ーーー 結局、キャンプ場へまで足を伸ばした一行は、基地に帰還すると、軽い運動とはしゃぎ疲れか、各々が会話をぽつりぽつりと交わすと、直ぐに夢の中へ沈んでしまう。
マットや敷布団、シート、寝袋など、簡易的な寝床を作り、穂、双葉、春、類、太陽の順に横並びに就寝。
それから、数時間後。時刻は、4時を指している。
少しの物音で目を覚ました類は、ちょうど基地を出ていく双葉の後ろ姿を捉えた。
その背中から滲んだ寂しげな雰囲気が気にかかり、類は3人を起こさぬように、ゆっくりと起き上がると、駐車場側とは逆側に続く細道を、双葉の背中に導かれるように進んでいく。
類はそれから数分歩いた後、木々に囲まれて、不思議に丸くくり抜かれた草原へと辿り着く。
空も木々が丸く切り抜かれた分、プラネタリウムにように夜空を映している。
類はそのサークルの中央。1人立ち尽くし空を見上げている双葉にゆっくりと近づいていく。
「ルイルイ?」
その草花を搔き分ける歩みの音を捉えた双葉は、振り返る事なくそう問いかける。
「うん。凄いね。なんで分かったの?」
「う〜ん。何となく? ルイルイっぽいなぁ〜って思ったから」
「何それ?」
そんな突飛な双葉の解答に、類は虚を突かれて微笑む。
「ねぇ。ここの夜空はさ。いつ見上げても変わらないよね。星の配置は違うけれど、物凄い遠い場所から、ここに居るんだよ手を振ってるみたいで。思ったよ。人が死んだら星になるって言うでしょ? この星、ひとつひとつがその命の残火なら、だからこそ、こんなにも心惹かれるのかなって」
そう愛おしそうに自然のプラネタリウムを見上げる双葉の横顔を、盗み見る類。
「そうだね。あの星達はきっと、最後の魂が見せる炎で、それも何億光年も先からの贈り物で、とっくに、もとの魂達は、次の世に生まれて来ているんだろうね。そう考えると、こうやって見上げている星の中に、俺たちの前世もいるのかもしれないね」
「そう………だったらいいね。そうだったら、寂しくないもん……」
そして類は再び双葉の横顔を盗み見る。その大きな瞳から、頬に伝っていく涙もしっかりと視界に捉える。
「双葉? 大丈夫?」
その涙の理由を悟るのに、充分な材料が揃っていなかった類は、シンプルな言葉で問いかける。
「え? あ、う、うん。 何で泣いてるんだろうね? 」
双葉はその類の問いかけに、自分が涙を零していた事に気がついたようで、手の平で頬の涙を拭うと小さな笑みを浮かべた。
「どうして?」
「ん?」
「どうして、そんな事を急に考えたの?」
そんな類の問いた声は、冷たくまだ夜半の空へと昇っていく。
「う〜ん。ほら、意味もなく感傷的になる夜ってあるじゃん? さらに言ってしまえば、こんな夜だし、こんな星空だし、お年頃だし、こんなにも感傷にピッタリな夜はないでしょ?」
そう言い放った双葉の瞳には、もう涙は浮かんでいない。
「本当に………。本当に、それだけ?」
「え? それはどういう意味?」
双葉は少し驚いたように、初めて視線を夜空から類へ移した。
「本当はさ。双葉は……」
類がそう言葉を紡ぎかけた途端だった。
ガサッ!っと背後の茂みが大きく揺れる音が、2人のいる場所にまで届く。
それに敏感に反応した2人は、勢い良く振り返るも、そこには人影は愚か、動物らしき影も見当たらない。
「え? え? 何? まさか、心霊?」
「いや、それはないと思うけど。でも、風で揺れる音でもなかったし、もしかしたら、枝が茂みに落ちた音かもね」
「なぁ〜んだ。そうだったのか〜」
双葉は、その説得力のある類の推測に安堵の表情を浮かべる。
「それで? 何か言いかけてたよね? 何?」
その安堵の余韻のまま、双葉は言いかけていたる類の次の言葉を促す。
「うん。いや、やっぱり何でもないや。そろそろ戻らない? 時間的にも、そろそろみんなを起こして、帰る支度をしないと、親が起きる前に帰れない」
「え? うん。そう……だね」
双葉は、類の言いかけた言葉が気になり、腑に落ちない様子を見せるものの、それ以上に追及する事なく、2人は基地へ向かい踵を返した。
ーーー 約10分ほど前。
馴れない環境というのもあり、目を覚ました穂は、双葉と類の姿が見えない事に訝しみを浮かべて、外へと踏み出した。
外に出ると、駐車場側に続く道、昼間に何度か足を運んだ事のある、拓けた野原に続く道の2つに分かれた道がある。
穂は、勘だけを頼りに野原に続く道を選択して、歩を進み始める。
そうしているうちに、たどり着いた先に、仲睦まじく夜空を見上げる2人の姿を見つける。
穂は、2人に隠れるようにしてその様子を見つめている。
時折、双葉の横顔を盗み見る類の様子に、チクチクと胸を針で刺されるような痛みが込み上げる。
そして、類が何か言葉を発した後、初めて双葉が類に視線を移した表情を捉えると、衝動的に、枝を搔き分けて、更に凝視してしまう。
しかし、その途端、指先に激痛が走る。それは、木の枝の小さな棘が、指先に刺さってしまったための痛みだった。
「痛っ」
声を殺しながらも、慌てて離した木の枝は強く反動して、周りの草木を巻き込んで、大きく揺れてしまう。
(まずい!)
