれていた。
「それは……」
双葉は、その紙の正体を薄々と感じつつ、その紙の前まで重い体を何とか動かし、その折りたたまれた紙を広げていく。
紙は広げると、2枚重なっており、底には見慣れた筆跡の文字が並べられていた。
それが類からの自分等に宛てた手紙という事は、直ぐに理解出来るような書き出しに、双葉は釘付けとなって、皆にも届くように声に出し読み進めていく。
ーー『親愛なる友人達へ』
拝啓、腐っても切れない縁を持った親友達へ。きっと、この手紙を読んでいると言う事は、俺はもうこの世に居ないのでしょう。なんて、映画で良く聞いて、一度は言ってみたかった台詞から始めてみようと思う。
きっと、みんな怒っているよね? 特に、双葉は怒りと自責を持って、辛い思いをしていると思う。
まずは最初に謝らせて欲しい。こんな事になってしまって。隠していて。騙していて。本当にごめん。
でも、俺はこの9年間。確かに怖くなったり、運命を呪うこともあったけど、後悔はした事はなかった。
これが最初から決められた運命なら、双葉のこれからと共に生きられる事、それが何よりも嬉しくて、最高の人生だったと思う。
きっと俺の居なくなった世界でも、何も変わることなく日々が過ぎていくのだろうけど、みんなの記憶の中で、息をし続け、みんなと同じ笑顔で笑えているのなら、大団円だと思ってる。
春。こんな事になってごめん。世界一の妹に相応しい兄だったか分からないけど、世界一幸せな兄だった事は間違いない。春は、誰よりも気が利いて、誰よりも優しくて、誰よりも友達想いで、誰よりも家族想いの自慢の妹だよ。ありがとう。
太陽。唯一無二の親友へ。馬鹿みたいに楽しかったのは、お前が居たから。一緒に馬鹿みたいな話をして、時に下世話な話をして、時に真面目に未来の話をして、無駄なんて入る余地もないくらいに、満ち足りた日々をくれたのは、間違いなく太陽だ。その名に恥じないくらいの輝きを、これからも纏ってみんなを照らしてくれよな。ありがとう。
穂。実は一番人懐っこくて、表情豊かで、自分らしさと、芯の強い瞳を持った素敵な人だ。いつも冷静で、客観的に物事も捉える事も出来て、夢もあって、凄く出来た人だ。自信を持って。何回も言うけど、穂はそのくらい素敵な人なんだから。これからは、自分の道をひたすらに歩んでいってね。ありがとう。
双葉。ここに書くのはズルいかもしれない。もしかしたら、現実世界でも、我慢出来ずに言葉にしているかもしれない。それでも伝えて置きたいんだ。双葉。大好きだよ。ずっとずっと大好きだったよ。これから、双葉の中で双葉と共に生きていく。だから、恐れないで、悔やまないで、振り返らないで、双葉らしく、いつも笑顔で、ただ真っ直ぐ進んで行って欲しい。そして、沢山の大切をくれてありがとう。
みんな。ありがとう。大好きだよーー
ーー 声を震わせながらも、何とか手紙を読み終えた双葉は、堰き止めていた涙を一気に溢れ出させて、力なく地べたに座り込む。
それを合図にするかのように、春、太陽、穂も、子供のように、喉を大きく震わせ止めどない涙を流し始める。
基地内は慟哭が重なり痛々しく揺れる。
ヨミはただ、そんな運命の悪戯に翻弄される4人のその声を受けとめるように瞼を閉じる。
その愁脹は、涙は枯れ果てながらも、夜が明けるまで、深い痛みを帯びて続いていった。
「そこから簡単な話だ。やつは、お主らに勘づかれぬよう、気を遣われないように、寿命を3年ずつ分け与えたと、そして、18の誕生日に、双葉が消えるという嘘をついた。これが全てだ」
「そ、そんな……。それじゃあ、ルイルイは、私のせいで……」
双葉は、黒目の奥に閉じこもるように、虚ろな瞳で虚空を見上げる。
「それはどうかの? 」
「え? 」
「寿命というのは、運命そのものだ。こうして類が寿命を分け与え、双葉が生き永らえた。これもまた、初めから定められた運命。運命は変えることはできない。うぬは、寿命を見る事ができるが、あの時、確かに類の寿命は、最初から18歳までだった。逆に双葉、お主の寿命はまだまだ続いておった」
「それじゃあ。あの時、そう伝えていれば………」
