「ボス~! 何でもっと早く教えてくれなかったの~!? わかってたなら教えてよ~ッ」
俺が葉村呉葉だとわかった瞬間から、フランはずっとこの調子でギャン泣きしている。
「いや、俺だって確信あったわけじゃないからな? 日本人の頃と全然外見ちげーし、しかも可愛いし。それで気付けってのも無理だ」
「そんなこと言ったらボスだってイケメンじゃん。前おっさんだったのに」
「おっさん言うんじゃねーッ。まだ三十過ぎたばっかのぴちぴちだわ!」
「おっさんじゃないけどボス会えて嬉しいよ~! マジで心細くて死にそうだった!」
言って、フランは俺の背中でわんわん泣き始める。
まあ心細くて死ぬ前にお前全身マシンガンで穴だらけになって死んでたけどな? というツッコミは喉元のところでギリギリ留まった。
というか、ただただ驚いた。
フランが俺と一緒に異世界転生していたことにも驚いたし、そもそも前世の頃と性格が違いすぎる。
フランは情に深い奴ではあったが、クールで冷静沈着な性格をも持ち合わせていた。こんなに喜怒哀楽をはっきり示すタイプの人間ではなかったし、そもそもギャン泣きしてるところなど初めて見た。さっき馬車で話していた時みたいにアンニュイな感じもしおらしい感じも見たことがなかった。
俺がフランだと確信するのに時間が掛かったのは、そういった側面もあったのである。
俺から見た今のフランは、フランの記憶と感情を持つが、別の外見と性格の女──そんな感じにも思える。あと、ちょっとアホそう。
「っていうかお前、ほんとにフランかよ? 俺が知ってるフランはもっとこう、クールな女だったぞ」
「ここまでちゃんと記憶持ってるんだから信じてよ。ボスが密かにギャルもの好きだったとかまで言えばいい?」
人の性癖をさらっと晒すんじゃありません。
っていうか何で知ってるんだよこいつ。まさか俺のPCの極秘フォルダを見たのか?
あっ、つーか俺が死んだらあのPCも誰かに見られるんじゃん。うわ、死にて~。死んでるけど。HDD破壊してから取引行けばよかった。
「いやまあ、さすがに信じてるけどね? でもさ、全然性格違うじゃねーか」
「だから、それでずっと悩んでるんだってば」
ようやく落ち着いてきたフランが、どこかむすっとした顔を作って言った。
本当に喜怒哀楽をはっきり出す。これはこれでちょっと面白い。
フランは不機嫌そうなまま言った。
「お前はどんな感じなの?」
「ん~、なんかふたつの記憶と性格がひとつの身体の中にあるみたいな感じ。日本にいた頃の意識とか記憶はあるんだけど、こっちのこの子の記憶とか性格もあって、全然しっくり来なかったんだよ」
「なるほどね」
そういえばさっき、『私って本当に私なのか考えちゃう』とか言ってたっけ。
あれってそういう意味だったのか。
「そういうボスは、何で性格とか変わってないの? 口調がちょっとフランクだけど、それ以外ほぼボスのまんまじゃん」
「いや、さすがにわからん、むしろ、俺はこのガキの記憶とか知識を持ち合わせてなくて、こっちの常識とか一切何もわかってなかったんだわ。森の奥でひとりっきりで生活してたみたいだし、めちゃくちゃ苦労した」
「そんな感じだったんだ~。それはそれで大変そう」
フランが感心したような様子で、うむうむと頷いた。
「そういうお前は何者なわけ? さっき魔物の討伐がどーのって言ってたけど」
「そうそう。私、魔物討伐部隊なんだ~。全然しっくり来てないんだけど、色々戦って功績上げてたみたい」
「へー? じゃあ、こっちに来ても戦闘は得意分野なんだな」
「うん、そんな感じ! チャカじゃないのがあれだけど、今度は剣でボスのこと守るよ」
フランは腰の剣をちらりと見て、どこか得意げで笑った。
こうして喜怒哀楽をはっきり出すフランも、それはそれで可愛げがあって良いかもしれない。
「フランは何かスキルとかあるわけ?」
「私? スキルなのかわかんないけど、なんか剣で必殺技みたいなの出せたよ。昨日それでモンスター倒したら、びっくりされた」
曰く、彼女は昨日も討伐依頼が出て魔物と遭遇した際に、剣を振り上げてから振り下ろしたら剣が光って衝撃波みたいになって飛んでいったのだという。
他の魔物討伐部隊に訊いてみたところ、普段フランが使っている技よりも遥かに強かったらしい。
「なるほどね。フランの特殊スキルは、その必殺技ってわけね」
「多分そうだと思う。他の人はこういう技使えないって言ってたよ」
ということは、もしかしてこのスキルは異世界転生者──の宿主になれる人間?──限定のスキル的なものなのだろうか。
俺も転生前から花を粉にして食っていたというし。
或いは、もともと特殊な力を持つ人間が異世界転生の器になりえるということなのかもしれない。
「そういうボスは? 何かスキルとかあるの?」
「俺? 俺は麻薬を一瞬で調合するスキル」
「さすがボス。日本でも異世界でも違法じゃん」
「存在が違法みたいに言うな」
俺の反論に、フランは可笑しそうに笑った。
さっきまでギャン泣きだったくせに、忙しいやつだ。
ただ、フランと出会って──再会して──俺も随分と心が軽くなったのを感じる。
やっぱり、ひとりよりも仲間がいた方が楽しい。
