ーーー 9年前。8月。青が空を支配して、例年通りの猛暑日が続くそんな夏。
「おい春。ちゃんとプレゼント持ったか?」
「うん! おにぃ!」
「よし!じゃあ!行こう!」
小学校低学年。無邪気に並び走る少年少女。それは、夏休み真っ只中の上里町にとっては日常的な風景。
2人は、休む間もなく一目散に目的地へと向かい走り続ける。
道中、妹の春よりも体力のある類は、妹の顔色を伺いながら、ペースメーカーをする。
途中、自らもリュックを背負いながらも、春の腕に抱えられていたラッピングされた袋を代わりに持ち、少しでも春の負担を軽くする類。
僅か数百メートルの目的地とはいえ、子供心からすれば、そんな日常が冒険の一端だった。
「到着!」
そうして2人の小さな兄妹達は、目的地である秘密の基地へと足を踏み入れた。
「遅いぞ! 折角のケーキが腐っちゃうぞ!」
そうして先に基地に辿り着き、4人分のケーキの入った箱を携えた待ち構えていた太陽が、少し苛立たしげに声を大にする。
「ごめん! それで、双葉は?」
類は、リュックから乳酸菌飲料を取り出すと、春に手渡しながら、主役を探すように基地内を見回す。
「それがさ、まだ来てないんだよ」
「え? いつもは一番に来てるのに……」
数週間前から着々と準備を進め、いよいよ当日となったその日。双葉の誕生日翌日。子供たちだけの誕生パーティー。その場に、欠けてはならない人物がいない。
「俺、迎えに行ってくる!」
その状況を理解した時、類は衝動的に足を動かしていた。
舗装されていな道では、砂利、木の枝が散乱しており、当たりどころが悪ければ、小さな柔い足裏にスニーカー越しでも痛みは突き抜ける。
その痛みさえ意に介さず、類はがむしゃらという言葉を象徴するかのように、無我夢中で双葉の家へと向かい、足の回転数を上げていく。
男児とは言えど、まだ小学校低学年。体力の限界は間近、それどころか、燦々と降り注ぐ陽の光によって、更に体力が奪われていくスピードは早まるのみ。
それでもようやっと辿り着いた軒先。類は軽く息を整えながら、玄関の扉を開く。
「こんにちは!おじゃましまーす!」
引き戸を開くと、真っ直ぐにそして左側に続く廊下があり、障子戸が並んでいる。
その中でも玄関から1番近く、居間であろう場所から、30代半ばの女性が顔を覗かせた。
彼女は双葉の実母である冴子だ。
無論、家族ぐるみで仲のいい類にとっても、親しみの深い人であった。
「あら、こんにちは類くん。もしかして、双葉?」
「はい! 双葉と約束してたんですが……その……双葉は?」
その類の言葉に深いため息をつく冴子。
「ごめんなさいね。起こしたんだけど、中々起きてこなくて、悪いんだけど、類くん。部屋に行って起こして来てくれる?」
「え、え! 部屋にですか!?」
「うん。お願いね」
冴子はそのまま居間へと消えていってしまい、ポツンと取り残された類は、低学年とはいえど、女の子の部屋に勝手に入るという躊躇と戦いながらも、時間はかけられないと、勇気を振り絞り一歩目を踏み出した。
何度か入った事はあっても、春や太陽と一緒、ましてや、双葉から招き入れられる形ばかりだったため、緊張して扉をノックする。
「ふ、双葉! ごめん! 俺! 類! 入るよ!」
「え!! ちょ、ちょ! ルイルイ!?」
類がドアのノブを回した途端、室内からそんな慌てふためく声が聞こえてきたが、すでに開きかけた手は止めることは出来なかった。
「ルイルイ!?」
パジャマ姿の双葉は、ベッドの上で赤面しながら、夏だというのに、薄いかけ布団め目元から上部を出すように覆っている。
「双葉! ご、ごめんね! その、約束の時間になっても来ないから…… 」
「あ、そ、そうか、えっと、ごめんね! 実はちょっと……」
「ケーキもあるよ! あとね、プレゼントも! 基地も飾りつけしたし、楽しい事も考えて来たんだ! だからさ! 一緒に行こうよ! 」
何かを言いかけた双葉の言葉を遮って、類は高揚する気持ちに従い声を張り上げる。
「え? そ、そんなに? 私のために?」
「もちろんだよ! だから早くいこう!」
「あ、で、でも」
「どうしたの? 早くしないと、ケーキが腐っちゃうよ!」
「あ、う、うん。わかった。お着替えするから、玄関で待ってて」
類の勢いに圧された形で、双葉はようやっと重い腰を持ち上げた。
ーーーー「おまたせ! ハァ ハァ」
息を切らしながら、忙しなく階段を駆け下りてくる双葉。
「よし! じゃあ行こうか!」
「うん! お母さん! 行ってきます!」
その娘の声に、居間から「気をつけるんだよ〜」という声が返ってくる。
「はーい!」
最後に双葉はそう元気よく返事をすると、ドタバタと地を軽やかに叩くように、基地へと向かい走り出した。
