「ども、こんちゃーっす。ジルベットさんっすかぁ?」
教えてもらった家に行くと、ジルベットさんと思しき女性が庭先でどんよりと座り込んでいたしていた。
年は三〇歳前後だろうか。まだまだ若そうだが、雰囲気が暗いせいか年齢が五歳老けて見えている。勿体ない。
これは、俺がハッピーにしてあげなければ!
「あら。あなたは確か、森に移住した……?」
ジルベットさんは胡乱げに俺を見上げた。
俺のことを認識してはいたらしい。
「あー、そうなんすけど、実は転んだ拍子に記憶喪失になっちゃって。今はクレハって名乗って人生やり直してるんすよ」
うん。嘘は言ってない。
人生をやり直してるのも、この青年の記憶を持っていないのも嘘ではない。
「そうなんですね……クレハさん、ですか。わかりました、これからはそうお呼びしますね」
ジルベットさんは納得した様子で、力ない笑みを浮かべた。
どうやら、元気がないのは本当らしい。
「でも、どうして私の名前を知ってるんですか? 記憶を失ったんですよね? それに、もともと繋がりもありませんでしたし……」
あ、やっべ。
確かに、言われてみればそうだ。記憶喪失なのに俺がジルベットさんの名前を知ってるのは不自然だ。
「いやぁ、実はこの町に来て色んな人と話してると、何だかジルベットさんが最近元気がないって噂をよく耳にしたんすよ」
適当に思いついた嘘を並べていく。
何人かと話した感じ、この異世界の人間はそれほど疑り深いわけではない。これでも十分信じてくれるだろうし、一度ハッピーになってしまえば俺がどうしてここに来たかなんてどうでもよくなるだろう。
ハッピー万歳!
「なんかあったんすか? せっかく綺麗なのに、そんな落ち込んでじゃ勿体ないっすよ」
俺は軽い口調で早速踏み込んでみる。
「あら、綺麗だなんて……ありがとう。でも、旦那はそう思ってくれないんですよ」
一瞬だけ顔を綻ばせたが、ジルベットさんはすぐに顔を暗くした。
「旦那さんと何かあったんすか? 俺でよかったら話聞きますよ」
ほくそ笑みそうになるのを堪えて、俺は柔らかい笑みを作る。
まずは、信用されるのが第一。
悩みを聞き出すことが先決だ。
「こんなおばさんの話を聞いてくれるなんて、優しいんですね。よかったら上がって下さい。お茶を出しますね」
ジルベットさんは少しだけ表情を明るくして、家の中に入るように促した。
「あざーっす」と笑って、遠慮なく家に上がらせてもらう。
ジルベットさんがお茶を入れてくれている間、部屋をきょろきょろと見回した。
家の中は綺麗に整頓されている反面、どこか物悲しい雰囲気が漂っていた。
家は周囲の家に比べるとかなり大きくて、家の中には高そうなものもある。主婦だというし、もしかして結構金持ちなのだろうか?
ジルベットさんはすぐに居間まで戻ってきて、俺の前にティーカップを置いた。
紅茶の香りが鼻を擽る。爺さんが淹れてくれた紅茶とは全然香りが違った。
「そんで、旦那さんがどうしたんすか?」
「それが……」
ジルベットさんは詳しい状況を話してくれた。
まあ、ここまでの発言である程度予想はついていたけれど、旦那の浮気が原因で病んでいたようだ。
旦那は王都によく行き来している大きな商会に勤める行商人で、キャラバンのリーダー格らしい。日本で言うと部長クラス。
そんな旦那が、最近殆ど家に帰ってこないらしい。ジルベットさんが不自由なく暮らせるだけの生活費だけを置いて、とっとと出て行ってしまうのだと言う。
不審に思ったジルベットさんは、商会の彼の部下に問い詰めてみたところ、旦那さんが隣町の若い娘と浮気をしていることが判明した。
しかし、ジルベットさんは専業主婦で旦那に全て面倒を見てもらっている身。どうすることもできず、ただただこうして病んでいるようだった。
「浮気っすかぁ。こんな綺麗な奥さんほったらかして、そいつは悪い旦那っすね~」
「そうでしょ!? 私はずっとあの人の言うことを聞いて、こうしていつでも帰って来れるように家を整えているのに、浮気だなんて」
「いやぁ、ほんとっすよ。最低だその旦那は」
俺は神妙そうにうむうむと頷きながら、奥さんの共感を得ていく。
よかった。異世界と雖も、同じ人間であることには変わりない。
殆ど悩むポイントも現世と同じようだ。それなら、色々とやりようがある。
「で、ジルベットさんは今めちゃくちゃ悲しんでる、と」
「はい……」
「それなんですけどね、ジルベットさん。俺はその旦那さんのことはどうもしてあげられないんすけど、ジルベットさんが今持ってる悲しみみたいなのは消してあげられるんですよね」
「悲しみを消す? そんなこと……って、もしかして、えっちなことしようとしてませんか!?」
ジルベットさんは何かを勘違いしたいのか、顔を赤らめて自らの胸を守るようにして胸部を両手で覆って、身体を背けた。
「違う! そういうんじゃない! そういう不埒なことはしません!」
「あ、違うんですね……」
少し残念そうにするジルベットさん。何で残念そうなんだよ。
欲求不満なのか?
