ーーー そして迎えたプチキャンプ当日の夜。
1人基地から離れた場所から1人歩きするのは、基本田舎で人通りは皆無とはいえ危険と、穂の家付近で待機をする類。
春、双葉、太陽は先に合流を済ませて、ひと足先に基地へと向かっているであろう時間。
「お待たせ」と小走りで駆け寄る穂は、大きな登山リュックを背負っている。
「凄いに荷物だね」
「え? う、うん。初めてだから勝手がわからなくて、必要かなと思うものは、片っ端から詰め込んできたの」
「ふ〜ん」
そう声を潜めながら早口で説明をする穂に、鼻を鳴らしながら手を差し出す類。
「え! ちょ、ちょっと! いくら何でも!それはまだ!」
「ん? いや、リュック。重いだろうから、持つよ」
「え? え? あ、そ、そうだよね……。うん。ありがとう。じゃあ、お願いしちゃおうかな……へへ」
邪な誤解をして照れを隠すように、そそくさとリュックを類に手渡す穂。
「よいしょっと!さ、行こうか」
類は軽々とリュックを背負うと、穂の歩幅に合わせて2人並び夜道の行進を始める。
「どう? 迷惑してないかな?」
「え?」
歩き始めて数分。ずっと無を貫いていた空間の中、話の種を必死に探していた穂は、不意にかけられたその言葉の意味を理解するのに時間を要している。
「ああ。ごめん。言葉足らずだったね。ほら、急にさ、俺達の仲間に加えられて。その、迷惑してたりしないかなって。今日だって、こんな夜更けに連れ出しているわけだし。まぁ、今更かもしれないけど」
「ああ。ううん。全然。寧ろ楽しいよ。何だろ。初めて尽くしでさ。本当に毎日が新鮮で楽しい」
「そうか。それなら良かった」
「うん。それに………」
「ん? それに?」
「初めての感情に出会ったし………」
穂の最後のその言葉には、全く力が込まっておらず、蚊が鳴くよりもか細い声となった。
「ん? ごめん。ちょっと、聞こえなかった」
「え? えっと、ほら! 双葉ちゃん達のお陰で、少しずつ、クラスの子達にも話しかけられる事も増えてたから! それも嬉しいなって!」
「うん。確かにそれはそうだよね。クラスの男子なんか、みんな目の色を変えて、単純な奴らだな〜って思うよ。まぁ、確かに。穂は綺麗だからね」
「え? き、綺麗? 私、綺麗?」
「う、うん。何それ? 口裂け女?」
「違うって! ふふふっ!」
穂は今度は、弾むような笑い声をあげる。
「ふふっ! 穂はそうしていた方がずっといいよ」
「ん。うん。ありがとう」
すると今度は、そんな類の言葉に、いじらしく指を絡ませながら、並んで歩くサイズの違う靴を追うようにして、俯く穂。そして、類に見えないように、小さく微笑んだ。
ーーー 「お待たせ。やってる?」
まるで飲み屋の暖簾を潜るようにして、秘密基地内へ足を踏み入れる類。
「お! きたきた! お疲れ! 2人とも」
その類の後ろから、ご機嫌に顔を覗かせる穂も視界で捉えたところで、双葉が労いの言葉と笑みを贈る。
テーブルの上にはジュースと紙コップ、お菓子に、軽い夜食のサンドイッチやおにぎりまでもが広げられており、既に乾杯の準備を済ませていた、太陽と春も、ご機嫌に待ち構えていた。
「よっしゃあ! 全員揃ったという事で、早速、始めちゃいましょうか! じゃあ、乾杯の音頭は、新メンバーの穂!」
太陽はそう意気揚々と、紙コップに注がれていたジュースを手に取り、穂に挨拶を促す。
「え? わ、私?」
「嫌だったら、断ってもいいよ!」
突如振られた大役に困惑する穂を、颯爽とフォローする双葉。
「ううん! 大丈夫! ありがとう」
しかし穂はその気遣いを受け止めつつも、紙コップを手に取る。
「えっと。正直、今もまだ夢の中にいるみたいで、その、こうして、友達と呼べる人達と、夜遊び? したり。パーティーしたり。大袈裟じゃなくて、私の人生で最高に幸せな瞬間だと思う。あの日、双葉さんと出会って。成り行きでみんなと出会って。私は初めて、私でいる意味を見つけたみたいで。毎日が楽しくて、充実してて。うん。とにかく。ありがとう。そして、これからも、よろしくね! 乾杯!」
そう紙コップを掲げた穂の、いつも以上に口角の上がった笑顔は、心の底から沸き上がったものだった。
その穂の音頭を合図に、4人も紙コップを掲げて「乾杯!」と声を重なり合わせた。
そして皆が同じタイミングでジュースを含み、その後に現れたのは、これまた同じような笑みの展覧会だった。
「さぁ! 食べて、飲んで、盛り上がるよ!」
そうして双葉が一目散にスナック菓子に手を伸ばすのを合図に、騒がしい夜半のパーティーの幕が上がった。
