『パね? じゃあ〝ラッパ〟』
俺は少し考えてから、水晶トランシーバーを通して答えた。
次はフランの番だ。
『えーっと……〝パンダ〟』
『〝だるま〟。あ、だるまってこっちの世界にないんでしたっけ。大丈夫です?』
フランが答えて、その次にメルヴィ。
いちいち確認してくるところがメルヴィらしい。
『まあ、俺らがわかってるしアリじゃね? えー、〝まくら〟』
『〝ラジオ〟! あー、ラジオ聴きたいなぁ。FMラジオ』
『ええですねえ、ラジオ。今にしたら懐かしいどすなぁ。〝おにぎり〟でお願いしますね』
『おー、いいな。具ナシでいいからおにぎり食いてえ。〝りす〟』
あれだけバカにしておきならが、水晶トランシーバーの使い道がとりあえずしりとりくらいしかなかった件。
今のところ緊急事態も早々起きないことから、基本的に暇つぶし道具になっていた。
馬車サービスをしている時はそれぞれ単独行動なので、客がいない時は基本的に暇だ。そんな時に、フランからしりとりが始まった。
俺も今日は爺さんのところにハッピーフラワーを受け取りに行く日で、暇を持て余してしまい、結局乗っかることになったのだ。
俺ももしかしたらフランと同等のアホなのかもしれない。
馬車を降りて、俺がドーピングパウダーの原材料を採取している間もしりとりは続いていく。
『〝メガネ〟でっか。ほんなら、〝ねこ〟で』
『〝こあら〟』
『〝ら〟かぁ。〝らっぱ〟かなー』
『おい、〝らっぱ〟はさっき出たぞ』
フランが御手付きをしたので、指摘してやる。
『え、そうだっけ?』
『〝らっぱ〟はボスが言うてはりましたね』
『マジかー。じゃあ、〝らくだ〟』
『〝だ〟……ほな、〝だいこん〟で。だいこんの煮つけとか和食食べたいですねー』
きっと、メルヴィは特に何も考えずに頭に浮かんだ食べたいものを言ってしまったのだろう。〝ん〟がついているのに気付いていないようだ。
俺とフランが「あっ」と声を漏らすと……
『え? ……あっ! だいこんておもっきり〝ん〟ついてますやん! ああああッ、やってもうたあああッ』
メルヴィの悲鳴が、水晶を通じて脳内に響きわたって、俺とフランが爆笑する。
うん、やっぱりメルヴィのポンコツっぷりは異世界に来ても健在だった。基本彼女は優秀なのだが、こうしたポカをよくするのである。今回のポカはしりとりくらいでよかったのだが、犯罪に関するポカもたまに死ぬ。で、俺達がめっちゃ焦るというパターン。まあ、これはこれで楽しいのだけれど。
というか、俺達異世界に来て何でしりとりやってるんだろうな?