あ、違うか。旦那に裏切られて、復讐したいとかそういう気持ちなのかもしれない。
それなら俺も色々やりようがある。
思わずほくそ笑みそうになるのを堪えて、俺は鞄からハッピーパウダーを取り出した。
教えてもらった家に行くと、ジルベットさんと思しき女性が庭先でどんよりと座り込んでいたしていた。
年は三〇歳前後だろうか。まだまだ若そうだが、雰囲気が暗いせいか年齢が五歳老けて見えている。勿体ない。
これは、俺がハッピーにしてあげなければ!
「あら。あなたは確か、森に移住した……?」
ジルベットさんは胡乱げに俺を見上げた。
俺のことを認識してはいたらしい。
「あー、そうなんすけど、実は転んだ拍子に記憶喪失になっちゃって。今はクレハって名乗って人生やり直してるんすよ」
うん。嘘は言ってない。
人生をやり直してるのも、この青年の記憶を持っていないのも嘘ではない。
「そうなんですね……クレハさん、ですか。わかりました、これからはそうお呼びしますね」
ジルベットさんは納得した様子で、力ない笑みを浮かべた。
どうやら、元気がないのは本当らしい。
「でも、どうして私の名前を知ってるんですか? 記憶を失ったんですよね? それに、もともと繋がりもありませんでしたし……」
あ、やっべ。
確かに、言われてみればそうだ。記憶喪失なのに俺がジルベットさんの名前を知ってるのは不自然だ。
「いやぁ、実はこの町に来て色んな人と話してると、何だかジルベットさんが最近元気がないって噂をよく耳にしたんすよ」
適当に思いついた嘘を並べていく。
何人かと話した感じ、この異世界の人間はそれほど疑り深いわけではない。これでも十分信じてくれるだろうし、一度ハッピーになってしまえば俺がどうしてここに来たかなんてどうでもよくなるだろう。
ハッピー万歳!
「なんかあったんすか? せっかく綺麗なのに、そんな落ち込んでじゃ勿体ないっすよ」
俺は軽い口調で早速踏み込んでみる。
「あら、綺麗だなんて……ありがとう。でも、旦那はそう思ってくれないんですよ」
一瞬だけ顔を綻ばせたが、ジルベットさんはすぐに顔を暗くした。
「旦那さんと何かあったんすか? 俺でよかったら話聞きますよ」
ほくそ笑みそうになるのを堪えて、俺は柔らかい笑みを作る。
まずは、信用されるのが第一。
悩みを聞き出すことが先決だ。
「こんなおばさんの話を聞いてくれるなんて、優しいんですね。よかったら上がって下さい。お茶を出しますね」
ジルベットさんは少しだけ表情を明るくして、家の中に入るように促した。
「あざーっす」と笑って、遠慮なく家に上がらせてもらう。
ジルベットさんがお茶を入れてくれている間、部屋をきょろきょろと見回した。
家の中は綺麗に整頓されている反面、どこか物悲しい雰囲気が漂っていた。
家は周囲の家に比べるとかなり大きくて、家の中には高そうなものもある。主婦だというし、もしかして結構金持ちなのだろうか?
ジルベットさんはすぐに居間まで戻ってきて、俺の前にティーカップを置いた。
紅茶の香りが鼻を擽る。爺さんが淹れてくれた紅茶とは全然香りが違った。
「そんで、旦那さんがどうしたんすか?」
「それが……」
ジルベットさんは詳しい状況を話してくれた。
まあ、ここまでの発言である程度予想はついていたけれど、旦那の浮気が原因で病んでいたようだ。
旦那は王都によく行き来している大きな商会に勤める行商人で、キャラバンのリーダー格らしい。日本で言うと部長クラス。
そんな旦那が、最近殆ど家に帰ってこないらしい。ジルベットさんが不自由なく暮らせるだけの生活費だけを置いて、とっとと出て行ってしまうのだと言う。
不審に思ったジルベットさんは、商会の彼の部下に問い詰めてみたところ、旦那さんが隣町の若い娘と浮気をしていることが判明した。
しかし、ジルベットさんは専業主婦で旦那に全て面倒を見てもらっている身。どうすることもできず、ただただこうして病んでいるようだった。
「浮気っすかぁ。こんな綺麗な奥さんほったらかして、そいつは悪い旦那っすね~」
「そうでしょ!? 私はずっとあの人の言うことを聞いて、こうしていつでも帰って来れるように家を整えているのに、浮気だなんて」
「いやぁ、ほんとっすよ。最低だその旦那は」
俺は神妙そうにうむうむと頷きながら、奥さんの共感を得ていく。
よかった。異世界と雖も、同じ人間であることには変わりない。
殆ど悩むポイントも現世と同じようだ。それなら、色々とやりようがある。
「で、ジルベットさんは今めちゃくちゃ悲しんでる、と」
「はい……」
「それなんですけどね、ジルベットさん。俺はその旦那さんのことはどうもしてあげられないんすけど、ジルベットさんが今持ってる悲しみみたいなのは消してあげられるんですよね」
「悲しみを消す? そんなこと……って、もしかして、えっちなことしようとしてませんか!?」
ジルベットさんは何かを勘違いしたいのか、顔を赤らめて自らの胸を守るようにして胸部を両手で覆って、身体を背けた。
「違う! そういうんじゃない! そういう不埒なことはしません!」
「あ、違うんですね……」
少し残念そうにするジルベットさん。何で残念そうなんだよ。
欲求不満なのか?
あ、違うか。旦那に裏切られて、復讐したいとかそういう気持ちなのかもしれない。
それなら俺も色々やりようがある。
思わずほくそ笑みそうになるのを堪えて、俺は鞄からハッピーパウダーを取り出した。