爺さんは俺を家の中まで案内すると、早速湯を沸かして紅茶を出してくれた。
「お前さんは、魔力がある物質を粉に変えるという変わった能力があったんじゃ」
「……ほう?」
いきなり面白い情報が飛び出てきた。
ということは、あのぼんやりと光っている花は、魔力を持っていた、ということか。
単純にこの粉がどういったことを意味するのか、という知識もなかったっぽい。
花以外の魔力があるものも粉に変えられるということは、もしかするとハッピーパウダー以外のドラッグも作れるということだろうか?
「ただ、お前さんにはそれしか能がなかった。結局、何の仕事の役にも立たないとバカにされ、もともと身寄りがなかったこともあってか村から追い出された。そして、儂くらいしか住んどらんこの森に来て、ひとり花を粉に変えて食って生活していたんじゃ」
「他には何も食ってなかったの?」
疑問に思っていたことを訊いた。
俺が日本で作ったハッピーパウダーには、には、空腹感を誤魔化す効果はあっても実際に空腹を満たすことはできなかった。
だが、今の言い分では粉だけで生活していたようにも思える。
ともすれば、異世界のハッピーパウダーには、食事の効果もあることになる。
「みたいじゃな。粉なんかで腹が膨れるのかと訊いたら、これがあれば大丈夫だと言っていた。それが、森の中で粉を食っている変人と呼ばれる所以じゃな。でも、不思議とお前さんはいつも幸せそうじゃったよ」
「なるほどねぇ」
色々わかってきた。
どうやらこの異世界のハッピーパウダーには、空腹を満たして食事代わりにもなるらしい。
そして、飯代わりにハッピーパウダーを食ってたから、この宿主はいつでも幸福感に満たされていた、と。こんなところだろうか。
ただ、色々不安要素が多い身体であることには間違いなさそうだ。健康状態で言うと、日本で不摂生な生活をしていた本体の俺よりも酷い。
それだけでは栄養素が偏りそうだし、依存性もわからないものを食い続けていたのも結構怖い。ハッピーパウダーの使用は極力減らして、これからは普通のものを食った方が良さそうだ。
それとも、魔力をまとった粉を食っていたから栄養も摂取できていたのだろうか?
異世界には俺のわからないことがあまりにも多すぎる。
「で、そういう爺さんは? あんたも、俺に負けず劣らず不幸そうだけど?」
俺は家の中を見回して言った。
ぼろぼろの家屋に、最低限の家具や狩りの道具しかない。
俺の宿主よりはマシな生活をしてそうだが、寝食の場所があるだけ、という感じだ。
「まあ、儂も昔やらかしての……村を追い出され仕事を奪われ、女房にも出て行かれた。それからから何十年も、このオンボロ家でずっとひとりで暮らしておるよ」
この爺さんも、宿主に負けず劣らずな不幸っぷりだった。おそらく、死ぬのを待っているだけなのだろう。
それはそれで、少し可哀想だ。
そこでふとしたことを思いついて、俺はとある提案をしてみた。
「なあ、爺さん。ちょっとハッピーになってみない?」
「ハッピー……?」
「幸せってことさ。ちょっと貸してみ」
俺は爺さんのティーカップをこちらに寄せると、ハッピーパウダーさらさらっと混ぜて、ティースプーンで混ぜていく。
「何を入れたんじゃ?」
「幸せになる薬、さ。ほら、ぐぐっと飲んで」
俺はティーカップを爺さんの前に戻すと、爺さんは怪訝そうにしていたが、すぐにぐいっと一気に紅茶を飲み干した。
この爺さんがただ人が良いのか、この世界の人間が人を疑わないのかは知らないが、警戒心がないにも程がある。ちょっとびっくりした。
「特に味は変わらんが……おや?」
飲んですぐに、爺さんの顔色が変わった。
先程まで生気の欠片もなかったが、突如幸福感に満ちた表情になる。
「なんじゃ、これは? こんな良い気分になったのはいつ以来じゃろうか? まるで妻と一緒に暮らしていた時のような気分だ……お主、一体何をした?」
ぽわぽわと、まるで幸せの絶頂にいるかのような顔色になって、爺さんが訊いてきた。
孤独を長く味わってきた分、ハッピーパウダーの効果が増しているのかもしれない。
これも面白い発見だ。いや、こうした不幸な人ほど幸福感を味わいやすいというのは、向こうの世界でも変わらないのかもしれない。
