ーーー 基地に戻ってからは、双葉も安堵したようで、大量に広げられたポテトスナックや、チョコレートを頬張っている。

「それにしても、本当に実在したとなると………これは、びっくりだな」

太陽は難しい顔をしながら、缶ジュースをちびちびと口へ運んでいる。

「何がびっくりなんだ?」

類はそんな太陽のひとりごとに、廃墟写真集を眺めながら問う。

「ん? ああ。さっきの話。ほら、あの公衆トイレの噂話。あれな、実はな。俺がテキトーに作った話なんだよ」

「はぁ!? ゴホッゴホッ」

口いっぱいにポテトスナックを頬張っていた双葉が、思わず飲み込んだ砕けたスナック菓子が、気管に入り込み咽てしまう。

「いや〜、びっくりだよな〜。嘘から出た真ってやつかな? それとも思い込み? 何んせよ、また、オカルト界にまた一歩足を踏み入れたという事だな」

「あんたね! 何を呑気に! つまり、陽くんのせいって事だよね!」

ミルクティーで、口の中の咀嚼物を一気に飲み込んだ双葉は、紙コップを机に打ちつける。

「でも凄いね! 作り話が現実に〜って! これもまた新しい怪談になるもんね!」

基地に帰ってからも1人興奮気味の穂は、ノートを取り出すとペンを走らせる。

「穂先輩。何ですかそれ?」

春は両腕を枕にするように、机に突っ伏しながら穂に尋ねる。

「あ! これ? じゃ~ん」

穂は、春に向かってノートの表紙を見せつける。

「怪談ノート?」

双葉はそこに書かれていた文字を春の代わりに読み上げる。

「そうそう! 思いついた怪談。誰かに聞いた怪談。実際に体験した所謂、体験談。そういうものを書き綴っているんだ〜」

穂は誇らしげにノートを抱きしめる。

「へぇ〜。それじゃあ将来穂は、怪談集とな、ホラー小説とか、怪談師とか、そういう系統の職につくの?」

類が興味深そうに廃墟写真集を閉じる。

「うん。それは確かに魅力的だけど………。私にはきっと無理だよ。そんなに文才もないし。お話も上手じゃないし………それは、夢のまた夢かな?」と穂は弱々しく微笑む。

「そんな事ないよ!」

すると双葉が紙コップをくしゃりと潰すと、前のめりに穂に詰め寄る。

「え? え? ちょっと双葉さん?」

「無理なんてことないよ! やりたい事があるなら、可能性があるのなら、なんではじめから諦めるなんて選択肢に辿り着くの!?そんなの情けないよ! 出来る環境があるのなら、その強い想いがあるのなら、やるだけやってみて、それから駄目だったって笑えばいいじゃん! なんでやる前からそう決めつけて、自分を卑下して、傷つくのが怖いからなんて逃げるのは、本当の負け犬になるって事だよ!」

双葉のそんな熱情に、穂は目を大きく見開いて、思考を停止させる。

「ふ、双葉ねぇ、どうしたの?」

普段見せることのない姿に、他の3人も呆気に取られている。

「あ、ご、ごめんね。その、急に。その、何でもないの。ただ、好きな事、やりたい事、夢があるなら、頑張って欲しいなって。ただ、それだけで」

双葉もまた、自分自身の言動に戸惑い、急にしおらしい態度に変わる。

「う、うん。ありがとう。そう言ってくれると、私も少し自信とか、やる気とか漲ってくるよ。そういう事、言ってくれる人、これまでいなかったから。だから、素直に嬉しいよ。ちょっとびっくりしちゃったけど。ありがとう」

冷静になった双葉に釣られるようにして、我に返った穂は、真っ直ぐに向けられたその励ましに、柔らかく頬を緩ませる。

「う、うん! 頑張って! 応援してる!」

双葉は胸の前で両手で拳を強く握る。

「あのさ、良いところで悪いんだけど、これから歯磨きするだろ? 口を濯ぐだろ? それをペッするだろ? キャンプ場まで行けば、水道はあるけどよ、ここ付近だと、洗面所があるのって、あの公衆トイレになるわけじゃん」

その太陽の言葉に、みるみると青ざめていく双葉。
そうして震えた声でこう提案をする。

「キャンプ場まで、夜の散歩と行きませんか?」