改めてそう思わされた瞬間だった。
俺が葉村呉葉だとわかった瞬間から、フランはずっとこの調子でギャン泣きしている。
「いや、俺だって確信あったわけじゃないからな? 日本人の頃と全然外見ちげーし、しかも可愛いし。それで気付けってのも無理だ」
「そんなこと言ったらボスだってイケメンじゃん。前おっさんだったのに」
「おっさん言うんじゃねーッ。まだ三十過ぎたばっかのぴちぴちだわ!」
「おっさんじゃないけどボス会えて嬉しいよ~! マジで心細くて死にそうだった!」
言って、フランは俺の背中でわんわん泣き始める。
まあ心細くて死ぬ前にお前全身マシンガンで穴だらけになって死んでたけどな? というツッコミは喉元のところでギリギリ留まった。
というか、ただただ驚いた。
フランが俺と一緒に異世界転生していたことにも驚いたし、そもそも前世の頃と性格が違いすぎる。
フランは情に深い奴ではあったが、クールで冷静沈着な性格をも持ち合わせていた。こんなに喜怒哀楽をはっきり示すタイプの人間ではなかったし、そもそもギャン泣きしてるところなど初めて見た。さっき馬車で話していた時みたいにアンニュイな感じもしおらしい感じも見たことがなかった。
俺がフランだと確信するのに時間が掛かったのは、そういった側面もあったのである。
俺から見た今のフランは、フランの記憶と感情を持つが、別の外見と性格の女──そんな感じにも思える。あと、ちょっとアホそう。
「っていうかお前、ほんとにフランかよ? 俺が知ってるフランはもっとこう、クールな女だったぞ」
「ここまでちゃんと記憶持ってるんだから信じてよ。ボスが密かにギャルもの好きだったとかまで言えばいい?」
人の性癖をさらっと晒すんじゃありません。
っていうか何で知ってるんだよこいつ。まさか俺のPCの極秘フォルダを見たのか?
あっ、つーか俺が死んだらあのPCも誰かに見られるんじゃん。うわ、死にて~。死んでるけど。HDD破壊してから取引行けばよかった。
「いやまあ、さすがに信じてるけどね? でもさ、全然性格違うじゃねーか」
「だから、それでずっと悩んでるんだってば」
ようやく落ち着いてきたフランが、どこかむすっとした顔を作って言った。
本当に喜怒哀楽をはっきり出す。これはこれでちょっと面白い。
フランは不機嫌そうなまま言った。
「お前はどんな感じなの?」
「ん~、なんかふたつの記憶と性格がひとつの身体の中にあるみたいな感じ。日本にいた頃の意識とか記憶はあるんだけど、こっちのこの子の記憶とか性格もあって、全然しっくり来なかったんだよ」
「なるほどね」
そういえばさっき、『私って本当に私なのか考えちゃう』とか言ってたっけ。
あれってそういう意味だったのか。
「そういうボスは、何で性格とか変わってないの? 口調がちょっとフランクだけど、それ以外ほぼボスのまんまじゃん」
「いや、さすがにわからん、むしろ、俺はこのガキの記憶とか知識を持ち合わせてなくて、こっちの常識とか一切何もわかってなかったんだわ。森の奥でひとりっきりで生活してたみたいだし、めちゃくちゃ苦労した」
「そんな感じだったんだ~。それはそれで大変そう」
フランが感心したような様子で、うむうむと頷いた。
「そういうお前は何者なわけ? さっき魔物の討伐がどーのって言ってたけど」
「そうそう。私、魔物討伐部隊なんだ~。全然しっくり来てないんだけど、色々戦って功績上げてたみたい」
「へー? じゃあ、こっちに来ても戦闘は得意分野なんだな」
「うん、そんな感じ! チャカじゃないのがあれだけど、今度は剣でボスのこと守るよ」
フランは腰の剣をちらりと見て、どこか得意げで笑った。
こうして喜怒哀楽をはっきり出すフランも、それはそれで可愛げがあって良いかもしれない。
「フランは何かスキルとかあるわけ?」
「私? スキルなのかわかんないけど、なんか剣で必殺技みたいなの出せたよ。昨日それでモンスター倒したら、びっくりされた」
曰く、彼女は昨日も討伐依頼が出て魔物と遭遇した際に、剣を振り上げてから振り下ろしたら剣が光って衝撃波みたいになって飛んでいったのだという。
他の魔物討伐部隊に訊いてみたところ、普段フランが使っている技よりも遥かに強かったらしい。
「なるほどね。フランの特殊スキルは、その必殺技ってわけね」
「多分そうだと思う。他の人はこういう技使えないって言ってたよ」
ということは、もしかしてこのスキルは異世界転生者──の宿主になれる人間?──限定のスキル的なものなのだろうか。
俺も転生前から花を粉にして食っていたというし。
或いは、もともと特殊な力を持つ人間が異世界転生の器になりえるということなのかもしれない。
「そういうボスは? 何かスキルとかあるの?」
「俺? 俺は麻薬を一瞬で調合するスキル」
「さすがボス。日本でも異世界でも違法じゃん」
「存在が違法みたいに言うな」
俺の反論に、フランは可笑しそうに笑った。
さっきまでギャン泣きだったくせに、忙しいやつだ。
ただ、フランと出会って──再会して──俺も随分と心が軽くなったのを感じる。
やっぱり、ひとりよりも仲間がいた方が楽しい。
改めてそう思わされた瞬間だった。