穂はその音に反射的に身を縮こまらせると、慌ててその場を立ち去った。
その姿を2人は捉える事はできなかった。
ーーー 双葉と類が基地へと戻ると、既に穂と春は起床しており、太陽は意外にも寝相よくまだ夢の住人を謳歌している。
「おはよう! みんな、朝早いね!」
双葉は、そんな太陽を気にもとめる事なく、元気な挨拶をする。
「おはよう〜、双葉ねぇ、にぃに〜」
春はまだ起きてから間もないのか、ふわふわと挨拶を返す。
「おはよう。2人共。どこに行ってたの?」
穂は、ティッシュで指先を押さえながら、ぎこちない笑みを浮かべる。
「ん? ちょっとお散歩? それから、天体観測?」
そう包み隠さず答える双葉に、少し妬みを交えた視線を向ける穂。
「穂? その指、どうしたの?」
すると、類は、穂の手元を見て慌てたように、自らのリュックに向かい、中からポーチを取り出す。
「あ、え? いや、ちょっと木の枝が刺さったみたいで」
「見せて」
類は、躊躇なく穂の手を取ると指先を凝視する。
「うん。良かった。棘は刺さってないみたい。出血もちょっと切った分だけで、そうでもないみたいだね。でも、このままじゃだめだよ」
類はそれから、コットンに水を垂らして、指先を洗浄すると、今度は消毒液を使用し、傷口の消毒を行う。
次に絆創膏を取り出すと、細く白い指に優しく巻きつけると、最後に「よし、これで終わり」と軽く穂の手を優しく包む。
「あ、ありがとう………」
穂はその一連の行動に、しおらしく頬を赤らめ、か細く礼を告げると、溢れそうな笑みを隠すように、口元をもごもごと動かす。
「あれ? 何? もう朝?」
その物音により、呑気にのそのそと起き上がった太陽は、大きな欠伸を披露する。
「さて! みんな起きたことだし、お開きにしようか! 例によって、みのりんは、ルイルイが送って行ってね!」
双葉はパンと手を打ち合わせ注目を集めてから、解散を宣言する。その宣言に異論を述べるものは居らず、5人としての、初めての夜ふかしのパーティーは幕を下ろした。
マットや敷布団、シート、寝袋など、簡易的な寝床を作り、穂、双葉、春、類、太陽の順に横並びに就寝。
それから、数時間後。時刻は、4時を指している。
少しの物音で目を覚ました類は、ちょうど基地を出ていく双葉の後ろ姿を捉えた。
その背中から滲んだ寂しげな雰囲気が気にかかり、類は3人を起こさぬように、ゆっくりと起き上がると、駐車場側とは逆側に続く細道を、双葉の背中に導かれるように進んでいく。
類はそれから数分歩いた後、木々に囲まれて、不思議に丸くくり抜かれた草原へと辿り着く。
空も木々が丸く切り抜かれた分、プラネタリウムにように夜空を映している。
類はそのサークルの中央。1人立ち尽くし空を見上げている双葉にゆっくりと近づいていく。
「ルイルイ?」
その草花を搔き分ける歩みの音を捉えた双葉は、振り返る事なくそう問いかける。
「うん。凄いね。なんで分かったの?」
「う〜ん。何となく? ルイルイっぽいなぁ〜って思ったから」
「何それ?」
そんな突飛な双葉の解答に、類は虚を突かれて微笑む。
「ねぇ。ここの夜空はさ。いつ見上げても変わらないよね。星の配置は違うけれど、物凄い遠い場所から、ここに居るんだよ手を振ってるみたいで。思ったよ。人が死んだら星になるって言うでしょ? この星、ひとつひとつがその命の残火なら、だからこそ、こんなにも心惹かれるのかなって」
そう愛おしそうに自然のプラネタリウムを見上げる双葉の横顔を、盗み見る類。
「そうだね。あの星達はきっと、最後の魂が見せる炎で、それも何億光年も先からの贈り物で、とっくに、もとの魂達は、次の世に生まれて来ているんだろうね。そう考えると、こうやって見上げている星の中に、俺たちの前世もいるのかもしれないね」
「そう………だったらいいね。そうだったら、寂しくないもん……」
そして類は再び双葉の横顔を盗み見る。その大きな瞳から、頬に伝っていく涙もしっかりと視界に捉える。
「双葉? 大丈夫?」
その涙の理由を悟るのに、充分な材料が揃っていなかった類は、シンプルな言葉で問いかける。
「え? あ、う、うん。 何で泣いてるんだろうね? 」
双葉はその類の問いかけに、自分が涙を零していた事に気がついたようで、手の平で頬の涙を拭うと小さな笑みを浮かべた。
「どうして?」
「ん?」
「どうして、そんな事を急に考えたの?」
そんな類の問いた声は、冷たくまだ夜半の空へと昇っていく。