それからしりとりにも飽きた俺達は、それぞれの作業に没頭した。
ちょうどドーピングパウダーが手に入る洞窟に差し当たったので、馬車から降りて赤い鉱石を採取していく。
今ではドーピングパウダーでのトレーニングの成果もあってから、この宿主の身体もかなりの細マッチョになってきた。もともと筋肥大を起こしにくい体質なようで、ゴリマッチョにはなれなそうだ。
まあ、このガキんちょの顔でゴリマッチョは似合わないので、細マッチョで十分なのだけれど。
でも、どれだけ身体を鍛えても、格闘術ではフランに全然適わないんだよな。俺も一応カパプ習っててそこそこ自信はあるんだけど、もともと魔物討伐部隊で高い戦闘力を誇り、更に現世での格闘術の知識もある彼女の前には、俺の習い事のカパプなど全く歯が立たない。ドーピングパウダーを使って筋力では勝っても、速さや技術であっさりと制圧されてしまうのだ。それがちょっと悔しい。
メルヴィも魔導師としてはかなりの腕なようだし、異世界人としての力でいうと、俺が一番しょぼい気がする。だって、薬精製する能力しかないし。そりゃ知識もなかったら森ん中で粉食うしかないよな。
そんなことを考えながら赤い鉱石からドーピングパウダーを精製していると、フランの歌声が脳内に響いてきた。
『どんぐりころころ~どんぶりこ~おいけにはまってさあ大変~』
……? 何をいきなり歌い出したんだと思って考えてみて、すぐ思い至る。
こいつ、しりとりで水晶トランシーバーに意識繋いだまま頭の中で歌を口ずさんでやがったのだ。
『あー、フラン。大丈夫か?』
『はい? 何が何が?』
全く無自覚なフランが無邪気に訊いてきた。
『いや。どんぐりころころ、こっちまで聞こえてるからな?』
『あちきにも聞こえてますね~』
『えっ!? 私の声入ってるんですか!? 恥ずッ』
やっぱりしりとりの時と同じ感じで水晶玉に繋いだままひとりで歌っていたらしい。
というか、馬車サービスで客乗せてない時こいつひとりで歌ってたのか。
『うわ~、気をつけよ。心の中覗かれた気分でめちゃ恥ずかしい』
『覗いたっていうより、むしろ見せつけられたからね? 俺ら』
『そうだった。すみません』
言ってから、フランはどこか面映ゆげに笑った。
『でもいいですね、水晶トランシーバー。私、今までひとりで馬車乗ってる時どうやって暇潰そうかって考えてて』
『それで童話歌ってたわけだ?』
『そうそう~。覚えてる童話一個一個思い浮かべる癖ついちゃってたの』
『歌うのはいいけど、気ぃつけてね? こっちはびっくりするから』
『あはははっ。ですね、気をつけます』
暇人すぎるだろ。
いや、まあ馬車での移動中って確かに暇だから、気持ちはわかるんだけど。
『でも、こうやって遠くでも話できたら退屈じゃなくて楽しいな~って。さっきみたいにミスらないようにしなくちゃですけど』
『まあ、俺もボイチャしながら採取してるって感じだから、結構楽しいけどね』
『ほな、またしりとりやります?』
『やんねーよ』
何でまたしりとりに戻ってくるんだよ。
しかし、相変わらず退屈な様子のフランがうきうきな様子で提案する。
『じゃあ連想ゲームは?』
『あ、ええですね! 次連想ゲームにしましょ!』
『やらねーよ! お前ら仕事しろ』
今日も今日とて平和なカルテルである。
まあ、平和なのはいいことなんだけれど。
『あ、そうだ。今日仕事してる最中に何人か売人候補見繕ったんで、面接しません?』
『お、いいねー。じゃあ明日やろうか』
なんだ、しりとりしたり童話歌ったりして全然仕事してないのかと思ったら、ちゃんとやることはやってるじゃないか。
