メルヴィが異世界での麻薬カルテル〝レガリア〟に加わってから、俺達の活動は飛躍的に広がった。
まず第一に、俺が原材料採取に専念できるようになったこと。それから、フランが新たに顧客を見つけてきた上、その顧客にメルヴィの既存の知り合いなんかも入ってきた。
ハッピーパウダーの売り上げは上々。
ただ、そろそろひとりひとり手売りにしていくのは面倒になってきたので売人を立てるべき、という意見がフランの方から上がってきた。
「いっそ、お店出しちゃうとかは? 特に副作用もないんだったら別にいいんじゃない?」
これがフランの意見だった。
うん、それも別に悪くはない意見だ。
この世界には、麻薬という概念そのものがない。ハッピーパウダーだって、ただ気持ちよくなる粉程度にしか思われていないだろう。
ただ──
「いや、それは今んとこナシかな。その判断はちょっと早計だと思う」
これが俺の意見だった。
確かに、禁止されているものではないのであれば、今のうちに売るだけ売って、禁止されたらバックレをかますというのも戦略としては間違っていない。実際、そんな感じで設けた企業はあっちの世界でも多かったはずだ。
俺の懸念点としてあったのが、その『副作用がない』というところだった。
本当にそうなのだろうか?
俺は些かそれが信じられないでいた。というか、確信が持てない。
いくら異世界と雖も、吸ったり混ぜて飲むだけで気持ちよくなる粉だ。明らかな麻薬成分。だとすれば、何かしらの副作用があると考えて間違いない。
実際に、ドーピングパウダーにもアーマーパウダーにも副作用はあった。それを鑑みると、ハッピーパウダーにも何かしら影響があると考えて間違いないだろう。
それに、そのふたつだって副作用の質は異なっている。アーマーパウダーは使った直後に副作用が現れるが、ドーピングパウダーは効果が切れてから現れていた。
副作用が現れるタイミングが異なるなら、ハッピーパウダーだって副作用が現れるタイミングが他のものと違うのかもしれない。月を跨ぐくらいの遅効性なのか、或いは摂取し続けてある一定の分量を超えたら副作用が発動するのかもしれない。
「とりあえず、一~二年か様子を見てからでも良いんじゃないかな。もう売り捌くのが難しいなら、あっちでやっていた通り、間に売人を挟もう」
「あちきもそれがいいと思うなー。一応、お天道様には顔向けられへん商売してるわけやし、隠密にやる方がええと思う」
俺の意見にメルヴィが賛同した。
こうして暫く話していると、彼女の関西弁にも慣れてきたものである。
「そっかー、まあそれもそうだよね」
フランも特段気にした様子もなくうむうむと頷いていた。
ただ思いついたことを言ってみただけで、特に拘りがあったわけではなさそうだ。
「というか、いつ『お天道様に顔を向けられない商売になるかわからない』ってのが実際のところかな。決定的な副作用が明らかにならないうちは、こそこそ売った方がいい」
こっちの世界にだって、いきなりハッピーパウダーを禁止する法律が制定されるリスクがある。
そうなった時に、店なんざ呑気に構えていたらまとめてしょっ引かれてしまうだけだ。さすがにそのリスクはおかしたくなかった。
それに……俺は、ちょっとだけハッピーパウダーの副作用に心当たりがあった。
それは、こっちの世界の宿主のことである。
フランとメルヴィは、こっちの世界の宿主の記憶や性格を宿していた。しかし、その一方の俺は、一切記憶が残っていない。
あっちの世界で転生する直前の行動に、俺達の間に差異はなかった。
だとすれば、俺達が転生する前までに取っていた宿主の行動の差異が、記憶の有無に関連すると考えるのが自然だろう。
そう……俺の宿主のこのガキんちょは、食事代わりにハッピーパウダーを吸っていたのである。毎日毎日、だ。
どの程度の分量を吸っていたのかはわからないが、もし俺にガキんちょの記憶がなくて他のふたりに宿主の記憶や自我があるのだとすれば、違いはそこしかない。
「フランはハッピーパウダーの使用者からそれとなく感想聞いといてくれないか? 何か変わったことがないか、副作用っぽいものが出てないかとか」
「了解でーす!」
フランが元気よく返事をした。
うん、軽いノリだけど、これがこっちの彼女の良さでもある。俺達の間に明るい空気を齎してくれるのだ。
……ハッピーパウダーの副作用は、記憶の喪失。これが、俺の予想だった。
だが、まだふたりにはそれは話さないでおこう。まだその副作用が確定されたわけではないのだし。ただ、一応釘はさしておこう。
「あー、あと……その副作用がわかんない関係もあるから、ハッピーパウダーは使うなよ? 副作用が明確にわかってないドラッグは、基本的に使わない方向でいこう」
「はーい」
「了解どす」
ふたりの返事を聞いてから、具体的にどんな売人を選定すべきかの話に入った。
基本的に、売人の人物像は半グレは職がない人間が打ってつけだ。そういった連中に職を与えて、売り上げの一部をそいつに与える。売り上げをもったままバックレをしようものなら、それは世にも恐ろしい目に遭ってもらうほかない。
ただ……ハッピーフラワーの副作用が俺の予想通りの副作用であるなら、遅かれ早かれ規制の的になる。
できれば、フランの提案通りに粉屋さんでも開けたらそれが一番なんだけどなぁ。
まず第一に、俺が原材料採取に専念できるようになったこと。それから、フランが新たに顧客を見つけてきた上、その顧客にメルヴィの既存の知り合いなんかも入ってきた。
ハッピーパウダーの売り上げは上々。
ただ、そろそろひとりひとり手売りにしていくのは面倒になってきたので売人を立てるべき、という意見がフランの方から上がってきた。
「いっそ、お店出しちゃうとかは? 特に副作用もないんだったら別にいいんじゃない?」
これがフランの意見だった。
うん、それも別に悪くはない意見だ。
この世界には、麻薬という概念そのものがない。ハッピーパウダーだって、ただ気持ちよくなる粉程度にしか思われていないだろう。
ただ──
「いや、それは今んとこナシかな。その判断はちょっと早計だと思う」
これが俺の意見だった。
確かに、禁止されているものではないのであれば、今のうちに売るだけ売って、禁止されたらバックレをかますというのも戦略としては間違っていない。実際、そんな感じで設けた企業はあっちの世界でも多かったはずだ。
俺の懸念点としてあったのが、その『副作用がない』というところだった。
本当にそうなのだろうか?
