ーーー 轟轟と木々に打ちつける風は、怪物の唸りのように、大地を揺らしている。

雨粒は、隙なく振り続け、いくつもの水たまりを作りだす。

空は灰色に染まり、日中だというのに辺りは薄暗く、地元民に、夜見(よるみ)様と愛される、生を司る神の宿る小さくも立派な社は、異界に繋がる扉のように、怪しく佇んでいた。

その前に両膝をつき、今にも吹きすさむ風に、飛ばされそうになりながらも、両手を絡ませて、祈るような仕草で目を瞑る、3人の少年少女の姿があった。

すっかりと体はずぶ濡れとなり、唇を震わせながらも、何度も何度も、豪雨にかき消される言葉を繰り返している。

それでも容赦なく叩きつける雨粒は、3人の膝下にも水たまりを作り出し、その範囲を徐々に広げていく。

ただ、3人はそんな事さえも意に介さずに、祈りを続けている。

8月のゲリラ豪雨。気温は低くは無くとも、まだ成長途中のその身体には、負担が蓄積していく。

「お願い………します……」

横並びに膝をついている2人の少年少女の前、繋ぎ合わせれば正三角形が形づくられるであろう位置に座する、
襟足から水滴を垂らす黒髪の少年は、か細くそう繰り返す。

パシャン!パシャン!

自分の声すらも、辛うじて聞こえるくらいの豪雨の中でも、真後ろからハッキリと聞こえる、その水たまりを叩くような音に、少年は反応し振り返る。

「春! 太陽!」

少年が振り返り目にした光景は、小さく出来た水たまりの中に、身体を沈める2人の姿。

「………せい。俺の………せいで……くそ!」

少年は、両手の拳を強く地面に叩きつける。泥濘んだ地面に少年の拳の跡がハッキリと刻まれ、あっという間に、小さな湖がまたひとつ出来あがる。

「ったく。大人しく寝てられないじゃないか。折角の雨音で、心地いい眠りにつけそうだったと言うのに」

その時、地面と鼻が触れそうな距離まで頭を下げ、項垂れていた少年の耳に、豪雨の中でもハッキリと形を帯びたそんな声が届いてくる。

少年は、思考を完全に停止すると、降り注げられた声の主がいるであろう方向へと恐る恐る顔を上げた。