「いや、あの時、一瞬でも可能性を感じたのだ。うぬがそう伝えようとした時、双葉の寿命が見えなくなった……。そう、運命が変わろうとした瞬間だった」
「そんな、だって運命は変らないって!……あ……」
「気づいたか? うぬもその時は理解していなかった。うぬもまた、お主らの運命の歯車のひとつとして組み込まれて居たんだ。うぬはそのまま、その時の状況を伝えた。双葉の命が危ないとな。そしてこの運命に辿り着いた。そう。運命は悪戯に、お主らと、うぬを弄んだ。これが、運命には逆らえない。その現だ」
一行は運命というはっきりとした輪郭のないものに翻弄され、ただただ訪れた突然の別れに、悲しむ余裕すらもなくなっていた。
「それからほれ。これはアヤツから預かっていたものだ」
そう言うとヨミは、少し右側に座る位置を変える。すると、先程までヨミの座っていた位置の背後に、小さく折りたたまれた紙が置かれていた。
「それは……」
双葉は、その紙の正体を薄々と感じつつ、その紙の前まで重い体を何とか動かし、その折りたたまれた紙を広げていく。
紙は広げると、2枚重なっており、底には見慣れた筆跡の文字が並べられていた。
それが類からの自分等に宛てた手紙という事は、直ぐに理解出来るような書き出しに、双葉は釘付けとなって、皆にも届くように声に出し読み進めていく。
ーー『親愛なる友人達へ』
拝啓、腐っても切れない縁を持った親友達へ。きっと、この手紙を読んでいると言う事は、俺はもうこの世に居ないのでしょう。なんて、映画で良く聞いて、一度は言ってみたかった台詞から始めてみようと思う。
きっと、みんな怒っているよね? 特に、双葉は怒りと自責を持って、辛い思いをしていると思う。
まずは最初に謝らせて欲しい。こんな事になってしまって。隠していて。騙していて。本当にごめん。
でも、俺はこの9年間。確かに怖くなったり、運命を呪うこともあったけど、後悔はした事はなかった。
これが最初から決められた運命なら、双葉のこれからと共に生きられる事、それが何よりも嬉しくて、最高の人生だったと思う。
きっと俺の居なくなった世界でも、何も変わることなく日々が過ぎていくのだろうけど、みんなの記憶の中で、息をし続け、みんなと同じ笑顔で笑えているのなら、大団円だと思ってる。
春。こんな事になってごめん。世界一の妹に相応しい兄だったか分からないけど、世界一幸せな兄だった事は間違いない。春は、誰よりも気が利いて、誰よりも優しくて、誰よりも友達想いで、誰よりも家族想いの自慢の妹だよ。ありがとう。
太陽。唯一無二の親友へ。馬鹿みたいに楽しかったのは、お前が居たから。一緒に馬鹿みたいな話をして、時に下世話な話をして、時に真面目に未来の話をして、無駄なんて入る余地もないくらいに、満ち足りた日々をくれたのは、間違いなく太陽だ。その名に恥じないくらいの輝きを、これからも纏ってみんなを照らしてくれよな。ありがとう。
穂。実は一番人懐っこくて、表情豊かで、自分らしさと、芯の強い瞳を持った素敵な人だ。いつも冷静で、客観的に物事も捉える事も出来て、夢もあって、凄く出来た人だ。自信を持って。何回も言うけど、穂はそのくらい素敵な人なんだから。これからは、自分の道をひたすらに歩んでいってね。ありがとう。
双葉。ここに書くのはズルいかもしれない。もしかしたら、現実世界でも、我慢出来ずに言葉にしているかもしれない。それでも伝えて置きたいんだ。双葉。大好きだよ。ずっとずっと大好きだったよ。これから、双葉の中で双葉と共に生きていく。だから、恐れないで、悔やまないで、振り返らないで、双葉らしく、いつも笑顔で、ただ真っ直ぐ進んで行って欲しい。そして、沢山の大切をくれてありがとう。
みんな。ありがとう。大好きだよーー
ーー 声を震わせながらも、何とか手紙を読み終えた双葉は、堰き止めていた涙を一気に溢れ出させて、力なく地べたに座り込む。
それを合図にするかのように、春、太陽、穂も、子供のように、喉を大きく震わせ止めどない涙を流し始める。
基地内は慟哭が重なり痛々しく揺れる。
ヨミはただ、そんな運命の悪戯に翻弄される4人のその声を受けとめるように瞼を閉じる。
その愁脹は、涙は枯れ果てながらも、夜が明けるまで、深い痛みを帯びて続いていった。