ーーーー 7月下旬。最後の土曜日。今日は、町民達が待ちに待った、1年に1度の上里祭(かみざとさい)、通称、かみさいの日。

公園の大きな芝生広場には、催しが開かれるステージや、休憩スペース、そして芝生をぐるりと囲むように広がる出店。

華やかな香りと装飾が、普段の淋しげな装いを隠している。

「うっし! 今年は、穂もいるから人手が多い! 屋台の食べもん、片っ端から買ってきて、秘密基地に集合な! やっぱり! 屋台と言ったらたこ焼きだよな!!」

太陽はそう発破をかけて、一目散にたこ焼きの屋台へと向かい歩き出す。

「おぉ~、今年もやる気だね! 私もやっちゃうよ! 行くよ! みんな! 」

「え? ちょっと! 双葉ねぇ! 引っ張らないで!」

そして双葉もまた、最後の夏祭りを満喫しようと張り切る余り、春の巻き添えに屋台を目指す。

「ふぅ〜。今日も熱くなりそうだったから、先にクーラーボックスに氷をいっぱい詰めて、基地に置いてきたし、飲み物も準備済みだし、後は楽しむだけって感じだな。穂は、久しぶりなんだっけ? 」

「あ、う、うん。なんか、うまく言えないけど、感動してる……」

「まぁ、町が1番活気立つ日だからね。もし、別に予定があれば、そっちに行ってもらっていいから。催しもあるから、見たいのもあるかもしれないし」

「うん! ありがとう! 」

穂は、テーマパークに来たかのように、イルミネーションを映したかのように目をキラキラとさせ、落ち着かない両手は行場を失い、そわそわと小さく動かせ続けている。

「さて。でも、ひとつ問題があるね」

「問題?」

「うん。太陽、それから双葉と春、今、二手に分かれた訳だけど、俺達は、何を買って来るか打ち合わせをしてない。つまり、3人の思考を予想して、被らないように買い物をしないといけない。さて、どうしたものか」

面白くなってきたとばかりに不敵な笑みを浮かべる類。

「なるほど。では、ホームズさん。私の推理を聞いて貰えるでしようか?」

それに祭りの陽気に当てられたように、役を憑依させる穂。

「どれ? 聞かせて貰おうか」

「はい。まず太陽くん。彼は簡単です。何せ、たこ焼きと宣言してましたから。そして、彼はきっと、屋台といえばという定番を買ってくるでしょう。よって、たこ焼き、焼きそばこの辺りは避けるべきかと」

「うむ。いい推理じゃないかワトソン君。でも、長年の付き合いから、彼はこういう時に、空気を読める男なのだよ。よって、焼きそばは外してくると予想する」

「おお〜なるほど」

穂は、大袈裟な相槌を打ちながら、軽快にスマートフォンにメモをしていく。

「では次に、双葉ちゃんと、春ちゃんですが。恐らくスイーツ系統を選択するかと。ワッフルやクレープ、綿あめにりんご飴。こういった辺りが考えられます」

「うん。その推理については異論はないな」

類は2度頷きを見せて肯定を示す。

「今の推理をもとに、我々がまず狙うべきは、アレだな」

「アレですか?」

「ああ。アレだ。ついて来いワトソンくん」

「はい!」

3人と少し間を開けて、そんな小芝居を繰り広げながらようやっと歩を進める類と穂。

こうして約30分後、一行は秘密基地で落ち合うまでの時間、各々が思考を巡らせて、屋台の攻略に挑んで行った。

ーーーー「さて、お集り頂いた所で、早速、屋台飯パーティーを始めて行きたい訳だが、これはどういう風の吹き回しかな!?」

一行は持ち寄った屋台飯を机に並べると、定位置について、豪華絢爛な食事を眺めている。

しかし、誰もが予想外の展開に目を丸くしており、4人の心内を代弁するかのように、太陽はそう声を張る。

「待って、とりあえず、それぞれが買ったもの、その理由も含めて打ち明けていこうか」

そんな現状を一旦、冷静に取り持つ類。

「おっけ。じゃあ、まずは俺からだな。俺が買って来たのは、ド定番のたこ焼き2パック。これが無いと、屋台飯パーティーって言えないだろ? それから、これまた定番のイカ焼き。食べやすいようにカットされてるから、みんなでつまみやすいと思って、これも2つ買って来た。そんで、あともう一つ。焼きそばにしようよ! と思ったんだが、流石に定番ばかりだから、ちょっと変化球で、オムソバをチョイスした! これは1パックだ!」

太陽は自信満々に胸を張って、自分の手札を披露する。

「じゃあ、次は私達が。えっと、多分、みんなは私達に甘い物を期待してると思ったから、クレープとベビーカステラ。それから綿あめ。それでね。流石に甘い物だけだとアレかなと思って、みんなの恐らく買ってないであろう物。尚且つ、少し変わり種をと思って、オムソバを2つ………えへっ!」

双葉、春ペアは双葉が代表してそう一連の流れを伝える。最後の現状の空気には馴染まないポップな笑みと、3パックとなったオムソバを残し、双葉はスッと真顔に戻る。

「じゃあ、次は俺達だね。俺達も勿論、2組とも被らない物をと吟味した。その結果、牛串ときゅうりの一本漬けを人数分。それから、恐らく空気を読んだ太陽は、焼きそばを行かないと踏んだ。だから、焼きそばを買おうとしたんだけど、ここはあえて変わり種をと思ってね。オムソバを2パック買いました……」

最後にその類の説明が終わり、一同が顔を見合わせる。そして、その全員の喉に詰まった言葉を代弁するように春が口を開く。

「オムソバばっかりじゃねぇですか!!」

続けて比較的冷静な穂も口を開く。

「待って! みんながオムソバを買ったという事は、何処かで鉢合わせてる可能性が高いんじゃない? だって、オムソバって、そんなやってるお店ないでしょ? それなのに、こんなに打ち合わせたようにピッタリ揃うことある?」

その穂の言葉に納得したように太陽が続く。

「俺はあそこだぞ! 体育館側の方の真ん中辺り! あそこで買ったんだよ!」

それに驚いたように続く類。

「俺達は、恵美子さん達、のどかでも提供してたから、そこで買ってきたんだけど!」

そして最後に、同じように驚いた調子で口を開く双葉。

「私は、端っこの屋台だったよ。ほら、アスレチックに続く道があるでしょ? 駐車場とは反対側! そっちのお店で買ったんだよ」

全員の辿った道筋が明かされた事により、基地内は再び妙な沈黙に包まれる。

「いや、つまり。みんな別々の屋台で、オムソバを買い揃えたという事?」

収拾をつけるために、簡易的にそうまとめる類。

「いや何でだよ! オムソバで町興しでもするつもりかよ! ご当地グルメにするつもりかよ! 何でこんなに流行ってんだよ!!」

そう太陽が声を大にして間髪なく、遠くから催しの進行をするよく通った女性の声が、基地内まで届いてくる。

「さぁ、そして! 今年から新たに始まった、町興しのためのご当地キャラクター、遂に完成致しましたので、早速登場してもらいましょう! 新しくご当地グルメと共に、一緒に盛り上げて行けたならと思います、それでは、お待たせしました! オムソバの妖精、オムちゃんです!」

「…………」

はっきりと聞こえたそのアナウンスに、一同は口をあんぐりと開けながら、様々な屋台飯の中で、堂々と存在感を放っているオムソバに視線を落とした。