ーーー 8月1日。双葉の誕生日まで9日。それが双葉の余命。5人は基地に集まるも、その現実に誰もが上手に笑えず、ぎこちなさを含んだ会話を繰り広げていた。

「なぁ、類。これ、どういう事?」

「ん? あ、これはね」

勉強嫌いの太陽が、基地に来てまでも課題に取り組むその姿もまた、異様となっていた。

「あ! これ観たかったんだよね! いつ公開だっけ?」

双葉は、映画雑誌を広げながら、恋愛小説原作の実写映画の紹介ページを指差す。

「あ! 私も観たかったんだよね〜、えっと〜公開日は、8月15……」

春は、その公開日を口にして、尻すぼみに言葉を失っていく。

「あちゃ〜、15日かぁ〜。残念! あと少しだったのになぁ〜。ヨミちゃんに頼んで、あと少しだけ延ばして貰おうかな〜あはは!」

そんな様子を見かねたように、双葉は誰もが禁句と口にして来なかった話題を、躊躇する事なく、あっけらかんと言い放つ?

「双葉ちゃん……」

そんな自虐な言葉に返す言葉を見つけられない穂は、そう意味もなく呟く事しかできなかった。それは、他の3人も同じで、声を出すことさえも出来ずにいた。

「ねぇ! どうしたのみんな? 何だが元気がないよ! いつもみたいに元気で行こうよ! まだまだ夏休みは続くよ! 張り切っていこー!!」

双葉は満面の笑みを浮かべながら、右手の拳を突き上げる。

「双葉……」

そんな双葉に類は、口元を少しだけ緩める。

「だってさ。もうすぐ死ぬとしても、欲しいものはさ、特別なものじゃないんだもん。普通の、何の変哲もない、当たり障りのない、ただゆったりと流れる時間、折角集まっても何もしない時間、ばぁばの店で買い物する時間。のどかでラーメンを食べる時間。みんなで歌を歌う時間。そのどれもが、特別とは呼べなくても、私が何よりも、1番欲しいものだから」

双葉は両手を胸に添えると、目を瞑り、当たり障りのないこれまでに思い馳せる。

「双葉……そう……だよね。変に意識をし過ぎていたのかもしれないね。そうだよね。もう、変えることのできない未来なんだ。だから、いつも通り。俺達らしくいないとだよね。それがせめてものの……」

類は、続く言葉を飲み込んだ。その双葉と類の言葉で、太陽、春、穂の3人も、そっと小さな決意が芽生えたように、表情に柔らかさが帯びる。

その瞬間だった。双葉は口からメロディーを送り出し始める。それは幼馴染たちの歌。歌い続けていた歌。

穂も時折皆が口ずさむその歌を覚えていたようで、その双葉に重ねるようにして歌い始める。

それは、春、太陽、そして類と伝染して行き、5人のハーモニーが基地内に響き渡る。

皆が視線を交わらせ、自然と笑みが溢れ、先程まで包まれていた、負に寄りかかった空気も一変する。

まるでその時間が永遠に続いてくと錯覚するように、5人は、その数分の時間を噛み締め、喜びを、楽しさを、悲しみを、痛みを、苦さを、甘さを、ありがとうを、さよならを、好きを乗せて歌いあげる。

歌い終えて残ったのは、始まりから何なら変わりのない、5つの笑顔だけだった。

「残り、今日を混ぜないと8日。当たり障りないを楽しんで行こうと思うよ! みんな! 一緒に!」

双葉は最後にそう決意を示して、ようやく基地内に流れる空気が、日常へと変わっていった。