「う〜ん。ほら、意味もなく感傷的になる夜ってあるじゃん? さらに言ってしまえば、こんな夜だし、こんな星空だし、お年頃だし、こんなにも感傷にピッタリな夜はないでしょ?」
そう言い放った双葉の瞳には、もう涙は浮かんでいない。
「本当に………。本当に、それだけ?」
「え? それはどういう意味?」
双葉は少し驚いたように、初めて視線を夜空から類へ移した。
「本当はさ。双葉は……」
類がそう言葉を紡ぎかけた途端だった。
ガサッ!っと背後の茂みが大きく揺れる音が、2人のいる場所にまで届く。
それに敏感に反応した2人は、勢い良く振り返るも、そこには人影は愚か、動物らしき影も見当たらない。
「え? え? 何? まさか、心霊?」
「いや、それはないと思うけど。でも、風で揺れる音でもなかったし、もしかしたら、枝が茂みに落ちた音かもね」
「なぁ〜んだ。そうだったのか〜」
双葉は、その説得力のある類の推測に安堵の表情を浮かべる。
「それで? 何か言いかけてたよね? 何?」
その安堵の余韻のまま、双葉は言いかけていたる類の次の言葉を促す。
「うん。いや、やっぱり何でもないや。そろそろ戻らない? 時間的にも、そろそろみんなを起こして、帰る支度をしないと、親が起きる前に帰れない」
「え? うん。そう……だね」
双葉は、類の言いかけた言葉が気になり、腑に落ちない様子を見せるものの、それ以上に追及する事なく、2人は基地へ向かい踵を返した。
ーーー 約10分ほど前。
馴れない環境というのもあり、目を覚ました穂は、双葉と類の姿が見えない事に訝しみを浮かべて、外へと踏み出した。
外に出ると、駐車場側に続く道、昼間に何度か足を運んだ事のある、拓けた野原に続く道の2つに分かれた道がある。
穂は、勘だけを頼りに野原に続く道を選択して、歩を進み始める。
そうしているうちに、たどり着いた先に、仲睦まじく夜空を見上げる2人の姿を見つける。
穂は、2人に隠れるようにしてその様子を見つめている。
時折、双葉の横顔を盗み見る類の様子に、チクチクと胸を針で刺されるような痛みが込み上げる。
そして、類が何か言葉を発した後、初めて双葉が類に視線を移した表情を捉えると、衝動的に、枝を搔き分けて、更に凝視してしまう。
しかし、その途端、指先に激痛が走る。それは、木の枝の小さな棘が、指先に刺さってしまったための痛みだった。
「痛っ」
声を殺しながらも、慌てて離した木の枝は強く反動して、周りの草木を巻き込んで、大きく揺れてしまう。
(まずい!)
穂はその音に反射的に身を縮こまらせると、慌ててその場を立ち去った。
その姿を2人は捉える事はできなかった。
ーーー 双葉と類が基地へと戻ると、既に穂と春は起床しており、太陽は意外にも寝相よくまだ夢の住人を謳歌している。
「おはよう! みんな、朝早いね!」
双葉は、そんな太陽を気にもとめる事なく、元気な挨拶をする。
「おはよう〜、双葉ねぇ、にぃに〜」
春はまだ起きてから間もないのか、ふわふわと挨拶を返す。
「おはよう。2人共。どこに行ってたの?」
穂は、ティッシュで指先を押さえながら、ぎこちない笑みを浮かべる。
「ん? ちょっとお散歩? それから、天体観測?」
そう包み隠さず答える双葉に、少し妬みを交えた視線を向ける穂。
「穂? その指、どうしたの?」
すると、類は、穂の手元を見て慌てたように、自らのリュックに向かい、中からポーチを取り出す。
「あ、え? いや、ちょっと木の枝が刺さったみたいで」
「見せて」
類は、躊躇なく穂の手を取ると指先を凝視する。
「うん。良かった。棘は刺さってないみたい。出血もちょっと切った分だけで、そうでもないみたいだね。でも、このままじゃだめだよ」
類はそれから、コットンに水を垂らして、指先を洗浄すると、今度は消毒液を使用し、傷口の消毒を行う。
次に絆創膏を取り出すと、細く白い指に優しく巻きつけると、最後に「よし、これで終わり」と軽く穂の手を優しく包む。
「あ、ありがとう………」
穂はその一連の行動に、しおらしく頬を赤らめ、か細く礼を告げると、溢れそうな笑みを隠すように、口元をもごもごと動かす。
「あれ? 何? もう朝?」
その物音により、呑気にのそのそと起き上がった太陽は、大きな欠伸を披露する。
「さて! みんな起きたことだし、お開きにしようか! 例によって、みのりんは、ルイルイが送って行ってね!」
双葉はパンと手を打ち合わせ注目を集めてから、解散を宣言する。その宣言に異論を述べるものは居らず、5人としての、初めての夜ふかしのパーティーは幕を下ろした。