「おい春。ちゃんとプレゼント持ったか?」
「うん! おにぃ!」
「よし!じゃあ!行こう!」
小学校低学年。無邪気に並び走る少年少女。それは、夏休み真っ只中の上里町にとっては日常的な風景。
2人は、休む間もなく一目散に目的地へと向かい走り続ける。
道中、妹の春よりも体力のある類は、妹の顔色を伺いながら、ペースメーカーをする。
途中、自らもリュックを背負いながらも、春の腕に抱えられていたラッピングされた袋を代わりに持ち、少しでも春の負担を軽くする類。
僅か数百メートルの目的地とはいえ、子供心からすれば、そんな日常が冒険の一端だった。
「到着!」
そうして2人の小さな兄妹達は、目的地である秘密の基地へと足を踏み入れた。
「遅いぞ! 折角のケーキが腐っちゃうぞ!」
そうして先に基地に辿り着き、4人分のケーキの入った箱を携えた待ち構えていた太陽が、少し苛立たしげに声を大にする。
「ごめん! それで、双葉は?」
類は、リュックから乳酸菌飲料を取り出すと、春に手渡しながら、主役を探すように基地内を見回す。
「それがさ、まだ来てないんだよ」
「え? いつもは一番に来てるのに……」
数週間前から着々と準備を進め、いよいよ当日となったその日。双葉の誕生日翌日。子供たちだけの誕生パーティー。その場に、欠けてはならない人物がいない。
「俺、迎えに行ってくる!」
その状況を理解した時、類は衝動的に足を動かしていた。
舗装されていな道では、砂利、木の枝が散乱しており、当たりどころが悪ければ、小さな柔い足裏にスニーカー越しでも痛みは突き抜ける。
その痛みさえ意に介さず、類はがむしゃらという言葉を象徴するかのように、無我夢中で双葉の家へと向かい、足の回転数を上げていく。
男児とは言えど、まだ小学校低学年。体力の限界は間近、それどころか、燦々と降り注ぐ陽の光によって、更に体力が奪われていくスピードは早まるのみ。
それでもようやっと辿り着いた軒先。類は軽く息を整えながら、玄関の扉を開く。
「こんにちは!おじゃましまーす!」
引き戸を開くと、真っ直ぐにそして左側に続く廊下があり、障子戸が並んでいる。
その中でも玄関から1番近く、居間であろう場所から、30代半ばの女性が顔を覗かせた。
彼女は双葉の実母である冴子だ。
無論、家族ぐるみで仲のいい類にとっても、親しみの深い人であった。
「あら、こんにちは類くん。もしかして、双葉?」
「はい! 双葉と約束してたんですが……その……双葉は?」
その類の言葉に深いため息をつく冴子。
「ごめんなさいね。起こしたんだけど、中々起きてこなくて、悪いんだけど、類くん。部屋に行って起こして来てくれる?」
「え、え! 部屋にですか!?」
「うん。お願いね」
冴子はそのまま居間へと消えていってしまい、ポツンと取り残された類は、低学年とはいえど、女の子の部屋に勝手に入るという躊躇と戦いながらも、時間はかけられないと、勇気を振り絞り一歩目を踏み出した。
何度か入った事はあっても、春や太陽と一緒、ましてや、双葉から招き入れられる形ばかりだったため、緊張して扉をノックする。
「ふ、双葉! ごめん! 俺! 類! 入るよ!」
「え!! ちょ、ちょ! ルイルイ!?」
類がドアのノブを回した途端、室内からそんな慌てふためく声が聞こえてきたが、すでに開きかけた手は止めることは出来なかった。
「ルイルイ!?」
パジャマ姿の双葉は、ベッドの上で赤面しながら、夏だというのに、薄いかけ布団め目元から上部を出すように覆っている。
「双葉! ご、ごめんね! その、約束の時間になっても来ないから…… 」
「あ、そ、そうか、えっと、ごめんね! 実はちょっと……」
「ケーキもあるよ! あとね、プレゼントも! 基地も飾りつけしたし、楽しい事も考えて来たんだ! だからさ! 一緒に行こうよ! 」
何かを言いかけた双葉の言葉を遮って、類は高揚する気持ちに従い声を張り上げる。
「え? そ、そんなに? 私のために?」
「もちろんだよ! だから早くいこう!」
「あ、で、でも」
「どうしたの? 早くしないと、ケーキが腐っちゃうよ!」
「あ、う、うん。わかった。お着替えするから、玄関で待ってて」
類の勢いに圧された形で、双葉はようやっと重い腰を持ち上げた。
ーーーー「おまたせ! ハァ ハァ」
息を切らしながら、忙しなく階段を駆け下りてくる双葉。
「よし! じゃあ行こうか!」
「うん! お母さん! 行ってきます!」
その娘の声に、居間から「気をつけるんだよ〜」という声が返ってくる。
「はーい!」
最後に双葉はそう元気よく返事をすると、ドタバタと地を軽やかに叩くように、基地へと向かい走り出した。