アホっぽくてちょっと不安になるけど、任せた仕事はちゃんと熟してくれるのがフランだ。
『でも、面接って何訊けばいいんだ?』
そういえば、今まで売人バイトの面接をしたことがなかった。
日本だともともと売人やってる奴がいて、そこに卸すだけだった。売人未経験の面接なんて初めてだ。
『う~ん、好きな食べ物とか?』
『好きな異性のタイプとかどないでしょ?』
『それ、完全に合コンな?』
うちの女性陣はどこまで真面目でどこからがボケなのだろうか。全然わからない。
『え~、結構食べ物で信用できるかわかるよ? 果物とかだったら信用できるし』
『わかんねーよ。お前が果物好きなだけだろ。信用の基準ガバガバ過ぎじゃねーか』
『初対面で好みの異性ちゃんと言える人って信用できる思いません? あッ。あちきがタイプって言われたらどないしましょ!?』
『まあ、合コンなら信用できなくもないけど。あと、もう後半突っ込まないからな?』
ダメだ。ボケ倒すこいつらの前では明らかにツッコみ要員が足りない。
要するに、皆暇を潰したいのだろう。
面接での質問事項を決めるのは、アジトに帰ってからの方がいいのかもしれない。
俺は少し考えてから、水晶トランシーバーを通して答えた。
次はフランの番だ。
『えーっと……〝パンダ〟』
『〝だるま〟。あ、だるまってこっちの世界にないんでしたっけ。大丈夫です?』
フランが答えて、その次にメルヴィ。
いちいち確認してくるところがメルヴィらしい。
『まあ、俺らがわかってるしアリじゃね? えー、〝まくら〟』
『〝ラジオ〟! あー、ラジオ聴きたいなぁ。FMラジオ』
『ええですねえ、ラジオ。今にしたら懐かしいどすなぁ。〝おにぎり〟でお願いしますね』
『おー、いいな。具ナシでいいからおにぎり食いてえ。〝りす〟』
あれだけバカにしておきならが、水晶トランシーバーの使い道がとりあえずしりとりくらいしかなかった件。
今のところ緊急事態も早々起きないことから、基本的に暇つぶし道具になっていた。
馬車サービスをしている時はそれぞれ単独行動なので、客がいない時は基本的に暇だ。そんな時に、フランからしりとりが始まった。
俺も今日は爺さんのところにハッピーフラワーを受け取りに行く日で、暇を持て余してしまい、結局乗っかることになったのだ。
俺ももしかしたらフランと同等のアホなのかもしれない。
馬車を降りて、俺がドーピングパウダーの原材料を採取している間もしりとりは続いていく。
『〝メガネ〟でっか。ほんなら、〝ねこ〟で』
『〝こあら〟』
『〝ら〟かぁ。〝らっぱ〟かなー』
『おい、〝らっぱ〟はさっき出たぞ』
フランが御手付きをしたので、指摘してやる。
『え、そうだっけ?』
『〝らっぱ〟はボスが言うてはりましたね』
『マジかー。じゃあ、〝らくだ〟』
『〝だ〟……ほな、〝だいこん〟で。だいこんの煮つけとか和食食べたいですねー』
きっと、メルヴィは特に何も考えずに頭に浮かんだ食べたいものを言ってしまったのだろう。〝ん〟がついているのに気付いていないようだ。
俺とフランが「あっ」と声を漏らすと……
『え? ……あっ! だいこんておもっきり〝ん〟ついてますやん! ああああッ、やってもうたあああッ』
メルヴィの悲鳴が、水晶を通じて脳内に響きわたって、俺とフランが爆笑する。
うん、やっぱりメルヴィのポンコツっぷりは異世界に来ても健在だった。基本彼女は優秀なのだが、こうしたポカをよくするのである。今回のポカはしりとりくらいでよかったのだが、犯罪に関するポカもたまに死ぬ。で、俺達がめっちゃ焦るというパターン。まあ、これはこれで楽しいのだけれど。
というか、俺達異世界に来て何でしりとりやってるんだろうな?