1人基地から離れた場所から1人歩きするのは、基本田舎で人通りは皆無とはいえ危険と、穂の家付近で待機をする類。
春、双葉、太陽は先に合流を済ませて、ひと足先に基地へと向かっているであろう時間。
「お待たせ」と小走りで駆け寄る穂は、大きな登山リュックを背負っている。
「凄いに荷物だね」
「え? う、うん。初めてだから勝手がわからなくて、必要かなと思うものは、片っ端から詰め込んできたの」
「ふ〜ん」
そう声を潜めながら早口で説明をする穂に、鼻を鳴らしながら手を差し出す類。
「え! ちょ、ちょっと! いくら何でも!それはまだ!」
「ん? いや、リュック。重いだろうから、持つよ」
「え? え? あ、そ、そうだよね……。うん。ありがとう。じゃあ、お願いしちゃおうかな……へへ」
邪な誤解をして照れを隠すように、そそくさとリュックを類に手渡す穂。
「よいしょっと!さ、行こうか」
類は軽々とリュックを背負うと、穂の歩幅に合わせて2人並び夜道の行進を始める。
「どう? 迷惑してないかな?」
「え?」
歩き始めて数分。ずっと無を貫いていた空間の中、話の種を必死に探していた穂は、不意にかけられたその言葉の意味を理解するのに時間を要している。
「ああ。ごめん。言葉足らずだったね。ほら、急にさ、俺達の仲間に加えられて。その、迷惑してたりしないかなって。今日だって、こんな夜更けに連れ出しているわけだし。まぁ、今更かもしれないけど」
「ああ。ううん。全然。寧ろ楽しいよ。何だろ。初めて尽くしでさ。本当に毎日が新鮮で楽しい」
「そうか。それなら良かった」
「うん。それに………」
「ん? それに?」
「初めての感情に出会ったし………」
穂の最後のその言葉には、全く力が込まっておらず、蚊が鳴くよりもか細い声となった。
「ん? ごめん。ちょっと、聞こえなかった」
「え? えっと、ほら! 双葉ちゃん達のお陰で、少しずつ、クラスの子達にも話しかけられる事も増えてたから! それも嬉しいなって!」
「うん。確かにそれはそうだよね。クラスの男子なんか、みんな目の色を変えて、単純な奴らだな〜って思うよ。まぁ、確かに。穂は綺麗だからね」
「え? き、綺麗? 私、綺麗?」
「う、うん。何それ? 口裂け女?」
「違うって! ふふふっ!」
穂は今度は、弾むような笑い声をあげる。
「ふふっ! 穂はそうしていた方がずっといいよ」
「ん。うん。ありがとう」
すると今度は、そんな類の言葉に、いじらしく指を絡ませながら、並んで歩くサイズの違う靴を追うようにして、俯く穂。そして、類に見えないように、小さく微笑んだ。
ーーー 「お待たせ。やってる?」
まるで飲み屋の暖簾を潜るようにして、秘密基地内へ足を踏み入れる類。
「お! きたきた! お疲れ! 2人とも」
その類の後ろから、ご機嫌に顔を覗かせる穂も視界で捉えたところで、双葉が労いの言葉と笑みを贈る。
テーブルの上にはジュースと紙コップ、お菓子に、軽い夜食のサンドイッチやおにぎりまでもが広げられており、既に乾杯の準備を済ませていた、太陽と春も、ご機嫌に待ち構えていた。
「よっしゃあ! 全員揃ったという事で、早速、始めちゃいましょうか! じゃあ、乾杯の音頭は、新メンバーの穂!」
太陽はそう意気揚々と、紙コップに注がれていたジュースを手に取り、穂に挨拶を促す。
「え? わ、私?」
「嫌だったら、断ってもいいよ!」
突如振られた大役に困惑する穂を、颯爽とフォローする双葉。
「ううん! 大丈夫! ありがとう」
しかし穂はその気遣いを受け止めつつも、紙コップを手に取る。
「えっと。正直、今もまだ夢の中にいるみたいで、その、こうして、友達と呼べる人達と、夜遊び? したり。パーティーしたり。大袈裟じゃなくて、私の人生で最高に幸せな瞬間だと思う。あの日、双葉さんと出会って。成り行きでみんなと出会って。私は初めて、私でいる意味を見つけたみたいで。毎日が楽しくて、充実してて。うん。とにかく。ありがとう。そして、これからも、よろしくね! 乾杯!」
そう紙コップを掲げた穂の、いつも以上に口角の上がった笑顔は、心の底から沸き上がったものだった。
その穂の音頭を合図に、4人も紙コップを掲げて「乾杯!」と声を重なり合わせた。
そして皆が同じタイミングでジュースを含み、その後に現れたのは、これまた同じような笑みの展覧会だった。
「さぁ! 食べて、飲んで、盛り上がるよ!」
そうして双葉が一目散にスナック菓子に手を伸ばすのを合図に、騒がしい夜半のパーティーの幕が上がった。