「幸せにする魔法の粉を、その紅茶にいれただけさ」
にやりと笑って、俺は鞄の中から瓶を一つ取り出し、爺さんの前に差し出した。
「どうだい、爺さん。その幸せの元・ハッピーパウダーが丸々入ったこの瓶と……色々俺の欲しいものを交換してくれないか?」
「欲しいもの、じゃと? 一体何が欲しいんじゃ。見ての通り、高価なものなぞないぞ」
「別に、大したものじゃないさ。服に食糧、鞄、それから空き瓶をあるだけくれ。あとは、そうだな……その集落で、最近不幸に遭った奴なんかがいると、それも教えてほしい」
とりあえず、今の服装のままでは人の集落に入れてもらえない。というより、こんな服さっさと着替えたかった。
この爺さんの服装も決して良いわけではないが、俺が今着ている浮浪者同然の格好よりもマシだ。
それに、爺さんの話ぶりでは、ハッピーフラワー以外にも、薬の元となるものはありそうだ。魔力があるものをかたっぱしから粉にして、成分を試していってみるのも良いのかもしれない。
「それだけで……この粉を、そんなにも」
ごくり、と爺さんが唾を飲み込む音が聞こえた。
あの幸福感を味わってしまえば、もう孤独な生活に耐えられないのだろう。
現世だと麻薬なんてものは警戒されまくっているが、知識がない奴に売るのがこうも簡単だとは。
それに、このハッピーパウダーは、おそらくあっちの麻薬ほど危険なものではない。俺の宿主がこれだけを食って生き続けていたのがその証拠だ。
仮に依存性があったとしても、身体に害がないのであれば問題ない。まあ……俺が実感してないだけで、何かしらの副作用があるのかもしれないけど。
「爺さんに幸せになってほしいからな。でも、大安売りは今回だけだ。今度は、もちっと色々貰うよ?」
爺さんが出した答えは、言うまでもない。
上がった口角が戻らなかった。
いや、この時ようやく始まったと実感できたのだ。
新たな世界における、俺の第二の人生。
異世界売人生活の幕が、この時ようやく開けたのである。
「お前さんは、魔力がある物質を粉に変えるという変わった能力があったんじゃ」
「……ほう?」
いきなり面白い情報が飛び出てきた。
ということは、あのぼんやりと光っている花は、魔力を持っていた、ということか。
単純にこの粉がどういったことを意味するのか、という知識もなかったっぽい。
花以外の魔力があるものも粉に変えられるということは、もしかするとハッピーパウダー以外のドラッグも作れるということだろうか?
「ただ、お前さんにはそれしか能がなかった。結局、何の仕事の役にも立たないとバカにされ、もともと身寄りがなかったこともあってか村から追い出された。そして、儂くらいしか住んどらんこの森に来て、ひとり花を粉に変えて食って生活していたんじゃ」
「他には何も食ってなかったの?」
疑問に思っていたことを訊いた。
俺が日本で作ったハッピーパウダーには、には、空腹感を誤魔化す効果はあっても実際に空腹を満たすことはできなかった。
だが、今の言い分では粉だけで生活していたようにも思える。
ともすれば、異世界のハッピーパウダーには、食事の効果もあることになる。
「みたいじゃな。粉なんかで腹が膨れるのかと訊いたら、これがあれば大丈夫だと言っていた。それが、森の中で粉を食っている変人と呼ばれる所以じゃな。でも、不思議とお前さんはいつも幸せそうじゃったよ」
「なるほどねぇ」
色々わかってきた。
どうやらこの異世界のハッピーパウダーには、空腹を満たして食事代わりにもなるらしい。
そして、飯代わりにハッピーパウダーを食ってたから、この宿主はいつでも幸福感に満たされていた、と。こんなところだろうか。
ただ、色々不安要素が多い身体であることには間違いなさそうだ。健康状態で言うと、日本で不摂生な生活をしていた本体の俺よりも酷い。
それだけでは栄養素が偏りそうだし、依存性もわからないものを食い続けていたのも結構怖い。ハッピーパウダーの使用は極力減らして、これからは普通のものを食った方が良さそうだ。
それとも、魔力をまとった粉を食っていたから栄養も摂取できていたのだろうか?