それからしりとりにも飽きた俺達は、それぞれの作業に没頭した。
ちょうどドーピングパウダーが手に入る洞窟に差し当たったので、馬車から降りて赤い鉱石を採取していく。
今ではドーピングパウダーでのトレーニングの成果もあってから、この宿主の身体もかなりの細マッチョになってきた。もともと筋肥大を起こしにくい体質なようで、ゴリマッチョにはなれなそうだ。
まあ、このガキんちょの顔でゴリマッチョは似合わないので、細マッチョで十分なのだけれど。
でも、どれだけ身体を鍛えても、格闘術ではフランに全然適わないんだよな。俺も一応カパプ習っててそこそこ自信はあるんだけど、もともと魔物討伐部隊で高い戦闘力を誇り、更に現世での格闘術の知識もある彼女の前には、俺の習い事のカパプなど全く歯が立たない。ドーピングパウダーを使って筋力では勝っても、速さや技術であっさりと制圧されてしまうのだ。それがちょっと悔しい。
メルヴィも魔導師としてはかなりの腕なようだし、異世界人としての力でいうと、俺が一番しょぼい気がする。だって、薬精製する能力しかないし。そりゃ知識もなかったら森ん中で粉食うしかないよな。
そんなことを考えながら赤い鉱石からドーピングパウダーを精製していると、フランの歌声が脳内に響いてきた。
『どんぐりころころ~どんぶりこ~おいけにはまってさあ大変~』
……? 何をいきなり歌い出したんだと思って考えてみて、すぐ思い至る。
こいつ、しりとりで水晶トランシーバーに意識繋いだまま頭の中で歌を口ずさんでやがったのだ。
『あー、フラン。大丈夫か?』
『はい? 何が何が?』
全く無自覚なフランが無邪気に訊いてきた。
『いや。どんぐりころころ、こっちまで聞こえてるからな?』
『あちきにも聞こえてますね~』
『えっ!? 私の声入ってるんですか!? 恥ずッ』
やっぱりしりとりの時と同じ感じで水晶玉に繋いだままひとりで歌っていたらしい。
というか、馬車サービスで客乗せてない時こいつひとりで歌ってたのか。
『うわ~、気をつけよ。心の中覗かれた気分でめちゃ恥ずかしい』
『覗いたっていうより、むしろ見せつけられたからね? 俺ら』
『そうだった。すみません』
言ってから、フランはどこか面映ゆげに笑った。
『でもいいですね、水晶トランシーバー。私、今までひとりで馬車乗ってる時どうやって暇潰そうかって考えてて』
『それで童話歌ってたわけだ?』
『そうそう~。覚えてる童話一個一個思い浮かべる癖ついちゃってたの』
『歌うのはいいけど、気ぃつけてね? こっちはびっくりするから』
『あはははっ。ですね、気をつけます』
暇人すぎるだろ。
いや、まあ馬車での移動中って確かに暇だから、気持ちはわかるんだけど。
『でも、こうやって遠くでも話できたら退屈じゃなくて楽しいな~って。さっきみたいにミスらないようにしなくちゃですけど』
『まあ、俺もボイチャしながら採取してるって感じだから、結構楽しいけどね』
『ほな、またしりとりやります?』
『やんねーよ』
何でまたしりとりに戻ってくるんだよ。
しかし、相変わらず退屈な様子のフランがうきうきな様子で提案する。
『じゃあ連想ゲームは?』
『あ、ええですね! 次連想ゲームにしましょ!』
『やらねーよ! お前ら仕事しろ』
今日も今日とて平和なカルテルである。
まあ、平和なのはいいことなんだけれど。
『あ、そうだ。今日仕事してる最中に何人か売人候補見繕ったんで、面接しません?』
『お、いいねー。じゃあ明日やろうか』
なんだ、しりとりしたり童話歌ったりして全然仕事してないのかと思ったら、ちゃんとやることはやってるじゃないか。
アホっぽくてちょっと不安になるけど、任せた仕事はちゃんと熟してくれるのがフランだ。
『でも、面接って何訊けばいいんだ?』
そういえば、今まで売人バイトの面接をしたことがなかった。
日本だともともと売人やってる奴がいて、そこに卸すだけだった。売人未経験の面接なんて初めてだ。
『う~ん、好きな食べ物とか?』
『好きな異性のタイプとかどないでしょ?』
『それ、完全に合コンな?』
うちの女性陣はどこまで真面目でどこからがボケなのだろうか。全然わからない。
『え~、結構食べ物で信用できるかわかるよ? 果物とかだったら信用できるし』
『わかんねーよ。お前が果物好きなだけだろ。信用の基準ガバガバ過ぎじゃねーか』
『初対面で好みの異性ちゃんと言える人って信用できる思いません? あッ。あちきがタイプって言われたらどないしましょ!?』
『まあ、合コンなら信用できなくもないけど。あと、もう後半突っ込まないからな?』
ダメだ。ボケ倒すこいつらの前では明らかにツッコみ要員が足りない。
要するに、皆暇を潰したいのだろう。
面接での質問事項を決めるのは、アジトに帰ってからの方がいいのかもしれない。