俺は些かそれが信じられないでいた。というか、確信が持てない。
いくら異世界と雖も、吸ったり混ぜて飲むだけで気持ちよくなる粉だ。明らかな麻薬成分。だとすれば、何かしらの副作用があると考えて間違いない。
実際に、ドーピングパウダーにもアーマーパウダーにも副作用はあった。それを鑑みると、ハッピーパウダーにも何かしら影響があると考えて間違いないだろう。
それに、そのふたつだって副作用の質は異なっている。アーマーパウダーは使った直後に副作用が現れるが、ドーピングパウダーは効果が切れてから現れていた。
副作用が現れるタイミングが異なるなら、ハッピーパウダーだって副作用が現れるタイミングが他のものと違うのかもしれない。月を跨ぐくらいの遅効性なのか、或いは摂取し続けてある一定の分量を超えたら副作用が発動するのかもしれない。
「とりあえず、一~二年か様子を見てからでも良いんじゃないかな。もう売り捌くのが難しいなら、あっちでやっていた通り、間に売人を挟もう」
「あちきもそれがいいと思うなー。一応、お天道様には顔向けられへん商売してるわけやし、隠密にやる方がええと思う」
俺の意見にメルヴィが賛同した。
こうして暫く話していると、彼女の関西弁にも慣れてきたものである。
「そっかー、まあそれもそうだよね」
フランも特段気にした様子もなくうむうむと頷いていた。
ただ思いついたことを言ってみただけで、特に拘りがあったわけではなさそうだ。
「というか、いつ『お天道様に顔を向けられない商売になるかわからない』ってのが実際のところかな。決定的な副作用が明らかにならないうちは、こそこそ売った方がいい」
こっちの世界にだって、いきなりハッピーパウダーを禁止する法律が制定されるリスクがある。
そうなった時に、店なんざ呑気に構えていたらまとめてしょっ引かれてしまうだけだ。さすがにそのリスクはおかしたくなかった。
それに……俺は、ちょっとだけハッピーパウダーの副作用に心当たりがあった。
それは、こっちの世界の宿主のことである。
フランとメルヴィは、こっちの世界の宿主の記憶や性格を宿していた。しかし、その一方の俺は、一切記憶が残っていない。
あっちの世界で転生する直前の行動に、俺達の間に差異はなかった。
だとすれば、俺達が転生する前までに取っていた宿主の行動の差異が、記憶の有無に関連すると考えるのが自然だろう。
そう……俺の宿主のこのガキんちょは、食事代わりにハッピーパウダーを吸っていたのである。毎日毎日、だ。
どの程度の分量を吸っていたのかはわからないが、もし俺にガキんちょの記憶がなくて他のふたりに宿主の記憶や自我があるのだとすれば、違いはそこしかない。
「フランはハッピーパウダーの使用者からそれとなく感想聞いといてくれないか? 何か変わったことがないか、副作用っぽいものが出てないかとか」
「了解でーす!」
フランが元気よく返事をした。
うん、軽いノリだけど、これがこっちの彼女の良さでもある。俺達の間に明るい空気を齎してくれるのだ。
……ハッピーパウダーの副作用は、記憶の喪失。これが、俺の予想だった。
だが、まだふたりにはそれは話さないでおこう。まだその副作用が確定されたわけではないのだし。ただ、一応釘はさしておこう。
「あー、あと……その副作用がわかんない関係もあるから、ハッピーパウダーは使うなよ? 副作用が明確にわかってないドラッグは、基本的に使わない方向でいこう」
「はーい」
「了解どす」
ふたりの返事を聞いてから、具体的にどんな売人を選定すべきかの話に入った。
基本的に、売人の人物像は半グレは職がない人間が打ってつけだ。そういった連中に職を与えて、売り上げの一部をそいつに与える。売り上げをもったままバックレをしようものなら、それは世にも恐ろしい目に遭ってもらうほかない。
ただ……ハッピーフラワーの副作用が俺の予想通りの副作用であるなら、遅かれ早かれ規制の的になる。
できれば、フランの提案通りに粉屋さんでも開けたらそれが一番なんだけどなぁ。