異世界には俺のわからないことがあまりにも多すぎる。
「で、そういう爺さんは? あんたも、俺に負けず劣らず不幸そうだけど?」
俺は家の中を見回して言った。
ぼろぼろの家屋に、最低限の家具や狩りの道具しかない。
俺の宿主よりはマシな生活をしてそうだが、寝食の場所があるだけ、という感じだ。
「まあ、儂も昔やらかしての……村を追い出され仕事を奪われ、女房にも出て行かれた。それからから何十年も、このオンボロ家でずっとひとりで暮らしておるよ」
この爺さんも、宿主に負けず劣らずな不幸っぷりだった。おそらく、死ぬのを待っているだけなのだろう。
それはそれで、少し可哀想だ。
そこでふとしたことを思いついて、俺はとある提案をしてみた。
「なあ、爺さん。ちょっとハッピーになってみない?」
「ハッピー……?」
「幸せってことさ。ちょっと貸してみ」
俺は爺さんのティーカップをこちらに寄せると、ハッピーパウダーさらさらっと混ぜて、ティースプーンで混ぜていく。
「何を入れたんじゃ?」
「幸せになる薬、さ。ほら、ぐぐっと飲んで」
俺はティーカップを爺さんの前に戻すと、爺さんは怪訝そうにしていたが、すぐにぐいっと一気に紅茶を飲み干した。
この爺さんがただ人が良いのか、この世界の人間が人を疑わないのかは知らないが、警戒心がないにも程がある。ちょっとびっくりした。
「特に味は変わらんが……おや?」
飲んですぐに、爺さんの顔色が変わった。
先程まで生気の欠片もなかったが、突如幸福感に満ちた表情になる。
「なんじゃ、これは? こんな良い気分になったのはいつ以来じゃろうか? まるで妻と一緒に暮らしていた時のような気分だ……お主、一体何をした?」
ぽわぽわと、まるで幸せの絶頂にいるかのような顔色になって、爺さんが訊いてきた。
孤独を長く味わってきた分、ハッピーパウダーの効果が増しているのかもしれない。
これも面白い発見だ。いや、こうした不幸な人ほど幸福感を味わいやすいというのは、向こうの世界でも変わらないのかもしれない。
「幸せにする魔法の粉を、その紅茶にいれただけさ」
にやりと笑って、俺は鞄の中から瓶を一つ取り出し、爺さんの前に差し出した。
「どうだい、爺さん。その幸せの元・ハッピーパウダーが丸々入ったこの瓶と……色々俺の欲しいものを交換してくれないか?」
「欲しいもの、じゃと? 一体何が欲しいんじゃ。見ての通り、高価なものなぞないぞ」
「別に、大したものじゃないさ。服に食糧、鞄、それから空き瓶をあるだけくれ。あとは、そうだな……その集落で、最近不幸に遭った奴なんかがいると、それも教えてほしい」
とりあえず、今の服装のままでは人の集落に入れてもらえない。というより、こんな服さっさと着替えたかった。
この爺さんの服装も決して良いわけではないが、俺が今着ている浮浪者同然の格好よりもマシだ。
それに、爺さんの話ぶりでは、ハッピーフラワー以外にも、薬の元となるものはありそうだ。魔力があるものをかたっぱしから粉にして、成分を試していってみるのも良いのかもしれない。
「それだけで……この粉を、そんなにも」
ごくり、と爺さんが唾を飲み込む音が聞こえた。
あの幸福感を味わってしまえば、もう孤独な生活に耐えられないのだろう。
現世だと麻薬なんてものは警戒されまくっているが、知識がない奴に売るのがこうも簡単だとは。
それに、このハッピーパウダーは、おそらくあっちの麻薬ほど危険なものではない。俺の宿主がこれだけを食って生き続けていたのがその証拠だ。
仮に依存性があったとしても、身体に害がないのであれば問題ない。まあ……俺が実感してないだけで、何かしらの副作用があるのかもしれないけど。
「爺さんに幸せになってほしいからな。でも、大安売りは今回だけだ。今度は、もちっと色々貰うよ?」
爺さんが出した答えは、言うまでもない。
上がった口角が戻らなかった。
いや、この時ようやく始まったと実感できたのだ。
新たな世界における、俺の第二の人生。
異世界売人生活の幕が、この時ようやく開けたのである。